第33話 はむぶの元日…さいきょーかんぱってなに?たべられるの?
1月1日
――最強寒波、継続中
元日。
新潟市中央区は、昨日に引き続き、完全に雪に封鎖されていた。
気温は依然として氷点下。
最強寒波は日本列島をすっぽり覆い、
新潟市内には断続的に顕著な大雪に関する気象情報が出続けている。
除雪は追いつかず、
公共交通機関は間引き運転。
「不要不急の外出は控えてください」という言葉が、
朝のニュースで何度も繰り返された。
――当然、部活動など論外である。
それでも。
新潟中央女子学園・はむぶの面々は、
それぞれの場所で、
それぞれの「元日」を迎えていた。
■ 白根彩鼓(3年)
――屋外活動、不可
「……さすがに、今日は無理か」
白根彩鼓は、実家・白根電波工房の窓越しに、
完全に吹雪いた空を見上げていた。
昨日まで「屋根に登る気満々」だったが、
今朝の風雪は、さすがに常識を上回っている。
「珍しいね。自制してる」
背後から父親が言う。
「だってさ、今日これ登ったらニュースになるでしょ」
「その自覚があるなら昨日から持て」
彩鼓は素直に室内に留まり、
無線機の前に座った。
最強寒波の影響で、
短波帯は妙に賑やかだ。
「……あ、北欧局出てる」
初日の出は見えないが、
電波だけは、確かに世界とつながっていた。
■ 西蒲真宵(2年)
――物理的にツッコめない
西蒲真宵は、実家の居間で、
ストーブの前から一歩も動いていなかった。
外は、完全にホワイトアウト。
「……これ、仮に彩鼓が屋根登ってても、
止めに行けないやつだよね」
スマホを操作し、部内チャットを見る。
『今日はさすがに屋外禁止』
即レスが返る。
『了解!(屋内実験に切り替え)』
「方向性が違う……」
だが、
物理的に移動できない以上、
チャットでツッコミを入れるしかない。
真宵は、
最強寒波が「彩鼓を止める役割」を
ある程度果たしてくれていることに、
少しだけ感謝した。
■ 月潟澄香(2年)
――財閥令嬢の元日(隔離)
月潟家の新年行事は、
例年とは大きく様子が違っていた。
最強寒波の影響で、
来客は最小限。
対面の挨拶は縮小され、
多くはオンラインに切り替えられている。
それでも、
澄香は和装に身を包み、
画面越しに丁寧に頭を下げた。
「本年も、どうぞよろしくお願いいたします」
礼儀は、省略されない。
(部室、寒いだろうな……)
ふと、はむぶの部室を思い出す。
今日は誰も行けない。
行ってはいけない。
その事実が、
不思議と澄香を安心させていた。
■ 中条みなみ(1年)
――アイドル、生放送(室内)
地元テレビ局のスタジオは、
外の吹雪が嘘のように暖かかった。
「新年あけましておめでとうございます!」
元日生放送。
中条みなみは、いつも通り完璧な笑顔でカメラを見つめる。
交通状況のテロップには、
“最強寒波の影響で交通網に乱れ”
の文字。
楽屋では、
「今日帰れるの?」という声も聞こえていた。
(帰れなくても、まあ……)
バッグの中のハンディ機に触れ、
みなみは少しだけ落ち着く。
どこにいても、
電波は届く。
■ 寺尾華(1年)
――閉じ込められ系元日
寺尾華は、
完全に家から出られなくなっていた。
「……これ、雪国イベント?」
玄関を開けた瞬間、
雪の壁。
そっと閉める。
「……今日は無理だね」
スマホを見ると、
部内チャットも静かだ。
誰も動けない。
誰も集まれない。
華はこたつに戻り、
ハムを焼いた。
非常時でも、
食生活は重要である。
■ 島見杏果(OG)
新潟市東区。
島見杏果はニュースを見て、眉をひそめた。
「1月2日まで、か……」
最強寒波は、
まだ居座るらしい。
スマホを手に取り、
短く送る。
『今日は全員、無理だな』
返事はすぐに来た。
『安全第一』
「……珍しく全会一致だ」
杏果はミカンを剥きながら、
遠くの後輩たちを思った。
元日。
部室は閉ざされ、
人は集まらない。
だが、
雪雲の向こうで、
電波は飛び続けている。
最強寒波が去るまで、
あと一日。
――それが、
最強寒波下の、はむぶの元日だった。




