第10話「代表者は、もういないと思ってた」
-- 開局の“壁”
念願のピンクのハンディ無線機を手にした華。
メイド喫茶「メルセンヌ」でのアルバイト代は、しらね電波工房のガラスケースの中にあった“小さな夢”と見事に交換された。
「ちっちゃくて、かわいくて……でも、ちゃんと交信できるんだよね」
徳造が最後に整備したカスタムFT-4XR。アンテナも、手の大きさに合うショートタイプ。
従事者免許証も、予定より少し早く届いた。
名前と顔写真が、ピカピカのプラスチックカードに刻まれている。
「……これで、もう無資格じゃない……はず」
が。
「開局申請、まだだったんだよな……」
真宵がスマホの画面を見ながらため息をつく。
個人で無線局を開設するには、免許申請が必要。申請してから、さらに1か月前後かかるという。
「そんなに待てない……!」
華が、再び床に崩れ落ちた。
--- 意外な“お客様”
土曜の午後。バイト中の「メルセンヌ」に、黒のフリルワンピース姿の少女が現れた。
「……島見先輩!?」
一同が驚愕する中、彼女は一言、
「プリン、RITで温めて。」
「いやいや…なんで島見先輩いるんですか!しかも、スーツじゃなくてそのふりふりワンピース!」
と、彩鼓。
「なんでって、この間土日に仕事していて昨日と月曜は代休。で、実家に帰ってきたの。」
と、シレッと言っていた。
華は弱々しく島見に話しかけた。
「あ、あの〜実はあれから4アマの試験を受けて、従事者免許証とったんですけど、早く電波を出したいんですけど…なんとかなりませんか?」
場が静まる。
「華ちゃん、無線使いたいんでしょ?だったら学校のFTM-510D、部室にあるやつ、あれ使えばいいじゃない。あれ、クラブ局の設備の一つだから従事者選任だけすれば交信できるよ」
彩鼓が「あ!その手があったか…」と叫んだ。
「えっ、でも……誰が代表になってるか、わからなくて……」
華はおどおどしながら聞いた…
「あ、それ私。彩鼓ちゃん、代表変更出してないでしょ」
彩鼓の肩が、ピクリと揺れる。
「う……す、すみません忘れてました……」
「大丈夫。代表者変更申請と、無線従事者選任届、一緒に出しちゃえばいい。今は電子申請もあるし、紙なら長野総合通信局 無線通信課に送ればOK」
「えっと、今って、島見先輩が部の代表で……私が無線従事者で……」
「うん。それで、学校の無線機が使える」
--- 申請書作成
その日のバイト終了後、部室にて月潟澄佳のタブレットで申請書類が作成された。
・代表者変更届(旧代表:島見杏果 → 新代表:白根彩鼓)
・無線従事者選任届(選任者:寺尾華)
「ふふ、なんか私、書類の“責任者”ってところに名前あるの、ちょっと照れる……」
「次は部室の整理ね。あの古いSWR計、たぶんアースが切れてる」
「代表になったからには、部費申請もやってよね……」
「ていうか華、そのメルセンヌの制服のままなんで学校にきちゃったの!やめなさい」
---
電波は、すぐそこにある
申請が終われば、あとはハム部の無線機に火を入れるだけ。
学校の部室の棚で、静かに眠っていたFTM-510Dが、ようやく目を覚ます。
「……受信は、できる?」
「当然。送信は選任が終わってから。でも、今すぐ聴いてみて」
澄佳がスイッチを入れる。スピーカーから、ほんのかすかにノイズ。
その向こうに、小さな交信音が聞こえた。
『こちら、ジュリエット・アルファ・ゼロ・エコー……』
華は、うっすらと目を潤ませる。
「……聴こえた。私にも、電波、聴こえたよ」




