卒業して5年も経つのにな 〜男2人で雪山スノボー旅行〜
『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』の応募作品です。
居酒屋で飲む事はあっても、親友と泊まりで雪山にスノボーしに行くなんて、大学の卒業旅行以来だった。
まぁ、就職して1年もしないでデキ婚した大輔に続いて、俺も似たような道を辿ったのが大きい。
やっと育児も落ち着いたのが、5年後だっただけの話だ。
最近改築したという花をテーマにした部屋が人気の老舗旅館。
ロビーには火を映し出したモダンな暖炉に、大きな水槽の中で金魚が優雅に泳いでいた。うん、おしゃんてぃ。
案内された客室で、濃いめの緑茶とたまごの形をした白餡が程よい甘さの和菓子を食べつつ、ひと息つく。
俺は部屋を見渡してから、笑顔で大輔に向き直る。
「高そうだなぁオイ」
「嫌味か。めっちゃ割引きされてたんだよ」
いかんせん「コスモスの間」と言うだけあって、和室ながら可愛らしい内装。野郎2人には似合わな過ぎて笑えて来る。
普段は高いんだろうな。平日バンザイ。
駅近で評判のいいメシと温泉付き宿予約ありがとう!
露天風呂を満喫してから夕飯の懐石料理を堪能。仮眠してお出かけだ。今日はナイターで朝まで滑る!
スキー場に着いたらゲレンデに入る前に、ウェアとボードをレンタル。
「やっぱりお前も自前は売ったのか」
「アパートは部屋が狭くって。ニットの帽子は嫁が買ってくれたヤツなんで、大事にしてます」
「ノロケか? 似合ってるよ」
パスワード付きのロッカーに財布や鍵を預けながら。そう言う大輔の手には、俺が大学時代に誕プレで贈った手袋をはめていた。優しい奴である。
久しぶりに滑ったけれど、案外体は覚えていて。頂点にあった三日月が傾いて来たところで休憩。楽しいけど、寒い。
「俺醤油ラーメン」
「お。じゃぁ、俺も。あ〜、今日のクエスト簡単っぽい」
「マ?」
スマホゲームを互いにしながら食堂で注文。いくらもしないで、年配の店員さんが湯気の上がるラーメンを持って来てくれた。
「兄弟で仲がいいわね〜」
「あー……似てるけど、友達デス」
「えぇ!? あらやだ、こんなソックリなのに?」
「ははは。よく言われるんですよ」
お互い地方の高校を卒業後、大学に入学し、文化祭の実行委員になったのがキッカケで意気投合。
元々雰囲気は似ていたが、四六時中一緒に居る内に兄弟に間違われるレベルにまで。
店員さんが下がったところで、顔を見合わせて忍び笑いをする。
「卒業して5年も経つのにな」
「本当にな」
大学時代、誰よりも共に過ごした親友。
過ごす時間は減っても、未だに似た者同士は健在だった。
お題
コスモス/雪山/温泉/パスワード/たまご/和菓子/5年/金魚/帽子/クエスト/三日月/文化祭/暖炉
計13単語を全部使いました。
(*´꒳`*) 楽しかった!