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64真相

■真相




 俺はモーグに――ケストラ本体に尋ねた。


「それは――何だよ」


「それは、『自分を魔族に作り変えて、若返りと長寿を手にする』というものだよ、ムンチ」


 俺もダルモアもシモーヌも、一斉に驚愕した。


「何……だと……?」


「何ですって……!」


「モー……ケストラおじさま、そんなことが可能なのですか?」


 ケストラは微笑んでうなずき、自分の胸を叩く。


「このモーグの体がその証拠だろうて」


 魔王であった大魔法使いは楽しそうに話を続けた。


「……わしは47年前、聖歴543年に、たまたま街から逃げてきた奴隷のゴルドンを拾った。純粋で正直者の彼を気に入り、わしは助手とした。そして20年前、聖歴570年のとき――わしはゴルドンが街へ買い物に下りていった隙に、自分の手で研究施設を爆破したのだよ。あたかも事故でわしが死んでしまったように見せかけて、な」


 俺は少し呆れた。何でもかんでも滅茶苦茶なことを好むな、このおっさん。


「自分で爆破したってのか……。ゴルドンじいさんを騙したのか?」


「まあそうなるな。ただ、あやつには独り立ちできるお金を持たせておいたからの。家と職を見つけるまで不自由はしなかっただろうて。それに、人間から魔物へ自分の体を変更できる薬は、まだ実験段階で成功の保障はなかった。ゴルドンに迷惑をかけたくなかったというのもあったよ」


 ケストラ本体は――モーグは、いよいよ核心を突いた。


「そしてわしは、人知れず山中に身を隠し、とうとう魔薬を飲んだ。凄まじい苦痛がわしを襲った。そのとき、非常に残念なことに、わしの記憶はいったんすべて失われてしまったのだよ」


「ケストラとしての記憶が、全部?」


「うむ、『ほぼ全部』というべきか。ただ、今なら思い出せる。わしはこの若い魔族の体を得て、しばらくさ迷った後、金の首飾りによる『万物意操』を使い始めた。それで魔族や魔物を倒し、怯えさせ、従わせていったのだ。魔族には使えない『鋼の爪』の銀の指輪と、『転移』の銅版は、わしにはもうガラクタだったが、当時のわしはお守りとして一応持ち歩いていたのだ」


 シモーヌはグレフの亡きがらに寄り添いつつ質問した。


「ケストラおじさまがあの地下迷宮を作ったのですか?」


「いや、違う。あらかじめ何者かの手で作成されたのだ。住み心地のいい、外敵の侵入を許さない迷宮がね」


 俺は首をかしげた。誰かが魔王に協力しているとでもいうのだろうか。入り組んだ、複雑な地下迷宮を完成させられるなんて、凄まじい力の持ち主に間違いないだろう。でも、なんでそんな真似を?


「そういや魔王ってどうやって決めるんだ? 自己申告か? それとも魔物たちの投票とか?」


「馬鹿をいうな。わしは『モーグ』を名乗って、数年かけて人界の魔物たちからの崇拝――恐怖と言っていい――を勝ち取ったのだ。そしておあつらえ向きの地下迷宮に侵入し、支配した。『魔王の座に就く』とは、何か不思議なものでの。同じ実力の他者を殺し尽くして、自然とそうなるものなのだ。12年前のことだった」


 俺はようやく、『モーグ』と『ケストラ』が同一人物であると理解する。


「そうだったのか……。あれ、でも銀の指輪は? 何で旅芸人一座『ツェルモ』のリーダー、天使のセイラが持ってたんだ?」


「わしが魔王として人界の魔物たちを統一したことで、そうと知ったセイラが謁見(えっけん)しにきたのだ。神界代表としてな。わしは丁重に扱い、部下たちに彼女を傷つけないよう命令して、最下層のわしの部屋へと招いた」


 俺はうなった。いくら天使とはいえ、魔王の地下迷宮に単身乗り込むなど、セイラの胆力(たんりょく)は凄まじいものがある。


 ケストラは続けた。


「わしはそこでセイラに銀の指輪を渡したのだ。わしは笑ったよ。『その銀の指輪は、神界と魔界の住人には使えない、人界の人間のみ使えるもの。好きな人間に与えてみるのも一興だぞ』とね。セイラは指輪に文字が刻まれているのを読んだ。『念じろ。そのとき、爪は敵を撃つだろう』。わしはその指輪の本物の強さを、忘却の彼方にすっかり打ち捨てていたわけだ」


「なるほどな。それでセイラは俺にプレゼントしてくれたんだ。彼女は『人間らしく生きて、人間らしく死にたい』と言っていた。もう神界の命令なんかどうでもよくて、ただ人間たちが作ってくれた居場所に身を落ち着けたかったんだろうな……」


「ほっほっほ。これでだいたい話したかの?」


 シモーヌが挙手する。彼女にはまだ疑問が残っていたようだ。


「ケストラおじさまは、何で私を助けてくれたんですか? 山で転落して記憶を失った私を、どうして……」


「そうだな。モーグとしての――というより、人間ケストラとしての自我がまだいくらか残っていたためだろうの。ゴルドンのときのように、弱いものを見捨てておけないわしの優しい性格が表れたといえよう」


 俺は本人に聞こえぬよう、口の中だけでつぶやいた。


「自分で言うなよ」


「シモーヌの素質に気がついたのはムンチがやってくる前、つい最近だ。ちょっと普通の天使とは違う。何かが、というわけではないが、どことなく、な。それで残った魔道具の『転移』の銅板を、眠っているシモーヌの胸元に置いた。するとそれは溶けるように肌に吸い込まれていった……」


「それで私は『転移』が使えたわけですね」


「うむ、そのようだの」


 それまで黙って話を聞いていたダルモアが、苛立(いらだ)ちを隠さず言った。


「……結局何ですか? モーグさまは復活しないというわけですか? いや、モーグさまがケストラだったというわけだから……ケストラさま、新たな魔王として人界制覇に動き出していただけますね?」

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