一般人の俺がチートなしにドラゴンに挑んでみた
さて、チート能力も魔法もない俺がどうやってドラゴンに立ち向かうんだって話?
そんなものは知らない。
ただ、少しでも可能性を上げたければ形振り構わず使える物は全て使うべきだ。
ひ弱な俺がぶっ放せる最大火力の攻撃っていったいなんだろうなって、一応は考えて来たんだが、それを空を舞うドラゴンに当てようとなったらほぼ無理ゲーだ。
だが、銃器の類が通用しないとなるとそれ以上の攻撃力なんて個人にはそう簡単に出せやしない。無理でもなんでもやるしかない。
もしも魔法が使えたなら別の戦い方もあったろうが、ないものねだりはしょうもない。
あるものでなんとかする。
そう考えると、俺の持ち物のなかで一番使えそうなものはメィサから貰ったマジック・クラッチだった。
なんでも収納できるうえ、手で持てないような大きな物もマジック・クラッチを二回叩けば吐き出してくれるのはメィサから教えてもらった。
あとは俺が実験を繰り返して、叩く強弱で吐き出す強度を調整できることを確認した。
つまりは、なんちゃって魔法が使えるのだ。
「喰らえっ! なんちゃって土魔法! テトラポット!」
俺はマジック・クラッチを思い切り二回叩いた。そこから弾丸の如く繰り出されたのはそう、巨大なテトラポットである。
これにはドラゴンも驚いたことだろう。とんでもない質量のテトラポットが高速で突っ込んで来るのだから、これはもう立派なエセ土魔法だ。
そして俺の思惑どおりドラゴンの意表を突いて直撃したテトラポットは宙に浮くドラゴンの巨体をふっ飛ばした。
「やったか!?」
俺は期待を込めて叫んだ。
「あ〜……遥斗くん、それは言うてもうてます……」
俺の背後から灯里の残念そうな声が聞こえる。だがまぁいい。これはホンの挨拶代わりだ。
俺は逃げ出したい思いを振り切って地に落ちたドラゴンに近寄った。空に逃がすわけにいかない以上、チャンスはここしかない!
「叩き潰してやるっ! テトラポット乱れ撃ちだっ!」
斜面の下に転がったドラゴンに向かって俺はバンバンと何度もマジック・クラッチを叩きつけ、テトラポットの流星群を降らせた。
できればこのまま潰れてもらいたいものだが……
と思ったのはさすがに甘かったか、数発のテトラポットはドラゴンに直撃したものの、追撃で飛んでくるテトラポットは見事にブレスによって消滅させられてしまった。
むしろ、その角度が違ったら俺も死んでいたまである威力だ。俺の足はガクガクと震え上がる。
しかし、負けるわけにはいかない!
「おら! 掛かってこいよ! 俺はこっちだ!」
俺は敢えてドラゴンを挑発し、山の斜面を全速で下り始めた。できるだけドラゴンを灯里から引き離したい。だから俺は必死に走った。
先ほどのテトラポット流星群が効いたのだろうか、ドラゴンは空に舞い上がって攻撃をしてくることはなかった。
木々を薙ぎ倒すように追い掛けてくるドラゴンに対し、俺は何度か振り返ってテトラポットを飛ばして牽制しつつ山を駆け下りた。
良く見れば、ドラゴンの片翼がダラリと垂れて地面を擦っている。やはり先ほどのテトラポット流星群が功を奏していたらしい。
よし。これで上空へ回避される可能性は潰した。あとはあの一撃をお見舞いしてやるだけだ!
そう思って、俺は一瞬油断してしまったらしい。
このまま俺を追っていてもきりがないと判断したのだろうか、ドラゴンは自身へのダメージも顧みずに一気にスピードを上げ、岩肌にその身をぶつけながら俺との距離を縮めて迫っていたのだ。
次に俺が牽制に振り返ったとき、もう俺の目の前にはドラゴンの大きく開けた口が迫っていた。
ヤバ……っ!
「テトラポッ……っ!」
俺は咄嗟にその大口に向かってマジック・クラッチを二度叩く。
俺の狙いどおりに飛び出したテトラポットはドラゴンの口に直撃を加え、それはそれで大きなダメージを与えたに違いはなかった。
が、それでもドラゴンはダメージを覚悟の上で迫って来たのだろう。その巨体が突き進む運動エネルギーはたかだかテトラポットひとつが直撃したくらいでは止まらない。
俺はドラゴンの牙で食い破られこそしなかったものの、その巨体の突撃を受けて、まるで蹴飛ばされた石ころのように空中に吹き飛ばされていた。
そしてどうにもいい距離まで山を下って来ていたためか、俺が落ちる放物線の先にあったのは硬い硬いアスファルトの地面。
死んだか?
いやまだだ、何か衝撃を和らげてくれそうなもの! そんなもの都合よくある訳が!
「うわあああっ!」
迫り来る地面を前に、それでも俺は何かに賭けてマジック・クラッチを叩きまくった。
結果、何が起こったのかは俺にも良くわからなかった。
が、ただひとつ言えるのは、俺は地面に叩きつけられてもまだ生きているということだった。
良く良く見てみれば、周囲にはマットのようなものが敷き詰められていた。
そこで俺は思い出す。そう言えばここに来るまでに乗ってきた配送用トラックの荷台にあった緩衝材をとりあえずマジック・クラッチに収納していたのだった。
そのおかげで助かったのもあるが、もしかしたら全国民に割り振られた少しだけ健康になる力も影響していたのかも知れない。
ともかくだ。
「ひとまず、ここまでは逃げ切ったぞ……?」
舗装された道路。ドラゴンと決着をつけられるとしたら、もうここ以外にはない。
改めて気を引き締める俺の前に、もう勝ったつもりなのか堂々と木々を分けて姿を現したドラゴン。
むしろ木々で遮られていた山の中と違い、俺の逃場がないと思って余裕しゃくしゃくでいるのかも知れない。
ドラゴンは俺の次の手を見定めるつもりなのかノソノソと車道にまで歩み出てきた。
決める!
俺は大きく息を吸い込み、最後の攻撃準備を整えた。
「テトラポット流星群!」
俺は残りのテトラポットを全て上空に向かって射出した。そして予想どおりドラゴンの視線はそれに釣られて上空へと向かっていた。
今まで直線的にしか放ってこなかったテトラポットを敢えてここで上空へ向けたらそりゃあ気になるってもんだろう。
ドラゴンは自分に降りかかるテトラポットから身を守るべく、上空へ向かってブレスを吐き出し、俺が打ち上げたテトラポットはものの見事に全て消し去られてしまった。
「が、残念だったな! 俺の本当の狙いはこっちだ!」
隙だらけとなったドラゴンに向かって俺が射出したのは、俺のバイト先、冷凍食品工場にあった大きな大きな貯蔵タンクだった。
「こいつを喰らいやがれっ!」
できればそれで決着してほしい。
が、なんと俺の予想に反してドラゴンはそれにも反応をしてしまった。
そして繰り出されたのはその獰猛な爪、ドラゴンクロー。
それは俺の最後の射出物である巨大タンクを軽々と引き千切って直撃を防ぐものだった。
それを防がれたら俺にはもうマジック・クラッチから撃ち出せる物はない。
だが。
「なんちゃって氷魔法! 液体窒素!」
俺が放った巨大タンク、それは冷凍食品工場で使われる液体窒素のタンクであったのだ。そしてそれをドラゴンクローで引き裂いたのならば、当然そこから降りかかるのはマイナス196度、絶対零度のエセ氷魔法である。
直後に轟くドラゴンの悲鳴。
さすがにこいつを全身に、それも波々と浴びればひとたまりもあるまい。
俺はその後、急激に体温を奪われて動かなくなったドラゴンを見て、急に恐くなって尻もちをついた。
「はは、やった……やったぞ……」
俺は荒くなった呼吸を整えながら、ゆっくりと身体を起こした。
しかしこれでもまだ、俺は油断なんかしちゃいない。相手は異世界のドラゴンだ。どんな生命力を持っているのか底が知れないのだ。
念には念を込めて、最大最後の攻撃を叩き込んでおくべきだ。
そして俺は疲れた身体に鞭を打って、ここまで乗ってきたトラックに乗り込んだ。
舗装路まで誘い込んだのはこれが理由だ。
上空へ逃れる手段を奪い、液体窒素で動きを封じ、最大威力の攻撃を叩き込む。
「そういえば受験勉強でやってたっけなぁ。トラックの重量にスピードを乗っけたものがその答えだ。えっと……どれくらい威力だ?」
駄目だ、興奮して全然頭が回らない。
まぁいい。
超カッコいい必殺技みたいに全力で叩き込んでやればいいだけのこと!
俺は全力でアクセルを踏み込んだ。
「喰らえぇっ! インパクト・アアァーッスッ!」
そしてその一撃は、凍りついたドラゴンの腹部に完璧なまでに叩きつけられた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
このあたりで大体3万文字、続けるか否かの判断をしていきます。
因みにトラックで突撃する技「インパクト・アース」は以下の作品から。
【異世界トラック ~冒険者登録すら出来ない判強制追放の底辺運転手が極振りトラック無双で建国余裕の側室ハーレム、世界平和したいのに魔王扱いでツラい~】
https://ncode.syosetu.com/n7434hu/
※トラックで戦うハイファンタジー! オススメです!