第14話「ポッポ焼きと小さな声と、夏の入り口」
■1. 期末テスト終了と“約束”
6月30日昼前。
最後のチャイムが鳴り終わると同時に、4人は各教室から飛び出し、部室に集まった。
彩鼓:「終わったぁぁ! もう知らん!」
澄佳:「解答速報見る勇気ある人いる?」
真宵:「むしろ“速報”を見た瞬間に“即死”って感じだよね」
華:「とりあえず、生きてるからOK。次は祭りだよね?」
窓の外には、曇天を透かすかすかな西日。
華は浴衣の柄を迷っていた話を切り出すと、彩鼓が「私、今年は紺地の金魚!」と嬉しそうに言った。
澄佳:「みんなで行こうね。去年はテスト明け即雨だったし」
真宵:「ポッポ焼きとチョコバナナと、あとイカ焼きはマスト」
女子高生たちの“期末明けのお祭り計画”が着々と進んでいた。
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■2. 蒲原まつりの夜
7月1日 蒲原まつり2日目。
新潟駅万代口から降りると、人波に押されるように栗ノ木バイパス方面へ。
彩鼓:「うわ、人やばっ! 450軒って言うけど、全部混んでる……」
澄佳:「この人混み、逆に好きになってきた自分がいる」
真宵:「流れに身を任せれば、いつかポッポ焼きにたどり着ける……」
華:「ていうか、あそこ見て! 並んでる! ポッポ焼き!」
蒸気に包まれた鉄板の上、黒糖の香ばしさが一帯に立ち込める。
ポッポ焼きを受け取った4人は、手で熱さを逃がしつつ頬張る。
彩鼓:「あぁ~~……これこれ。ふっかふか。しみる」
真宵:「“これを食べるためにテスト頑張った”って言っても過言じゃない」
澄佳:「あ、あのラムネ屋さん去年もいた。型抜きもあるよ」
華:「あれ成功するとタダなんだっけ? 難易度鬼だけど」
そんな会話をしながら、人混みのなかに紛れ、屋台の光と人々の笑い声の波を歩いていく。
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■3. 小さな声と不安の光
とある金魚すくいの裏。
華がピタリと立ち止まり、耳を澄ます。
華:「……ねえ、泣いてる子、いない?」
真宵:「ん? どこ? 音楽とアナウンスで聞こえないけど……」
彩鼓:「なんか聞こえる気もする……屋台の後ろ?」
細道を進むと、しゃがみこんだ小さな女の子がしくしくと泣いていた。
3歳くらい、浴衣の紐がほどけ、手には溶けかけの飴。
華がしゃがんで声をかける。
華:「大丈夫? お母さん、はぐれちゃったのかな?」
少女:「……うん、こっち、来て……おかあ、さん……」
澄佳:「行動範囲狭そうだから、たぶん近くにいるはず」
近くの屋台で協力を仰ぎ、アナウンスがかかる。
10分ほどして、浴衣姿の母親が息を切らせて走ってきた。
母親:「ごめんね! ごめんなさい、本当にありがとうございます……」
少女:「……まま……おねえちゃんたち、やさしかった」
4人は安心しつつ、ふと見上げると、アナウンスに聞き入る多くの人がいたことに気づく。
真宵:「電波じゃないけど、声って届くね」
華:「うん、“大事な声”って、どこかにちゃんと届くんだと思う」
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■4. 風鈴の音と夏の入口
その後、りんご飴をかじりながら、4人は神社の境内へ。
屋台とは違う、静かな空気がそこにあった。
彩鼓:「あ、風鈴! めっちゃ綺麗」
澄佳:「ガラス越しの光って、なんか特別感あるね」
真宵:「……期末終わったからかな。なんか、心の余白できた気がする」
華:「うん、こういうの、全部拾っていきたい。忘れないように」
風鈴の音が、夜風にまぎれてやさしく鳴っていた。
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■5. 帰り道と未来への約束
新潟駅前。
それぞれのバスが来るまで、ベンチに座って余韻に浸る4人。
真宵:「今度、部室でポッポ焼き風パン作ってみようかな」
彩鼓:「材料あるかな? 黒糖と、あとは……でも、あの型が中々なさそうじゃない?」
澄佳:「こないだの短波帯、再調整したいって言ってたじゃん」
華:「あ、それ、来週やろう。ポッポ焼き試作とセットで」
夏休みを目前に控え、彼女たちの世界はまだ静かに広がっていく。




