第25話 テレビに出た先輩
10月23日、日曜日の朝。
新潟のローカル番組『えちごのいちご』がスタートした。週末のお茶の間を和ませる情報番組だが、この日、ハム部の四人は偶然にも全員、自宅で同じテレビを見ていた。
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しろね電波工房・白根家
「さーて、『みさきの1日〇〇』。今回はみさきは国家公務員になっちゃいました!」
彩鼓は味噌汁をすすりながらテレビを見やる。実家の通信機販売店の食卓には、父・徳造も座っていた。
「お、ドッペル坂16か。父ちゃんもこの子ら好きなんだろ?」と母が冷やかす。
「ち、違うわ!俺が好きなのは“技術”だ、“技術”!」と徳造は慌てて新聞をめくる。
画面に登場した大山みさきは満面の笑みで宣言する。
『今回はなんと!一日長野総合通信局長をやらせていただきまーす!』
「はあ!?なんで通信局長!?」
彩鼓は吹き出しそうになった。
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西蒲家・真宵
「……地味すぎだろ、そのチョイス」
真宵は煎餅をぼりぼり食べながら呟いた。
番組は通信局庁舎の紹介から始まり、無線設備や周波数の監視について分かりやすく解説している。
真宵は一応理解しながらも「まあ、普通の人はピンと来ないよな」と苦笑する。
ところが――。
画面に映った説明役の女性を見た瞬間、真宵の口から煎餅の欠片が飛び出した。
「……島見先輩じゃん!」
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月潟邸・澄佳
瀟洒なリビングのテレビを前に、澄佳は目を見開いていた。
「ほんとうに……杏果先輩だわ」
落ち着いた紺色のスーツ姿で現れた島見杏果は、みさきにマイクを向けられると、真剣な表情で答えていた。
「電波は私たちの生活に不可欠なインフラです。正しい利用を監視するのが、私たち通信局の使命なんです」
その堂々とした姿は、在学中に「部を復活させる」と力強く語っていた先輩の面影そのものだった。
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寺尾家・華
華はトーストをかじりながら、テレビに見入っていた。
「杏果先輩……」
次に画面が切り替わると、移動監視車が登場。大山みさきが「これって走る秘密基地みたい!」と大はしゃぎしている。
そして、その助手席で説明をしているのは――見覚えのある人物。
「……戸隠さん!」
華は思わず立ち上がった。
かつて彼女たちが遭遇した“怪しい電波”の件で一度顔を合わせた、長野総合通信局電波監視課の戸隠弘明だった。
画面のテロップには「電波監視課の係長」と出ている。
「いやぁ、うちは昼行灯みたいなもんですからねぇ」とヘラヘラ笑っていたが、その直後、波形モニターに目を落とした瞬間、鋭い光を宿した眼差しに変わる。
「……やっぱりすごい人だ」
華はごくりと唾を飲んだ。
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コーナーの締め
コーナーの終盤、大山みさきは長野総合通信局の面々の前に
『見えない電波を守る、皆さんの使命がよーく分かりました!』
笑顔でまとめるその横に、島見杏果と戸隠弘明の姿が映っていた。
四人の部員はそれぞれの家で、胸の奥に熱いものを感じていた。
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午後のグループLINE
彩鼓「みんな見た!? 先輩テレビデビューだよ!」
真宵「みさきちゃんより杏果先輩の説明のほうが分かりやすかった」
澄佳「戸隠さんも出てたわね。“昼行灯”ってそのままのキャラ……」
華「でも、かっこよかった。電波を守るって、ほんとに最前線なんだ」
4人はそれぞれの感想を言い合いながら、かつての先輩が確かに社会で戦っていることを実感するのだった。




