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6.椎茸×鶏たま雑炊からの星空デートへ

・ ・ ・ ・ ・



 お堂の中には、腰のひん曲がったしわしわのお坊さんがいた。もちろん人間である。


 寺務所って言うのだろうか、そのお坊さんの生活スペースみたいなところで晩ごはんをもらう。



「すごーい、すっごーい! いろりってやつでしょう、これ? 火が良い匂いするんだなー、雰囲気でるぅ」


「ふぉふぉふぉ。さあどうぞ勇者さま、たんとめしあがってくださいよ」



 ほかほか湯気のわき立つお鍋からよそってもらったのは、しいたけ雑炊だッ!!



「おーいーしーい! 鶏肉とたまごも入ってるぅ、さっっすが大分県だ!」



 ぶつ切りと丸ごと、んもうでっかい椎茸が、ごはんの存在感を食う勢いでごろごろしている。雑炊はヘルシー志向すぎて……と敬遠する男子は多いけど、俺は断然好き。と言うかこんながっつり系の雑炊は初めて見たよ、鶏と椎茸のダブルだしによる濃厚なこくが、もうたまらないー。


 ハフハフ言ってる俺の横で、猫ちゃん達も同じものをめしあがっていた。でも平べったいお皿によそってもらって、だいぶフーフーしながら食べている……いやそりゃねこ舌だもんね?


 ハニーちゃんの隣では、パパがもぐもぐしている。さっき傷口を見せてもらったけど、ムキロン効果で化膿とかはしていないみたいだった。よかった、安心。



――別府に着いたら、ちゃんと動物病院に連れて行って、診てもらわないとなー。カード使えるところだといいんだけど……。



 井戸端(これも雰囲気出るぅ)で歯磨きしてから本堂に戻ると、猫ガイ達は明かりのともった小さな女神像祭壇の前で、みんな丸くなってくつろいでいた。お坊さんが出してくれた毛布みたいなものの上で、ごろごろ重唱している。


 俺も毛布を体にまきつけ、バックパックを枕にして寝転がりかけたところで、ふと気がついた。



「あれ? トニーさん、ハニーちゃんがいませんよ」


「ああ、娘は神像が大好きなのです。眠る前に、お参りしてるんでしょう」


「じゃあ、俺呼んできますー」



 外は真っ暗闇……でもない。とんでもない量の星が輝いて、足元はあんがい明るかった。


 到着時に俺が騒ぎ立てた石像の前にハニーちゃんの姿はなくて、うろうろした末にようやく見つける。


 木の裏にある小さな神像の前に、みかん猫の女の子はそうっと隠れるようにたたずんでいた。



「はやるさん?」



 ふいと振り向いてくる。



「ここにいたのー、ハニーちゃん!」



 俺は隣にしゃがみこんだ。



「ええ。わたし、この像がいっとう好きなのよ」


「そうなんだ、……あれ?」



 俺は像の顔部分をのぞき込んだ。



「めがねしてるよ!? この神さま」



 巨大摩崖まがい像ともお堂の女神像とも違って、円いめがねらしいものをかけて立っているその神さまは、見るからに男性だった。



「めがねと言うの? これ。あなたもしている、その目元かざりは」


「うん、そうだよ」



 俺のはだいぶ、角っぽいけどね。



「勇者のあかしか、何かなの?」


「え?」


「はやるさん。この像はね、いにしえの時代に現れて、わたし達を救ってくれた初代勇者さまをかたどっているのよ」



 言われて星明りの下、俺は再び像をしげしげと見つめた。


 ひょろんとスレンダーな造形、チベットの若いお坊さんみたいな衣を着た胸が、何とも貧弱。小さなこぶしをきゅうっと握りしめて、一生懸命に威勢を張っているような感じだ。



――そう言や、この立ち方はナイファンチと言えなくもないような……?



「名前は伝わってないの?」


「ヒロミチ様、と言うのよ。あなたのように光るこぶしからけむりを出して、数多くの敵を倒し、わたし達の祖先を守ってくれたの」


「強かったんだねぇ」


「そして、とても優しい人だったんですって……。ぷしッ」



 ハニーちゃんは横をむいて、小さくくしゃみをした。



「うおっ、ハニーちゃん! 寒いんじゃないのッ」


「え、ええ……如月きさらぎですものね」



 じーっっ、俺はダウンジャケットのジップを下ろした。



「どうぞ。入る?」


「え、ええええッッ」


「ウミクロのミラクルライティダウンだから、ぬくいよー」


「……」


「はねこともね、こうやって時々抱っこで、一緒に夜の散歩してたんだ」



 ハニーちゃんはあからさまに狼狽していたが、なんでか急にぴしッと固まった。



「はねこさんと……」


「うん……。お婆ちゃんだったから、最後はほとんど歩けなくってさ。でも外には出たかったみたいなんだよね。俺も高校の時、すっごい色々悩みまくってたから、そうやって一緒に外あるいて、はねこに話聞いてもらってたんだ」


「……そうだったの」



 ハニーちゃんは、そっと前足を俺の膝上にのせてきた。しゅるっとダウンの内側に入る。



「わあ、あたたかいのね!」


「でしょー。関東に比べたら、こっちはすごくあったかいけど、やっぱり夜は冷えるよねぇ」



 ジップを上げて、ハニーちゃんの頭だけを出す。ダウンの腹部分を両手で支えて抱っこする形で、俺はゆっくり歩き出した。


 冷え切っていたみかん猫の身体が、しだいに温まってくる。



「ここ、星がきれいだねえ。ハニーちゃん」


「あなたのくにでは、こうではないの?」


「全然ちがうよ。町の中に住んでるからっていうのもあるけど、まわりが明るすぎて星がよく見えないんだ」


「そう……」



 ごろろろ、……かすかに喉を鳴らす音が聞こえる。


 うーむ、この線で一緒に添い寝してくれないものだろうか。ハニーちゃんになら、腹のど真ん中に乗っかられても大丈夫だぞ。あ、でも他の皆も便乗して、がっしり猫ガイ達がみっしり鈴なりになったら、さすがの俺でも無理かなー。


 悶々考え続ける俺のあごの下、ふわりと触れるハニーちゃんのひたいの毛並みが柔らかかった。



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