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54復活の短剣

「俺さまはバリー。ここら一帯を仕切っている魔族だ。人間と天使が侵入してきたとの報告を受けて、早速俺さまがお前らを食いにきたってわけだ。どうだ、びびったか?」


 仲間の仇を討つため、とかじゃないのか。魔王亡き後の魔族・魔物って、こんなに連帯感ないのか……。俺はため息をついて腰に手を当てる。


「うるせえな。俺たちを殺そうってのか?」


「おう、そのとおりよ」


「じゃ、死亡決定ってことで」


 俺はすかさずバリーの頭部へ『鋼の爪』の塊を撃ちこんだ。さっきまでの魔物たち同様、これでバリーは死するはずだった。


 だが……


「ぬう……。妙な技を使うな」


 馬鹿な。バリーの頭を粉砕したはずなのに、もう新しい頭が生えている。こいつ、まさか。バリーがにたりと笑みを浮かべる。


「落胆しろ、人間。俺さまは超再生能力の持ち主なのだ! それっ!」


 虎魔族が猪突猛進し、俺のどてっ腹を蹴り飛ばしてきた。重く鈍い衝撃に、俺は血反吐を吐いて吹っ飛ばされる。


「がはっ!」


 シモーヌが悲鳴を上げた。


「ムンチさん!」


 岩に激突して止まった俺は、激痛でなかなか起き上がれない。


「バリー、てめえ……ひょっとしてダルモアっていう高級魔族の親戚か?」


 異界の生物は俺の質問に目をしばたたいた。どうやら記憶に引っかかったらしい。


「ダルモア? お前、ダルモアを知っているのか?」


「ああ。魔界に来る直前、人界で戦った。お互い倒せないまま別れたが……」


 納得したようにバリーはあごを撫でた。


「そうか、ダルモアは人界に行っていたのか。どうりでここ最近姿を見せなかったわけだ。……奴とは支配区域をめぐって幾度も戦ったが、どちらも殺せずそのままだった」


 一瞬過去を懐かしむ虎頭だったが、すぐに目の前の戦いへ意識を引き戻す。


「面白い。ダルモアが倒せなかったお前を俺さまが倒す。これはそそるものがあるな。勝負だ、小僧!」


 バリーの血気盛んな猛攻が始まった。武器こそ使わなかったが、彼の拳や蹴りは十分な凶器だ。俺はそれらを全身使ってかわしながら、隙を見つけては『鋼の爪』を連射した。


「この野郎……っ!」


 だがどれだけ体に穴を開けられても、バリーはすぐに回復してしまう。爪を伸ばして突いたり斬ったりしてみるが、その負傷もすぐに再生した。いつしか辺りは、バリーの手足や頭が転がる血の海と化している。


「ムンチさん、逃げましょう! 無理に相手する必要はありません!」


 俺は少し意地になっていた。


「バリーが『ダルモアが倒せなかったお前を俺さまが倒す』って言っただろ。俺もそういう気持ちなんだよ。男ってのはそういうもんなんだ!」


「そんな……!」


「くそ、何か弱点は……バリーを倒す方法は……!」


 虎男が哄笑しつつ、今回何度目かのダッシュをかけた。


「無駄だ、死ねぇっ!」 


「ぐはっ!」


 拳が俺の頭をかすめる。それだけで側頭部の皮膚が裂け、血が噴き出した。俺は衝撃で転倒する。バリーが踏み潰しにかかってきた。


「とどめだ!」


 そのとき、俺の目には『円柱』を背にするバリーの足裏が映っている。そこで閃いた。必殺の一撃を横転することでどうにかかわすと、俺は『鋼の爪』を鞭状にしならせた。


「これならどうだっ!」


 バリーの胴体に、まるで帯のように爪を巻きつける。二重、三重、四重……!


「ぬうっ? 何の真似だ?」


「すぐ分からせてやるよ。……でやああっ!」


 俺は火事場の馬鹿力を発揮し、バリーの巨体を爪を伸ばしてぶん投げた。投げた先は『円柱』――の手前、「結界」!


 こちらの意図を(さと)った虎頭は、宙を飛ばされながら絶叫する。


「う、うわああっ! やめろおぉっ!」


 バリーは円柱の結界に接触した。たちまちその姿が消しくずとなって霧散する。超回復力の魔族も、結界の前にはなす術がなかったようだ。


 俺の怪我をシモーヌが新『僧侶の杖』で回復する。彼女は唇をとがらせていた。


「もうムンチさん、無茶ばかりするんですから……」


 見た目15歳の少女に心配されてる。そんな自分自身が少し情けなくて、俺は苦笑いでうやむやにした。


「でもうまくいっただろ?」


 月が出ている。いつの間にか日は沈みつつあった。気温が急速に低下している。


「寒くなってきたな……帰るか」


「はい」


 俺はシモーヌに抱きかかえられ、円柱に戻った。




■復活の短剣




 シモーヌはキュリアとすぐに打ち解けて、一緒に本を探し始めた。字が読めず手持ち無沙汰の俺は、屋上に出てのんびり日光浴していることが多くなる。石や弓矢でちょっかいをかけてくる魔物たちがいたが、すぐ『鋼の爪』で瞬殺した。退屈しのぎにはちょうどよい。


 女2人は探索途中で、『鋼の爪』を開発した経緯が記された本を見つけたらしい。あの銀の指輪を作ったのは神界の住人ではなく、ケストラだということが分かった。となると次の問題は、なぜ天使の間諜であるセイラがそれを持っていたかということだが……


 考えてもよく分からない。ただ、セイラは恐らく『鋼の爪』の実力を知らなかったのではないか。そうでなければおいそれと、人間の、しかも子供に与えることなどありえないだろう。


 ぼんやり考えていると、あの鳥人グレフが飛来してくるのに気がついた。何やら荷物の入った袋を縄で吊り下げている。俺はそちらへ向いて立ち上がり、大声を出した。


「よう、グレフ。差し入れか?」


 貴重な話し相手の登場は、割りと嬉しい。鳥人は結界に近づかないよう気をつけながら、直下の俺に答える。


「へい! 食糧と酒その他でやす!」


「キュリアを呼ぼうか?」


「いや、結構でやす。ただ、グレフがこう言っていたと伝えてくだせい。『愛してるぜ、キュリア』と」


 俺はぷっと噴き出した。


「ひょっとして680年もそれ言い続けてるのか?」


「へい。680年振られ続けておりやす」


 俺たちは爆笑した。何だか久しぶりに笑った気がする。グレフはロープをそろそろと下ろしてきた。

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