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第28話 県総文祭決戦の火ぶた

 夏の喧騒が過ぎ去り、九月も下旬。新潟中央女子学園ハム部の面々は、いつものように部室に集まっていた。机の上には、最近購入したばかりの新しいQSLカードのデザイン案や、展示に使うアンテナ模型が並んでいる。


「ねえ、みんな聞いた?」

 副部長の西蒲真宵が開口一番、声を潜めて切り出した。

「今年の県高総文祭、新潟市の産業振興センターで開催されるんだって。で、うちのハム部もブースを出すことになったらしいよ」


「えっ、本当?」

 白根彩鼓が目を丸くする。部長として文化祭の準備には気を配っていたが、まさか県全体の総合文化祭までとは思っていなかった。


「学校からの正式な通知、今日のホームルームであっただろ。顧問の青山先生が『せっかくだから実演してきなさい』ってさ」

 寺尾華が説明しながら、部室の隅に置いてあるモービル機を軽く叩いた。

「つまり、実際に無線を使ったデモンストレーションをするわけ。やる気出るよね!」


「でもさぁ……」

 彩鼓は腕を組んでうつむく。

「県高総文祭ってことは、例の江南実業高校の無線部も来るんでしょ?」


 その言葉に、空気がぴんと張りつめた。部員全員が思い出す。白根電波工房の宿敵ともいえる「亀田ムセン」の令嬢にして、江南実業無線部長・亀田紗友里の存在を。


「うん……確実に来るだろうね」

 真宵が苦笑混じりにうなずく。

「しかもさ、あの子、絶対また彩鼓にマウント取りにくるよ」


「まあまあ」

 月潟澄佳がカップに入れた麦茶を差し出しながら、いつもの落ち着いた口調で諭す。

「今回は公式行事ですし、向こうもそう簡単には無茶を言えないはずですわ」


 ところが、そう思ったのも束の間だった。


 ──総文祭当日。

 産業振興センターの展示ホールは朝から高校生たちの熱気で満ちあふれていた。演劇、吹奏楽、美術、茶道、科学部……それぞれのクラブが工夫を凝らしたブースを並べ、来場者を引き寄せている。


 新潟中央女子学園ハム部のブースは、入口から少し奥まった場所にあった。机の上にはFTM-510Dを中心とした無線機、簡易アンテナ、QSLカード。初心者でも楽しめるように「交信体験コーナー」や「コールサインを作ってみよう」という手作りポスターも掲げられている。


「よし、準備完了!」

 華が元気いっぱいに手を叩く。

「今日はいろんな人にアマチュア無線の魅力を知ってもらうんだ!」


 ところが、隣のブースを見た瞬間、彩鼓は嫌な予感を覚えた。

 そこに並んでいたのは最新鋭のHFリグや巨大なアンテナ模型、派手なフルカラーのパネル群。機材も展示も桁違いに豪華だ。その真ん中に立つのは、やはり亀田紗友里だった。


「やっぱりいたか……」

 彩鼓がぼそっとつぶやいた瞬間、紗友里がにやりと笑いながら近づいてきた。


「ごきげんよう、白根さん」

 わざとらしく上品な口調で挨拶する。

「お互い文化祭とはいえ、隣同士になるなんて奇遇ね。せっかくだから……ひとつ勝負しない?」


「勝負?」

 彩鼓の眉がぴくりと動く。


「そう。どちらのブースに多く人を集められるか。動員数で競いましょう」

 紗友里は勝ち誇ったように胸を張った。

「もちろん、不公平な手はナシよ。……たとえば、そっちの“現役アイドル”を宣伝に使うとかね」


 その言葉に場が凍りついた。視線は自然と中条みなみへ。ドッペル坂16のメンバーであり、いまや新潟でも全国でも知名度急上昇中の彼女。

「え、えっと……」

 みなみは困惑したように手を振った。

「私は今日は裏方でサポートするだけだし……でも、そういうことなら、出しゃばらないほうがいいかな」


「ふん、やっぱり。さすがにズルはしないわよね?」

 紗友里は鼻で笑い、再び自分のブースに戻っていった。


「……なんだよあれ!」

 彩鼓が拳を握りしめる。

「最初からケンカ売る気満々じゃないか!」


「まあまあ」

 澄佳が宥める。

「確かに挑発的ですが、逆にチャンスですわ。ここは私たちの“工夫”で勝ちましょう」


「そうだよ!」

 華が力強くうなずいた。

「アイドルの力がなくても、私たちの無線の魅力はちゃんと伝えられるはず! 交信体験とか、きっとみんな楽しんでくれるよ」


「……うん、そうだね」

 彩鼓は深呼吸して気持ちを落ち着けた。

「だったら、やるしかない。絶対に負けたくない!」


 こうして、新潟中央女子学園ハム部と江南実業無線部との因縁の文化祭決戦が幕を開けた。

 来場者をどれだけ引きつけられるか──その火ぶたが、静かに切られたのだった。

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