表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/87

61告白

「へへ、教えるもんかよ」


 ふと何かに気付いたように、高級魔族は嘲笑を閃かせる。


「ふふふ、そうですか、なるほど……。わたくしを油断させようと思ってそんな嘘を……! 危うく引っかかるところでした」


 嘘じゃないんだけどな。俺はできるだけ冷静に、相手を観察した。やはりあの剣が厄介か。どうにか取り上げられないだろうか。


「さあ、そろそろとどめといきましょうか!」


 ダルモアがコウモリの羽を躍動させて襲いかかってきた。俺は伸ばした爪で長剣と切り結ぶ。そこですかさず爪を鞭状にして、長剣の刀身に絡みつかせた。ダルモアの眉間に(しわ)が寄る


「ぬっ?」


 俺は『鋼の爪』で、彼の剣をその手から引っこ抜いた。遠く森の中へ放り捨てる。


「ざ、ざまあみろ……!」


「味な真似を……! しかし、わたくしの拳打の威力を知りませんね?」


 ダルモアの鋭いアッパーが俺のあごを的確に打ち抜いた。俺は吹っ飛ばされる。


「ぐっ……!」


 意識朦朧(もうろう)とした状態で、しかしどうにか転倒はまぬがれた。もっとも、立っていようが寝転んでいようが大差はなかっただろう。高級魔族は岩のような硬さの拳を握って、最後の一撃を加えるべく溜めを作った。


「さあ、とどめです! 死になさい、ムンチ!」


 脇腹からの激しい流血で視界が不明瞭になる中、グレフの悲痛な叫びが耳に届く。


「ムンチの旦那ぁっ!」


 いよいよ俺も最期か。ただではやられない、一撃報いてやる――と思ったが、もはや右手を持ち上げる力さえ失われていた。


 と、そのときだ。突如、俺とダルモアの間に光が爆発したのだ。無音の炸裂に、ダルモアとグレフの驚きの声が聞き取れる。


「こ、これは……!」


「『転移』の光……っ?」


 輝きが収まったとき、そこにたたずんでいたのは――


「ど、どうしたんですかダルモアさん。その血まみれでぼろぼろな格好は……」


 シモーヌだった。彼女が振り返り、俺の存在に気付く。


「ム、ムンチさんっ! 大丈夫ですかっ?」


 シモーヌは片手に木製の小筒を、もう一方に新『僧侶の杖』を握り締めていた。右腕に『魔法使いの腕輪』、耳に『武闘家のピアス』。腰帯には『復活の短剣』をたばさんでいる。首には『金の首飾り』もかけていた。


 彼女は俺に駆け寄り、その怪我に慄然(りつぜん)とした。


「今すぐ治します!」


 シモーヌが新『僧侶の杖』を振ると、太陽のような光輝とともに、俺の全身の傷が治る。脇腹も、怪我の跡さえないぐらい完璧に。


 俺は体中の痛みから解放され、確固たる意思を取り戻した。


「た、助かったぜ、シモーヌ……。その分じゃ、まだ『復活の短剣』は使ってないようだな」


「全速力で追いかけてきたんですね、ムンチさん。でも……」


 彼女はすっと身を引く。沈痛な表情だった。


「これから使います。モーグおじさまを生き返らせるために。邪魔しないでください」


 ダルモアがせせら笑う。優越感に浸っていた。


「シモーヌがその命を捧げてモーグさまを蘇生させようとするのは、(まぎ)れもなく彼女の意志です。ムンチ、あきらめなさい」


 そんなことは百も承知だ。だが、俺はがえんじなかった。なるほど、死んだ人間を復活させるのは当人の満足に繋がるだろう。しかし、それで後に残されたものはどうなる。結局使用したものの死を(いた)むしかないではないか。再生した人間とともに……


 いや、そんな理屈はどうでもよかった。俺はシモーヌが死ぬなんて真っ平ごめんだ。ただそれだけだったのだ。


「そうはいかねえ!」


 俺はシモーヌにつかつかと歩み寄った。シモーヌはまばたきする。


「ムンチさん……? きゃっ!」


 次の瞬間、俺はシモーヌを抱き締めていた。柔らかい(ぬく)もりを両腕で包み込む。


「好きだ、シモーヌ。好きなんだ」


「ムンチさん……!」


 俺は気がつけば涙を流していた。嫌だ。シモーヌがいなくなるなんて、嫌だ。


「モーグを復活させようなんて考えないでくれ。俺と一緒にいてくれ。生きて、生きていてくれ。頼むよ、頼むから……!」


 まるで駄々っ子のように、俺は天使にお願いする。号泣し、情けないことこの上なかった。だがそれを取り繕う余裕はない。


「ムンチさん……」


 シモーヌは鼻をすすり上げ、俺の台詞に感極まっていた。


「好きだって言葉……聞けてよかったです」


 彼女もまたむせび泣く。


「ありがとうございます、ムンチさん……」


 俺たちは互いに落涙(らくるい)しながら、心を通わせ合わせた。


 大丈夫。シモーヌは死んだりしない。俺はそう期待して、彼女の意志を確認する。


「なら、『復活の短剣』を使ったりなんかしないよな? シモーヌ……」


 シモーヌはゆっくりと翼を生やした。それに押されて、俺は抱擁していた腕もろとも後方へ尻餅をつく。彼女は悲しげに俺を見下ろして、羽を収納した。


「いいえ、駄目です」


「シモーヌ……!」


「私はモーグおじさまを復活させます。この命の使い方、邪魔しないでください……」


「そ、そんな……」


 だが俺は動けない。シモーヌの瞳はそれほど決意に満ちていて、俺の希望をねじ伏せる圧力を備えていたからだ。俺ごときではとうてい止められない。そう思い知らされた。


 シモーヌは数歩下がって、地面に小筒を置いた。中にモーグの遺骨が入っているのだ。


 彼女のかたわらに進んだダルモアは、思いどおりに進む物事に笑みをこらえ切れないみたいだった。


「いいですよ、シモーヌ、その覚悟! さあ、『復活の短剣』でそれを突き刺しなさい! さすればモーグさまが蘇生します!」


「分かってます。……さよなら、ムンチさん!」


 シモーヌが腰帯に()いた短剣を抜く。そして逆手に持ち、小筒に狙いを定めた。俺は地面に縫い付けられたように、その光景を眺めるのみだった。


「シモーヌ……!」


『復活の短剣』が掲げられる。その帰結を先取りして、俺は今さら意味のない制止の声を放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ