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失ったもの同士


「遥斗くんっ!? ド、ドラゴンはどうしたのっ!?」


 再び戻った俺を、灯里は幽霊でも見るかのような目で見て言った。


 俺は簡単に経過を説明した。


「た、た、倒したぁ〜っ!?」


 そして灯里は倒れたのであった。


「あぁ。これでゆっくり灯里を連れて帰れるな」


「うん……そうだね……」


 灯里は少し寂しそうな顔を見せた。


「もしかして、子ドラゴンに同情してるのか?」


 灯里は小さく頷く。


「親がいなくなったら、この子、死んじゃうよ……私と、おんなじだもん」


 先ほど両親を失った灯里を思うと、俺は何も言えない気分だった。


「本当はね、この子。私を食べないでくれたんだよ。食べられないんじゃなくて」


「そうだったのか……」


「ドラゴンだって、みんな生きてるんだ……生きるため、この子のために、あのドラゴンも必死だったんだよ」


「それは……そうかも知れないな」


 飛竜隊と交戦していたときが初見だったが、すでにそのときからドラゴンは手負いであった。もしかしたら、ドラゴンは子どもをかばって逃げていたのかも知れない。


「この子ね、私の足を気遣ってくれて、優しいんだよ?」


 ただ、俺はその敵方でもあったメィサと交流し、その結末をも見届けている。


 どちらの命にも関わった者として、どちらも悪く思うことができないのだ。


「みんなが上手く生きていくために、どうにかできないかな?」


「あああ〜っ……くそっ! くそっ!」


 俺は灯里に言われて頭を掻きむしった。


 何が正しい行いなのか、良いことなのか悪いことなのか、まったくわからなくなっていたのだ。


 この世界はおかしい。


 殺したり殺されたり。有益か否か。見捨てたり見捨てられたり。人を妬んで人を襲う人もいた。悲観して自殺をした人も見た。巻き込まれただけで簡単に死んでしまう命もあった。


 俺も、命のやり取りをした。


 灯里も、自分を食われそうになった。


 俺は、親ドラゴンを討った。でも、別に憎くてやった訳じゃない。


 灯里は、自分をかばった子ドラゴンを助けようとしている。


 子ドラゴンは俺を恨むだろうか?


 これで子ドラゴンが暴れたら、俺は間違いなく子ドラゴンを殺すだろう。


 そしたら灯里は俺をどう思うだろうか?


 俺には何もわからなかった。


 俺にはこの状況を解決できるだろう手段がひとつだけ残されていた。


 それはメィサがくれたマジック・クラッチに最初から入っていたアイテムのひとつ。


 小さな瓶にシンプルなラベルが貼ってあり、下手くそなカタカナでこう書かれている。『クスリ』と。


 おそらくそれは貴重なポーションの類なのだろう。メィサが自分の生を諦めたとき、俺に全てを渡すつもりで、俺にわかる言葉で書いてくれたのだと思う。


 だがメィサが生を諦めた原因はドラゴンだ。その遺品を、そのドラゴンの子のために使うというのは違和感がないだろうか。


 俺にはその答えを出すことができなかった。


「灯里。実はメィサから貰った物の中にこんなものがある。もちろん、その効能の正確なところはわからない。たぶん、貴重な回復薬なんだとは思うけれども」


 俺は卑怯かも知れない。その判断を灯里に押し付けようとしたのだから。


 だが灯里はそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、無邪気に笑ってこう言った。


「なぁんだ! 遥斗くん、そんなに良いもの持ってるなら最初から言ってよ! それ、私にくれるんでしょ?」


 そして灯里は小瓶を俺から奪い取った。


「はい! これで君、元気になるって」


 そしてそれをなんの迷いもなく開封し、子ドラゴンに飲ませたのだった。


 俺は内心、灯里の潔さに驚いていた。


 だってそうだろう? そんな効能もわからないような怪しい薬を躊躇いなく他者に投与できるか?


 本当は俺もさっきドラゴンと戦う前、足を挫いた灯里に飲ませて一緒に逃げるかどうかを考えた。だが、それで思ったような効果じゃなかったらどうするのかと考えてしまったのだ。


「灯里すごいな……これで毒物だったらどうするつもりなんだよ」


「そしたらこの子は死んじゃうね。でも、飲まなくても死んじゃう。だから飲ませたんだ」


「マジか」


 俺は正直に、それはすごい理論だなと思った。何より、そんな理論が灯里から飛び出してくるとは思わなかった。


 でも、俺がそのあと少し恐くなったのは、灯里が最初に、この子ドラゴンを自分と同じと言ったのを思い出したからだった。


 もしかしたらこの場に子ドラゴンがいなかったら、灯里はそれを死んでもいいと口にしていたかも知れないと思ったからだ。


 やっぱり、この世界は何かがおかしい。


 人の心が、どこか少し変わってしまう。


 灯里も、少なからず変わってしまったのだろうか。無理もない、今日まであんなに元気だった両親が死んでしまったのだから。


 なぁ。もしかして、俺のためにガソリンを入れに行ってくれたおじさんたちが亡くなって、俺に何か感じていないのか……?


 俺は少し、そんな極端な理論で躊躇いもなく不思議な薬を子ドラゴンに投与してしまった灯里を恐く思ってしまったんだ。


 だけど、結果的にはその行動は俺たちに最善の結果をもたらした。


 その薬は間違いなく異世界の回復薬で、子ドラゴンはたちまち元気を取り戻し、嬉しそうに灯里に飛びついてその顔を舐め回し始めたのだった。


「わわっ! ちょっ! 君っ! 人懐っこすぎだって! 私、ベトベトになってもうてます!」


 灯里は慌てて子ドラゴンを押し剥がそうとしていたが、そこはやはりドラゴン。人とは比べものにならない強い力で灯里を押し倒し、思う存分に灯里の顔を舐め回し続けていたのだった。


 一応俺も散弾銃を拾って子ドラゴンの行動に警戒はしていたのだが、それもどうやら杞憂だったらしい。


 何やら微笑ましいじゃれ合いに敵意も削がれてしまっていたときだった。


「あれ?」


 灯里がそんなことを言った。


「なにこの感じ……? これは、君なの……?」


 俺には灯里の言葉の意味がわからなかった。


「どうした灯里?」


「ううん? 良くわからないけど不思議なの。何かが私の中に流れ込んで来るような……うん、間違いない。これ、たぶんこの子の感情みたいなものなんだと思う」


「なんだそれ? 俺には全然わからないんだが……」


「え、契約……? 何それ? 力を分け合って助け合うってこと……? うん、いいよ? ……うん。よろしくね?」


 灯里はまるで子ドラゴンと会話をするように言葉を発していた。


「おい灯里。ちょっと俺にもわかるように説明してくれないか?」


「あ……うん、そうだね」


 灯里はそんなふうに言って、自分に覆い被さる子ドラゴンをヒョイと横に退けて話し始めた。


 いや、本当のことを言うと灯里がヒョイと退けられるような体重ではないのではないかとは思っていたのだが。


「あのね。こっちの世界って、他の生き物と契約っていうのができるんだって」


 俺はそれを呆然と聞いていた。


「で、その契約の相手方によっては、その力を共有できちゃったりするみたい」


 ほうほう。だからこそ先ほどはドラゴン譲りの馬鹿力が発揮されたと言う訳か。


「なんだかやろうと思えば知識も共有できちゃうみたい……紹介するね、この子はドラゴンパピーのロカチムちゃんです!」


「クゥン!」


 子ドラゴンは灯里の紹介の横で可愛く声を上げていた。


 そんなバカな。


 頭では理解しているつもりではあったが、俺は開いた口が塞がっていなかったと思う。


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