牛を描いて豚を売る
肉屋の店主は頭を抱えていた。牛の間に病気が流行り、牛肉の供給が極端に少なくなってしまったのだ。
どこの肉屋でも豚肉しか売っておらず、そのせいで飽きが来たのか売上が落ちているのだ。
このままでは店が潰れてしまう。
どうするかと悩んでいると、従業員が提案してきた。
「看板の絵を牛に変えれば良いんじゃないですか?」
「何を言ってる。牛肉がないのにそんなことしても意味がないじゃないか。それとも偽装しろとでも言うのか」
「いえ、だから看板の絵だけ牛にするんです。お肉は豚肉って書かずにただ肉とだけ書いて売れば良いんですよ。勘違いする人が出るかもしれないですけど、最近牛肉を食べてる人なんていないから仕方ないことですよ」
店主は悩んだが、結局はその従業員の提案に従うことにした。しかし肉屋としてのせめてものプライドか、売る豚肉はこだわりにこだわり抜いたものを売ることにした。
すると、なんと翌日から少しずつ売上が伸びていったのだ。店主はこれで店を潰さずに済むと喜び、従業員にボーナスをたっぷりと支給した。
そしてしばらくの間、その肉屋は好調な売上を記録していたが、やがて牛肉が供給されるようになると店主は少しずつ豚肉を減らして牛肉を増やしていった。
するとそれはちょうど他の店でも牛肉を売るようになった時期と被ってしまっていたのか、豚肉を減らすのに合わせるように少しずつ売上が落ちていき、ついには牛の病気が始まる前と同じくらいになってしまった。
その結果を見て店主と店員は話す。
「みんな肉なんてそんなに味わっていないんだな」
「牛か豚かなんて気付く人なんていないみたいですね」
その肉屋から少し離れた場所で、二人の人が話をしていた。
「あそこの肉屋、味が落ちたよね」
「あの牛の看板の豚肉屋の話?」
「そうそう」
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