第29話 作戦会議!工夫で勝負
産業振興センターの展示ホールに入場者の波が押し寄せるなか、新潟中央女子学園ハム部のブースはまだ静かだった。隣では、江南実業高校のブースがすでに派手なデモを始め、人垣ができつつある。大画面モニターに世界地図が映し出され、交信記録をリアルタイムでマッピングして見せているのだ。
「うわぁ、すごい人……」
寺尾華が思わず声を上げた。
「なんか見た目からしてプロっぽい。あれじゃ、こっちが地味に見えちゃうよ」
「彩鼓、どうするの?」
西蒲真宵が焦った表情で問いかける。
「このままじゃ、完全に客を持っていかれる」
「落ち着いて」
部長の白根彩鼓は、机に手をついて深呼吸した。
「大事なのは“うちにしかできないこと”を見せること。派手さで勝負するんじゃない」
「でも具体的にどうするの?」
華が首をかしげる。
そこで月潟澄佳が手を挙げ、冷静に提案した。
「交信体験をもっと前に出しましょう。来場者に実際にマイクを握ってもらい、呼びかけをしてもらうのです。交信相手は私たちがフォローすれば安心ですし、何より“自分で体験した”というインパクトがありますわ」
「なるほど!」
華がぱっと笑顔を見せた。
「やっぱり無線はしゃべってなんぼだもんね!」
「さらに」
真宵が続ける。
「QSLカードをその場で作って渡すっていうのはどう? 名前を書いて、今日の交信体験記念ってスタンプ押して……。ちょっとしたお土産になるし」
「それいい!」
華が手を叩いた。
「カード作るの楽しいし、SNSにあげてもらえるかもしれない!」
みんなの顔が明るさを取り戻したところで、彩鼓が腕を組んでうなずいた。
「よし、方針決定。無線体験と記念カードで勝負する!」
すぐに準備が始まった。
華は特定小電力無線局のマイクを手に、来場者を呼び込む練習をする。
「えっと……『体験交信できますよ! 一緒に声を出してみませんか?』こんな感じでどう?」
「元気いっぱいでいいと思う」
真宵が笑ってうなずく。
「でも初心者がマイク持つと緊張するから、横で優しくサポートしてあげようね」
その頃、澄佳は机の片隅にインスタントカメラと色ペンを並べていた。
「QSLカードは即席で作りますわ。写真を撮って、日付とコールサインを書き込んで……その場で渡す。思い出に残りますわね」
準備が整ったちょうどその時、一人目の来場者がブースに足を止めた。小学校低学年くらいの男の子で、母親と一緒だ。
「こんにちは!」
華が満面の笑顔で迎える。
「無線交信の体験、してみませんか?」
「え、無線って?」
母親が首をかしげる。
「電話みたいなもの?」
「そうです。声を電波にのせて、遠くにいる人とお話できるんです!今回は資格の要らない無線を使っているので、よろしければどうぞ。」
華は男の子にマイクを差し出した。
「よかったら、一言だけ呼びかけしてみませんか?」
男の子はおずおずとマイクを握りしめ、「こ、こんにちは」と声を出した。すぐに部室で待機していた真宵が応答する。
「こちら新潟中央女子学園ハム部、聞こえていますよ! こんにちは!」
「わぁ! 聞こえた!」
男の子は目を輝かせた。母親も驚いたように笑顔を見せる。
「はい、記念にQSLカードどうぞ」
澄佳が用意していたカードに写真を貼り、男の子の名前を書いて手渡した。
「今日の交信体験の証明書ですわ」
「ありがとうございます!」
母子は大喜びでカードを受け取り、そのままスマホで写真を撮ってSNSに投稿していた。
「よし、最初の一歩は大成功だ!」
華がガッツポーズをする。
その後も次々と親子連れや学生が足を止め、体験交信に挑戦していった。QSLカードをもらった人々は嬉しそうに笑顔を見せ、口コミのように「無線体験できるよ!」と広めてくれる。気づけばブースの前には列ができていた。
「すごい、人が増えてきた!」
真宵が嬉しそうに声を上げる。
「お隣の江南実業も派手だけど、うちも負けてない!」
彩鼓はちらりと隣のブースを見やった。確かに江南実業は最新機材で注目を集めていたが、人の流れは明らかに分散している。しかも体験型の盛り上がりは、中央女子のほうが強い。
「ふふっ……」
彩鼓の口元に笑みが浮かんだ。
「紗友里、思い通りにはさせないよ」
その時、澄佳がさらりと言った。
「ところで彩鼓さん、彼女がまたこちらに来ると思いますわよ。勝負を挑んだ以上、結果を見にこないわけにはいかないでしょうし」
「……だろうね」
彩鼓は姿勢を正した。
「そのときは、胸を張って言ってやる。私たちのブースは“人を笑顔にした”って」
作戦は順調に進んでいた。だが、この文化祭決戦はまだ始まったばかりだった──。




