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ドラゴンとの契約


 その後、俺たちは回復したロカチムに灯里を運ばせる形で下山した。


 舗装路が見えるところまで下りたところで、ロカチムは俺が倒したドラゴンの姿を見つけ、灯里を背に乗せたままそのドラゴンに駆け寄った。


 俺がトラックで激突したときのまま横たわるドラゴンと、へしゃげたトラックが路上に打ち捨てられている光景はどこか寂寥感がある。


 冷静に考えてもみれば俺自身が潰れてしまう可能性もあったのに正気の沙汰ではなかった。


「悪く思うなよ、こっちも命懸けだったんだ」


 親を見つめるロカチムの背に俺は声をかけた。ロカチムは哀愁漂う背を俺に向けて、小声でドラゴンに話しかけていた。


「遥斗くん。このドラゴン、まだ生きているみたい」


「は!? 嘘だろ!? どんな生命力してやがんだ!?」


 即座に俺は散弾銃をドラゴンに向けた。銃弾が通用しないことがわかっていても、もう俺には対抗手段が残されていない。


 だが、それを止めるように灯里が俺とドラゴンの間にその手を伸ばした。


「大丈夫。今、ロカちゃんが何か話をしているみたい」


「灯里、もしかして、そのドラゴンがなんて言っているのかわかるのか?」


「うん。なんでだろ? ロカちゃんと契約っていうのをしたからかな?」


「なるほどな……だが、それとその親ドラゴンを生かしておく危険性は別の話だぞ?」


「ううん? それも大丈夫。このドラゴンさん、ロカちゃんを元気にしてくれてありがとうって言ってるみたい」


「そういうもんなのか……?」


「うん。親って、そういうものなんだよ、きっと」


 俺が一瞬言葉に詰まったのは、自分の親だったらどうだったろうと考えてしまったからだ。


 そして、その大事な両親を失ったばかりの灯里にかけるべき言葉も思いつかず、ただ沈黙を続けていると、やがて灯里はロカチムとともに俺の方を振り返った。


「遥斗くん。レアクィルムさん、もう敵意はないみたいだよ」


「レ、レア……? それはこいつの名前か?」


「うん。ケガのほうも、すぐには動けないけど少し休めばなんとかなるって言ってる」


「へ、へぇ〜……少し休めば、なんだ……」


 俺の命懸けの攻撃とはなんだったのか。


「それから、勝手にロカちゃんと契約しちゃったことも許してもらえたよ?」


「お、おう。それは良かった……」


「そしてもうひとつ。レアクィルムさん、遥斗くんと契約してもいいって言ってる」


「は? 俺と? 殺し合ったのに?」


「うん。自分を倒すに至った知恵と勇気、それからロカちゃんを助けてくれた優しさを認めてって言ってる」


「……すげー上から目線だな」


「でも、こんなチャンス滅多にないかもよ? レアクィルムさんも未だかつて最強種たるドラゴンが人間と契約したことはないだろうって言ってる」


「マジか……」


「たぶんこの先、私たちがこの世界で生きていくために、大きな力になってくれるんじゃないかな?」


「……たしかに、そうだな」


「それにロカちゃんも頭がいいからかな? こっちの世界の言葉もわかるようになるし……」


「それはありがたいな」


「でしょ? だから……」


「ああ。わかったよ灯里」


 俺は灯里に頷いてからレアクィルムに話しかけた。


「で、契約っていうのはどうやるんだ?」


 するとレアクィルムが小声でそれをロカチムに伝え、灯里が俺に翻訳する。


「えっとね。レアクィルムさんが魔力の契約紋を頭に浮かび上がらせるから、そこに手を触れてお互いの魔力を交わすんだって」


「でも、灯里はそれをやってたっけ?」


「ほら、ロカちゃんにペロペロされてるときに、やめてやめて〜って。そのときだよ、たぶん。私もロカちゃん可愛いなぁって、嫌な感じしなかったし……」


「でも、俺も灯里も魔力なんかないだろ?」


「もしかしたら、日本人に平等に分けられた微妙な魔力があったのかも……」


「なるほど……まったく意味がなかった訳じゃないんだな……」


 俺は少しばかり呆れつつも再びレアクィルムへ視線を戻す。するとすでにその鼻先あたりに微かに淡い光を放つ紋章が浮かんでいた。


「遥斗くん、契約を」


「お、おう。わかった」


 俺は灯里に背を押されるようにレアクィルムに近寄った。


「じゃあこれからお前のこと、レアって呼ぶけど、いいよな?」


 俺はそう言って契約紋に手を伸ばす。レアクィルムにしても日本語まではわからなかっただろうが、妙に納得したような雰囲気で目を閉じていた。


 魔力をどうやって交わせばいいのかなんて俺にはわからない。だが、俺の手を当てた契約紋はひときわ大きな光を放つ。


 そしてそれはたしかに互いの言葉を酌み交わすかのように、自然と意識のようなものになって俺の中に流れ込んできた。


 それだけではなかった。


 灯里がロカチムと契約したときにも言っていた「力を共有」するとの言葉の意味をたしかに自分自身の感覚で理解するに至ったのだ。


 俺は、自分の体内に溢れんばかりの力が存在していることに驚いていた。


 ドラゴンの力。


 たぶん、今の俺ならレアの巨体をも持ち上げて軽々とドラゴン親子のねぐらまで山道を駆け上がれるだろう。


 さらには俺に銃弾は通らないだろうとか、大型トラックの突撃すら腕一本で止められるだろうとか、普通ならありえないような絶対強者の感覚が存在してさえいる。


「ど、どう? 遥斗くん? 上手く契約できた?」


 灯里が心配そうに聞いてくる。


 だが、俺はそれにすぐ答えられない。


 優越感、全能感。そのあまりの精神の昂りを言葉で表すことができなかったからだ。


「大丈夫だ灯里。契約は成功したらしい」


 ようやくそれだけ答えた俺は浮かれた表情を整えて灯里に振り返る。


「良かった、遥斗くん! これで私たち、お揃いだね!」


「そうだな。それに、こいつら親子を引き離さないようにするためにも、俺たちも、一緒にいないと……だな」


「わ。わ。……さっきから私、遥斗くんから猛アタックされてもうてます……」


 そう言って灯里は顔を真っ赤にして照れる。


「でも。と、とっても嬉しいや……おかしいな。とっても悲しいことがあって、命の危険にもあって、今とっても辛いのに、もう良くわからないや……あれ? なんだか私、壊れてもうてます」


 涙を流しながら笑ったと思えば耐えきれないように崩れたりと、俺の前で無理に気丈に振る舞おうとしている灯里を見て、俺は安堵した。


 灯里も、色々と緊張の糸がプツリと切れてしまったのだろう。


 この狂乱の状況で、色々なことが重なって、混乱が混乱を呼んで。


 そんな大変なときに灯里に対してどう接するのが正しいのか、俺にはまったくわからない。


 弱っているときにつけ込むようなことはしたくはない。でも、たぶん俺と灯里はもうそんな軽い関係でもない。


 全部ごちゃ混ぜになって苦しんでいるだろう灯里をこれ以上混乱させることだけはしたくない、それだけはたしかに間違いはないと思っていたから、俺はそんな灯里をただ抱きしめた。


 たぶん言葉はないほうがいい。


 灯里が今、たくさん起こった事象のうち何を思っているのか、俺にはわからないから。


 でもたぶん、その全てに共通して、ただ抱きしめていてやることがたしかだと、俺はそんなふうに思っていた。


 灯里は、しばらく俺にしがみついて大声で泣いていた。


 俺も俺で色々なことに混乱はしていたけれど、何よりも灯里を取り戻せたことにひたすら安堵していた。


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