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45大魔法使い

これまでのあらすじ


『鋼の爪』の能力を持つ主人公ムンチは、勇者一行とともに魔王ウォルグを倒す。

だが『伝説の武具』を使用したものは、魔王の死の直後に命を奪われる運命にあった。

魔法使いゴルドン、勇者ライデン、武闘家ピューロ、僧侶メイナはその命を失う。

悲嘆にくれるムンチとシモーヌ。

しかし、彼らの前に突如、大魔法使いのケストラが姿を現すのだった……

■大魔法使い




「大魔法使いケストラ……?」


 俺がおうむ返しに言うと、彼はにやりと笑った。頭こそ無毛だが、それほど年老いているわけでもない。


「そうさ。どうせなら最後に『さま』をつけてほしいがの」


 大魔法使いケストラ。噂では数百年のときを生き、その魔法で山を割ったこともあるという、あの伝説の人物。魔法使いゴルドンが、水の体を持つ『天使殺し』のザルフェと戦っていた際に、彼の弟子だったと口にしていた。そう、ゴルドンは他にも言っていたはずだ。


「確か、ケストラは20年前に爆発事故で死んだんじゃなかったのか?」


 ケストラは目を丸くして愕然となった。初耳だといわんばかりだ。


「何だと小僧。爆発事故で死んだ? わしが?」


 シモーヌがかたわらから声をそえる。透き通る中年男の姿におっかなびっくりしながら……


「そ、そうですよ! 魔法使いのゴルドンさんがそうおっしゃってました」


「ゴルドン? そいつも勇者一行の一員かの?」


「はい、素敵なおじいさまでした」


 俺はゴルドンを他人事のように語るケストラが薄情に思えて、何となくなじるような口調になる。


「ゴルドンを知らねえってのか? 20年前にあんたが死ぬまで弟子だったやつだろ」


『勇者の剣』から浮かび上がるケストラは、額に人差し指を当てて、あたかも脳内を整理するように黙考した。やがて口を開く。


「まあ待て。まずは話を一つずつ解消していこう。……わしは死んだのだな?」


「ああ。ゴルドンの語ったことだ。研究施設もろとも爆発して息絶えたらしい」


「そうか。今は聖歴何年だ?」


「聖歴590年だ」


「するとわしは享年1472歳か。哀れ、わし。せめて安らかな眠りを……」


 自分で自分の死を(いた)むなんて光景、俺は生まれて初めてお目にかかった。何かの悪い冗談のような気もする。いや、それよりも……


「おいおい、1472歳? そんな長寿の人間なんているのか?」


 ケストラは黒い髭を撫でた。偉そうに胸を張る。


「ほっほっほ。わしの魔法にかかれば造作もないことよ。……ともかく、わしは大魔法使いケストラではあるが、実際にはこの『勇者の剣』に宿った複写物に過ぎんのだよ」


 シモーヌが首をかしげ、理解できないという顔つきになった。


「複写物? どういうことでしょう。そういえば、体がじゃっかん透けていますが……」


 ケストラは「ほっほっほ」と笑うと、茶飲み話でもするかのようにあぐらをかいた。


「うむ。なぜこんなことをしたのか教えてやろうかの。……と、その前に。ここはどこかの?」


 答える俺の肌を、暖かな日光が撫でていく。




「……わしは12歳のときに最初の魔王騒動に出くわした。聖歴前890年じゃの。それは誰かが倒した。やがてわしの魔法の師匠であるセルディオが、魔王を倒すための『伝説の武具』を研究・製作して権力者に納品していたことを知った。わしは師匠亡き後、その仕事を引き継いだ。なぜかというと、約200年ごとに出現する魔王とその眷属(けんぞく)たちが、とてつもなくうざかったからだ。やつらは人の世界に入ってきては、特段事情もなく、目に付く人間たちに襲いかかる。この大魔法使いであるケストラにさえ、な。そこでいわゆる『勇者一行』に『伝説の武具』を渡し、魔王を討伐してもらうという段取りを、権力者との間で続行すると決めたのだよ。魔王打倒は共通の目的だったからの」


 俺は口を挟んだ。『伝説の武具』を作れるぐらいなら、どうして……


「あんた自身が魔王を倒そうとは思わなかったんだ? 『大』魔法使い『さま』なんだろ? 自作である『伝説の武具』を自ら装備すれば、魔王を倒すなんて造作もないだろうに」


 ケストラは話を邪魔されて、「うるさいのう」と不快そうに俺をにらむ。しかし、すぐ肩の力を抜いた。


「それについてはおぬしらのほうがわかっておるだろう。素質を持たないものが装備しても、何にも役に立たないのが『伝説の武具』だ、と」


「ま、まあ……。確かに」


『伝説の武具』を作る技術と、実際の戦闘能力は別物ってことか? ……いや、少なくともケストラは『魔法使いの腕輪』を装備して使用することは可能だったはずだ。魔法使いなんだし。


 俺の思考に気付かず、中年は話を続ける。


「何にしても、この『伝説の武具』に関してわしは目立ちたくなかった。もしことが大っぴらになれば、知らん奴らがわしの力に興味を抱いて続々と訪ねてくるに違いない。そんなのうざいからの。わしは極力表に出ず、魔法研究のかたわら、『伝説の武具』を製作して権力中枢に納品していたのだよ」


 シモーヌが核心をつくように切り込んだ。


「ではなぜケストラさんは、『勇者の剣』に自分の複写物――今目の前にいるあなた――を与えたんですか?」


「うむ、よくぞ聞いてくれた。わしは『伝説の武具』を作ることにより、魔王や魔族、魔物たちから恨まれるようになっての。研究施設を襲われることもたびたびだったよ。そこで、わしがいつ殺されてもいいように、またある目的のために、聖歴前490年に『勇者の剣』に自分の魂を複写したんだな。それが、今おぬしらの目の前におるわしなんじゃよ。ほっほっほ」


 だから自分の弟子である魔法使いゴルドンのこと、爆発事故で自分が死んだこととかを知らないわけか。彼は『勇者の剣』に内蔵された、過去の――1080年前のケストラなのだから。俺は腕を組んでうなる。


「おい、シモーヌの質問に答えてないだろ。なんでケストラ――本物のケストラは、そんな複写なんて真似をしたんだ?」


 ケストラは驚くべきことを口にした――あくまでひょうひょうと。


「もちろん、わしに勇者一行の命を吸い取らせ、それを養分にしてこのわしを復活させるためさ。『伝説の武具』を責任持って王城に転移させる。それがわしの、そしてケストラ本体の真の目的というやつさ」


「な……っ!」


 俺は驚愕(きょうがく)してしばらくまぶたを閉じられなかった。今目の前にいるケストラのため、だと?

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