第31話 「12月の誤算 *なお犯人はお前だ!」
◆12月2日──期末試験の影が迫るハム部
冬の冷え込みが本格化し、学校全体が「期末試験前恒例・全員の心ここにあらず週間」に突入していた。
ハム部の部室でも、彩鼓・華・みなみ・澄佳・真宵の五人が、珍しく静かに勉強して──いるフリをしていた。
そんな中、彩鼓が突然教科書を閉じて宣言した。
「──ねえ、十二月ってさ!」
四人は同時に思った。
(また始まった……)
「十二月といえば……誕生日会!!」
「いきなり!?」と華。
「何その脈絡ゼロワード……」と澄佳。
真宵は「えぇ……」と心の準備が追いつかず、みなみは「で、誰が十二月なんすか?」と現実的な質問を投げた。
彩鼓は胸を張って言う。
「島見先輩だよ!」
「いや違いますよ?」
みなみと澄佳のツッコミが同時に入る。
「島見先輩、十一月二十七日ですよ。広報にも載ってました」と澄佳。
「てか先週祝いましたよね?」とみなみ。
「え……あれそうだったっけ……?」
彩鼓の目が泳ぐ。
(こいつ……絶対適当に言った……)
四人は悟った。
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◆五人全員の心が一つになる瞬間
「ていうか彩鼓さん、最初から“クリスマスパーティーやりたーい”って言えばいいのでは?」と澄佳。
みなみも頷く。
「ですよねぇ? なんで誕生日会の名目にこだわるの?」
「…………だってその方が誘いやすいじゃん!!」
彩鼓の涙目の叫びに、全員が心の中で同じツッコミをした。
(素直に言えよ!!!!!)
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◆しかし企画は進む(雑に)
「でもさ、島見先輩呼ぶなら理由が必要だよね」と華。
「“相談があります”とかにする?」とみなみ。
「あぁ、それなら来てくれるかも……」
「島見先輩、頼られると弱いですし……」
「倫理観の塊だからな……」
島見杏果……
長野総合通信局の若手職員にして、ハム部と妙に縁のある“お姉さん的存在”。
しかし真面目すぎるのが弱点。
「よし! では12月24日に、相談ってことで呼ぼう!!」
彩鼓は拳を突き上げた。
「クリスマスイブに!?」 「ガチの当日!?」 「絶対予定ないと思ってるでしょ……」 「島見先輩に謝ったほうが……」
「いや大丈夫! 島見先輩、イブに予定あるタイプじゃないから!!」
全員の心が再び一つになった。
(お前が一番ひどい)
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◆12月24日──長野から呼び出された女
島見杏果、20歳。
仕事納めにはまだ早いのに、なぜかイブに新潟へ呼び出されていた。
「……で、相談ってなんなんだ?」
部室に入った途端、島見は絶句した。
ツリー。
サンタ帽。
ココア。
ケーキ。
クラッカー。
ついでに真宵が既にトナカイカチューシャを装備していた。
「おまえら……」
島見の眉が一瞬で吊り上がる。
「……これ、相談じゃねぇよな?」
「いえ! 相談です!!」
「メンタル的な!!」
「季節性の悩みが!!」
「冬特有の!!」
「澄佳ちゃん! つっこんでぇ!!」と彩鼓。
澄佳は冷静に言った。
「彩鼓さん、正直に“クリスマス会がしたいです”と言ってもらえませんか?」
「おまっ! 言うなよ澄佳ぁ!!」
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◆天然の華、爆弾を投下する
ケーキを切り分けながら、華が何気なく尋ねた。
「島見先輩って……イブなのに彼氏さんとデートなかったんですか?」
部室の空気が一瞬で無音になった。
「……は?」
島見が静かに振り返る。
「い る わ け ね ー だ ろ !!!」
机が揺れた。
「ひぃっ……!」と華が縮こまり、
「わ、わかってたけどぉ……」とみなみ、
澄佳は「ですよねぇ……」と呟き、
真宵は“あ、今日は怒ってるな”という顔で逃げ場を探した。
島見は顔を真っ赤にしながら言う。
「彼氏以前に、まず仕事してんだよ私は!!
それを! おまえらが“相談があります~”とか言うから!
来たらこの有り様だよ!!」
「す、すみません先輩……!」
「悪気はないんです……!」
「あるのは彩鼓だけ……!」
「ちょっと!!?」と彩鼓。
島見は盛大にため息をつく。
「まぁ……来たからには、参加するけどさ……」
その瞬間、部室がぱぁっと明るくなった。
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◆そして、あの話題に触れた瞬間
ココアを飲みながら、島見はふと視線を動かす。
「……で、なんだったんだ?
“十二月生まれ探し”って話」
華が答える。
「彩鼓が、島見先輩が十二月生まれだって言い出して……」
「はぁ?」
「で、誕生日会を……」
「はぁ???」
島見のこめかみがピクッと動く。
「彩鼓、お前さ……」
「…………はい……」
「お前が私を十二月生まれだってデマ流したんだろ?」
「…………はい……」
島見は深く息を吸った。
「──彩鼓、お前だよ十二月生まれは!!」
「へっ?」
「お前、入学した時に言ってたじゃないか!!
“私、皇后陛下と同じ誕生日なんです!”って!」
部室の全員が固まった。
「皇后陛下……?」
「誕生日って……」
「まさか……」
「十二月九日……!」
「彩鼓さん……?」
彩鼓の顔が真っ赤になる。
「わ、忘れてた……!!!」
「忘れるなぁぁぁぁ!!」
島見の怒号が響く。
「自分が十二月九日なのに“十二月生まれがいない~”って探してたのか!!」
「だって……! なんか……! クリスマスが近いと……!
誕生日って影薄くて……!」
「知らんわ!!!」
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◆彩鼓、正座
一時間後。
彩鼓はケーキ皿を前に正座していた。
島見は腕を組んで説教中。
「つまり、お前は──
クリスマス会をしたくて──
自分の誕生日を忘れて──
私を巻き込み──
後輩たちも巻き込み──
最終的に自分の誕生日会にしてしまったわけだな?」
「……はい……」
「皇后陛下と同じ誕生日を忘れる奴がいるか!!」
「……すみません……」
華たちは後ろでこそこそ話していた。
「彩鼓、ガチでポンコツだったんだ……」
「いや知ってたけど……今日で確信したよね」
「かわいい……けど……」
「え、かわいい……?」
「おい、後ろで何コソコソ言ってんだ!」と島見。
「すみません!!!」全員直立。
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◆最後は笑って終わるクリスマスイブ
最終的には、島見も笑いながらケーキを食べ、
「……まぁ、お前らと過ごすイブも悪くねぇけどな」
と照れくさそうに呟いた。
それを聞いた彩鼓が号泣する。
「島見先輩~~~!!!」
「泣くな、うっとうしい!!」
部室は最後までドタバタだった。
帰り際、華がぽつりとつぶやく。
「そういえば島見先輩……本当に彼氏いないんですか……?」
「黙れっつってんだろ!!!!」
新潟の冬空に、島見の叫びが吸い込まれていった。




