84生還
何にしても、これらが全部『伝説の武具』とは……。最大34名の勇者一行もありえたわけだ。もっともそんなに都合よく「素養があるもの」が集まるとも思えなかったが。
女神ラテナはケストラから受け取った『万物意操』の金の首飾りも山に放り込む。『魔法使いの腕輪』も後を追った。
『ご苦労さまです。それでは後ほど、私が責任持ってすべて破棄します。ムンチ、これが約束の品です』
女神は彼女が首にかけている、ひし形の黄色い宝石のようなものを取り外し、差し出した。
『これは宝石ではなく、「蘇生液」と呼ばれるものです。一滴垂らせば、どんな生物もたちまち蘇ります。量は足りるはずですから、使いすぎないように』
俺はそれを両の手の平で受け取る。思っていたほど重くはなかった。
「あ、ありがとうございます!」
早速慎重にフタを外し、中の黄色い液体を確かめる。花でも集めて絞り取ったのか、よい香りがした。
「シモーヌ……。生き返ってくれ……!」
横たわっている死体のシモーヌ。その額にひとしずく落とす。期待と不安の中、フタを閉めた。本当にこんなので復活するのか……?
だが効果はほどなく表れた――よい方向に。シモーヌの傷が修復する。真っ青だった五体に赤みが差した。体がはねたかと思うと、呼吸が再開される。それらに対する俺の歓喜は、やがて彼女の両目が開かれたことで最大のものとなった。
「シモーヌ、俺が分かるか? ムンチだぞ?」
「あれ……?」
生まれたての小鹿のように、シモーヌは上体を起こそうと懸命にもがいた。
「ム……ムンチさん……。私……一体……?」
「シモーヌ!」
俺はもどかしい思いをしている彼女を、そっと抱き締めた。
「温かい……。生き返ったんだな、シモーヌ!」
好きな子が戻ってきてくれたという事実が、こうまで俺を有頂天にさせるとは。きつく目をつむると、水滴が目尻から頬へと滑り落ちる。俺の脳内で爆発した喜びが、涙腺を直撃してその門を崩壊させていた。
「ううう……! よかった……本当に……!」
シモーヌは何が何だか分かっていないようだ。
「何を泣いてるんですか……? でも、それが私のためなら……嬉しいです」
「シモーヌ……うええぇん……!」
情けなくも俺は号泣してしまった。よく帰ってきてくれた、ありがとう、シモーヌ……!
俺が泣き止み、彼女に状況を説明するまで、相応の時間を要した。
神界と女神ラテナに別れを告げるときがきた。
『私には神としての任務があるので、この神界にはそうそう戻ってこられません。ただ、そのうち時間を取って色々手を加え、平和な環境に再構築したいと思います』
俺はあちこちに堆積する瓦礫、天使たちの死山血河を眺めた。天使を生み出して処理させるんだろうけど、どれくらいの時間がかかるか分からない。まあ、俺はもう神界を訪れることもないだろうし、すべて神さまがやるっていうのなら、任せるほかないだろう。
ホイトが進み出た。天使長から一魔族となって、金髪はふさふさだ。凛々しい切れ長の目が強固な光を発している。
「ラテナさま、我は皆を送ったらこの神界に戻り、あなたさまにお仕えしたいと存じます。ご許可いただけますでしょうか?」
女神は微笑み、ひざまずくホイトの頭にそっと手を載せた。
『それはありがたい。ぜひお願いしますね』
掌が離れると、ホイトは一つ首肯して立ち上がった。指を複雑に振る。途端に魔方陣が空中へ描かれた。
「それでは人界へ送るとしよう。さあ皆の衆、中へ入るのだ」
俺たちはホイトの魔方陣で人界に渡った。出てきたすぐそばに、魔王の地下迷宮の潰れた入り口がある。月光がそのはかない最期を無情に照らし出していた。
ケストラがランタンの明かりを点ける。その火をもらい、ムタージがパイプに点火した。
「ここに墓があるのか、少年?」
「ああ、掘り返されていなきゃな……と、あったあった。あれが鳥人グレフの墓だ!」
魔界の鳥人グレフと、超再生能力の持ち主・高級魔族ダルモアの墓が、並んで置かれていた。もちろんダルモアのそれには目もくれず、グレフの墓を夢中で掘り返す。シモーヌたちも手伝ってくれた。
やがて鋭い黄色のくちばしと、基本茶色で白い部分もある体毛が現れる。手足は人間のように伸びていて、灰色のズボンを穿いていた。永久の眠りについている。
俺は彼のくちばしに『蘇生液』を垂らした。みんなの前で再び奇跡が再現される。グレフが息を吹き返したのだ。彼は上体を起こすと、ぼりぼりと頭をかいた。
「おや……? あっしは死んでしまったんでは……? まあいいでやすけど」
結構軽いノリである。ケストラが彼に手を差し出した。
「わしを生き返らせてくれてありがとう、グレフ」
グレフはぎょっとして、慌てて土下座した。
「これはこれは魔王モーグさま……!」
俺とシモーヌは顔を見合わせて苦笑した。
ホイトとシモーヌはコウモリの羽で、グレフは翼で、ムタージは『羽のある靴』で、それぞれ空を飛んだ。俺とケストラは空飛ぶじゅうたんで移動する。グレフは「説明は後で」と言われたため、何が何やら分からずついてきていた
到着したのは魔法使いゴルドンの墓だ。彼が堕天使ウォルグの召し使い・ザルフェを道連れに、燃え尽きた場所だった。炭化してほぼ焼失した、黒焦げの死体を埋めた墓がある。
俺はそれを暴くと、『蘇生液』を一滴落とした。果たしてこんな状態からでも効果はあるのか、と疑いながら。
しかし、そんな俺を黙らせるほどの光景が現出した。まるで『僧侶の杖』で治療したかのように、両手両足が伸び、胴体と頭が遅れて生えてくる。奇跡は三たび起こったのだ。
「何じゃ、何じゃ? ここは天国じゃなかったのか?」
再生したゴルドンは俺たちの視線に、慌てて股間を手で隠した。




