表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/87

63研究

 そう、師匠は人間の権力者たちに、彼が作った魔道具――『伝説の武具』を納品して、その見返りに大金をせしめておったのだ。約200年ごとにな。わしも作らされたよ。その頃から、『伝説の武具』を装備した勇者一行が魔王討伐に旅立つ、という枠組みはできあがっていた。もちろん、わしや師匠の商品は、素養のあるものにしか真の力を発揮させられなかったがの。


 さて、ある日、師匠は病で突然亡くなった。


 僧侶の才能がなかったわしには、『僧侶の杖』で師匠の病を(いや)してやることはできない。当時のわしはわんわん泣いた。わしの居場所は失われてしまったのだ……。今でも残念に思うよ。


 しかし、わしは師匠をなくした代わりに、彼の庇護下から解放されて自由になった。それもまた一つの事実だ。


 わしは師匠を埋葬した後、彼の残した大量の文献を――極秘のものも含めて――読み(あさ)った。死者復活の方法が書かれていないか、などとね。残念ながらそんなものが都合よく発見されるわけもなかったよ。


 ただ一部の書には、「神界、人界、魔界の3つの世界があり、黒い火の玉の先には魔界が広がっている」と記されていた。わしはまだまだ魔法研究の途上にあったし、よりよい魔道具の開発を(こころざ)す意気込みもあった。そんなわしにとって、魔法の本場である魔界での研究は、どんな美女より魅力的に映ったのだ。


 そこでわしは、人界の勇者一行がうまく魔王を倒してくれるのを期待して、置き土産に手製の『伝説の武具』を残していくことにした。その際、わしは『勇者の剣』に魂を複写した。そこにいる剣の魂、そいつのことだな。魔王を倒した勇者一行が、命を失ってわしの魂を蘇らせる。その魂が転移の力を用いて王城の宝物庫に『伝説の武具』すべてとともに移動。後に魂が消滅する――そんな筋書きを描いたのだよ。ほっほっほ。


 それら商品を王のもとへ納品した後、わしは待望の、憧れの魔界への旅路に立ったのだ。聖歴前490年、わしが412歳のときだった。


 魔界はさすがに魔族・魔物たちの本場で、人界では見たこともないような奇怪な生物が跋扈(ばっこ)していたよ。わしは人間ということで奴らに狙われたが、返り討ちにする実力は身につけていた。


 それに、師匠の『岩壁を正方形にくり貫く』という魔法を覚えておいてよかったわい。わしはその力で『円柱』を取り出して、宙に浮かべて根城とした。もちろん、このままではただの岩の塊なので、崩れないように慎重に内部をくり貫いていったよ。


 それを物好きにも手伝ってくれる女魔族がいての。名はキュリアといった。彼女と彼女の一族が必要なものを持ってきてくれるので、研究施設の完成は早かった――それでも3年はかかったがの。


 ともかく、わしはできあがった大事な根拠地をさらに防備するために、触れた魔物や魔族を一瞬で消し去る見えない結界を張ろうと考えた。となると、世話になってきた魔族のキュリアともこれでお別れだ。わしはそう思ったのだが、あやつはわしに惚れ込んでおってのう。「ずっと助手を務めさせてくださいですの」とまあしつこい。


 わしはとうとう根負けして、キュリアが『円柱』にいる間に結界を張ってしまったのだ。一度張ったらそうは消えない結界だ、キュリアの生活空間はいちじるしく限定された。それなのにあいつは喜んでおったよ。わしとずっと一緒にいられる、とな。


 それ以降、わしはキュリアを助手として魔法の研究に打ち込んだ。その結果、『万物意操』の金の首飾り、『鋼の爪』の銀の指輪、『転移』の銅板など、強力な武具を作り上げたよ。これらは人間にも使える、あるいは人間にしか使えないなどそれぞれ欠陥もあるが、素養が必要ないというのが長所だった。


 わしは大いに満足だった。魔界での一日は、人界での百日に当たる。それほど密度が濃かったわい。ほっほっほ。


 そして、何となく気抜けしてしまって、人界での毎日が恋しくなってしまった。わしは魔界を離れて人界へ魔道具を持っていき、そこで色々実験しようと考えた。キュリアには悪いがの。彼女に別れを告げると、「ケストラさまは私が嫌いになりましたですの?」とやはりしつこい。わしはキュリアにすぐ戻ってくると言い残し、どうにか結界の外へ出た。


 そして空飛ぶじゅうたんを使って、近隣の塔を色々調べたよ。黒い火の玉が運よく見つかったときの安堵感といったらなかったわい。そして、わしはその中へ飛び込んだ。魔界へ入ってから400数年後、聖歴前90年のときだった。


 人界は夕方で、出てきたのは山の中だった。そこでわしは気付いた。鳥の羽を羽ばたかせる、白衣の有翼人種――天使たち数十人が、わしを包囲しているのをな。彼らの首領はウェイズと名乗る男で、わしの実力が魔王以上に強大だと語った。


 別にウェイズはわしを褒めにきたのではない。そんな強大なわしが人界にとって――さらに神界にとって有害になりうると判断し、殺害しにきたのだ。そしてわしと天使たちの戦いが始まった――が、わしの『万物意操』と『鋼の爪』を前に、それは一方的な虐殺となったよ。ほっほっほ。


 わしはウェイズ以外の天使を皆殺しにした。彼を見逃したのは、わしの神界への伝言を持たせるためだ。そう、「二度と手を出してくるな」とね。はな垂れウェイズはほうほうのていで神界へ戻っていったわい。


 わしは彼が見えなくなると、自分の研究施設――死んだ師匠の家を訪れた。だがそこは何者かによって破壊されておったよ。魔物か、天使か……犯人は分からずだ。まあ後者だろうがの。ともかくわしは別の山に行き、そこに拠点を作った。そしてその場所で色々な研究にじっくりと励んだ。


 なぜそんなに励むかって? それは、わしがこの三つの世界の頂点に立つ実力者でありたかったからだ。幼稚な願望だが、男として生まれたからにはそうありたいと欲するのも分からんではあるまい?


 ま、それはともかく、わしはしばらくして――というか、何百年も経ってから――、ある問題に向き合うこととなった。それは「老い」だ。


 師匠譲りの長寿薬を飲んでも飲んでも、わしははっきり老いさらばえていた。このままでは寿命が尽きてしまう。わしは焦った。まだまだ研究したいことは山ほどある。魔界ではキュリアを待たせてある。それなのに、自分の体にガタがきて死んでしまっては、すべてが中途半端で終わってしまうではないか。そんなのは真っ平ごめんだ。


 そこでわしは、ある計画を立てた。それは……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ