第22話 「ステージと学校の間で」
10月に入り、新設された芸能コースに編入した中条みなみは、目まぐるしい日々を送っていた。
平日は授業の合間に歌やダンスのレッスン、週末には地方のショッピングモールやイベントステージでのライブ出演。ドッペル坂16の一員として、またソロ活動の候補生としても期待されている彼女は、学園でもちょっとした有名人になっていた。
だが――ハム部の仲間たちにとっては、ステージ衣装の彼女より、部室で笑顔を見せる“後輩みなみ”の方が大切だった。
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◆スケジュールのすれ違い
「ごめん……! 今日も部活出られなくなっちゃった」
昼休み、みなみは彩鼓たちに頭を下げる。
「今週末、東京で握手会があるって急に決まっちゃって。練習時間も増えてて……」
「いいのよ」澄佳がやわらかく微笑む。
「芸能活動が本業なんだから。無理に部活を優先する必要はないわ」
だが、華は少し寂しそうに机を見つめた。
「でも……せっかくみなみちゃんもオペレーターになれるって分かったのに。部室で一緒に無線できるの、楽しみにしてたから」
「……華ちゃん」
みなみは胸がきゅっと締め付けられる思いがした。
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◆文化祭の余波
さらに問題は文化祭後の学園内にもあった。
ドッペル坂16のライブを成功させたことで、芸能コースと普通科との間にちょっとした溝ができていたのだ。
「アイドルだから特別扱いだよね」
「授業も欠席多いのに単位取れるの?」
そんな陰口が聞こえてくる。
ある日、廊下で上級生に冷ややかに見られ、みなみが俯いていたとき――。
「おい、何見てんだ」
真宵が横から割り込んできて、にらみをきかせた。
「部員を悪く言うやつは、あたしが許さねぇ」
その一言に救われ、みなみは小さく「ありがとう」と呟いた。
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◆すれ違いとフォロー
部室に顔を出す時間は減ったものの、ハム部はみなみを責めることはなかった。
彩鼓は「出演情報を部員専用カレンダーに書き込んでおこう」と提案し、真宵は「ステージの合間にLINEで部活の報告する」とフォロー。澄佳は「時間が合えば配信で応援できるわ」とタブレットを持ち込み、華は「空いたときにオペレーター練習しよう」と言ってくれた。
「……こんなに支えてくれるなんて」
みなみは胸が熱くなった。
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◆予想外のハプニング
十月のある土曜日。
東京でのライブ直前、ステージ用のマイクにトラブルが発生した。控室は一瞬ざわめき、スタッフが慌てる。
そのとき、みなみの脳裏に浮かんだのは部室での時間だった。
彩鼓たちと一緒にリグを調整したり、接触不良を直したり。
「ケーブルチェック! コネクタ確認します!」
咄嗟に口にし、慣れた手つきで確認したみなみは、原因を突き止めてスタッフに伝えた。
「すごいな、君」
感心したスタッフに「部活で少し無線機を触ってるだけです」と答えながら、みなみは笑った。
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◆部室にて
翌週の放課後。
「聞いたぞ! 東京で機材トラブル直したんだってな!」
真宵が興奮気味に話を持ち込むと、みなみは照れながら頷いた。
「たまたま無線部での経験が役立っただけで……」
「でも、それが大事なのよ」澄佳が言葉を重ねる。
「芸能活動とハム部、どちらもみなみの一部。両方が支え合っているんだわ」
「……うん!」
みなみは強く頷いた。
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◆それぞれの居場所
その日の夕暮れ、部室に流れるのはFTM-510Dの受信音。
オペレーター席に座った華の隣に、制服姿のみなみが腰を下ろす。
「今日は少しだけど、ここにいられてよかった」
彼女のその言葉に、彩鼓たちは自然と笑顔になった。
ステージでも、学校でも――みなみには居場所がある。
そう確信できた一日だった。




