第13話「アンテナは知っている」(昼行灯電波監視官39話と連動)
■1. 微弱なノイズ
放課後のハム部部室。寺尾華が430MHz帯をスキャンしていると、妙に安定した搬送波に気づいた。
「……430.025MHz、ほとんど音声も何もない。でも、定期的にキャリアが立つ。これは何?」
白根彩鼓がFTM-510Dの表示を見つめる。「スプリアス? いや、これ……繰り返しタイミングが一定。自動送信系じゃない?」
真宵と澄佳が調べ始め、構内の地図と以前のノートを照合する。
「方向的には……旧校舎裏の倉庫じゃない?」
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■2. 倉庫の中にあったもの
日が沈みかけた放課後、部員4人は旧校舎裏の半ば放置された放送倉庫を開けた。中には埃をかぶった機材や配線が無造作に積まれていた。
「この送信機……市販のエレクトロキット改造品?」
小型のアンテナと繋がったタイマー式の送信装置。タイマーがONになると、無変調のFM波が周期的に発射される仕組みだ。構内全体の雑音のようなノイズの正体はこれだった。
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■3. 島見杏果への相談
寺尾華は録画しておいたスペクトラムアナライザの映像と機器写真を、LINE経由で島見杏果に送った。
> 「島見先輩、これ……学校の倉庫で見つけたんですけど、おかしくないですか?」
動画を見た島見は、すぐに既読をつけて返信してきた。
> 「これ、今うちでも探ってたやつと一致するかも。新潟市内とその周辺で周期的に430.025MHzにノイズが出てるって通報が来てて。こっちで追いかけてたんだけど、特定できなかったの。……上司に報告するね。」
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■4. 動揺と決意
「え……総合通信局が追ってたの?これ?」
「わたしたち、そんな重要なやつ見つけちゃったの!?」
「……どうしよう。ちゃんと報告した方がよかったよね?」
「島見先輩が動いてくれたんだし、大丈夫でしょ。顧問の青山先生にも言おう」
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■5. 顧問への報告と、長野総合通信局からの連絡
翌朝、顧問の青山先生が神妙な顔で部室に来た。
「OGの島見さんから私に連絡があったよ。例の件、総合通信局への申告と一致したそうだ。今日、監視課の上司と一緒に現場を見に来るって」
「うちのせいで、大事に……なってないといいけど」
「違うよ。むしろ、発見したっていうことが評価される。これは“好ましい申告”なんだ。総合通信局でも正式な行政対応になるってさ」
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■6. 電波監視官の訪問
午後、構内に入ってきたのは、長野総合通信局の業務車両。
現れたのは、長野市朝日町の本局からやってきた戸隠弘明監視官。そして、私服姿の島見杏果。
「え?島見先輩。なんでいるんですか?」
華は悪意なく尋ねた。
「それは…どういう意味かな?華ちゃん??お仕事できているんだけど?」
と、苦笑いしながら答えた。
「島見、後輩と絡むのはいいんだが…。確かに、例の件と一致してる。出力は極めて小さいけど、430MHz帯で定常波が流れてたら、他の正規局に支障が出る可能性がある」
戸隠は、飄々とした口調ながら手慣れた動きで受信器を構え、波形の安定度とキャリア周期を測定する。
「お見事。信号特性は、以前に新潟県内の個人から申告があった異常波と完全一致。犯意のある違法送信じゃないけど、“免許を受けずに開設し、運用した”点で電波法違反だね」
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■7. クラブの役割
「この送信装置は、免許を受けずに無線局を開設・運用したものと判断されます。つまり電波法第4条違反。ただし……」
声を和らげ、笑みを浮かべる。
「出力が低く、発見後すぐに報告がなされ、かつ明確な悪意もない。学校施設内という点も鑑み、今回は学校管理者である校長先生に“注意”という対応に留めます」
戸隠は笑いながらも、背筋の伸びるような言葉を残していった。
「これを見つけて、安易に自分たちで止めずに、正規のルートで連絡した。これは立派な行動です」
島見杏果が笑顔でそう言うと、4人は少し安心したように頷いた。
「こういう事例があるから、学校でも電波を扱う際には“免許”“無線局の開設申請”が必須なんだよ。ハム部って、まさにそれを学ぶ場でもあるんだ」
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■エピローグ
「ねえ、なんかさ……初めて“ハム部でよかった”って思ったかも」
「うん、わたしたち、ただの趣味じゃなくて、社会にちょっと関われたんだよね」
運用ノートの端に、寺尾華が一言記した。
“発見:202*.06.20 430.025MHzキャリア波。由来不明。対応済。”
その文字は、4人の部員にとって小さな勲章となった。




