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41決戦3

「俺はもらった。ゴルドンに、ピューロに、ライデンに、シモーヌに、メイナに。放浪の10年の果て、俺は勇者一行の仲間になれたんだ。そのときの――自分の居場所を手に入れた嬉しさ、温かさ、ありがたさを、お前は手に入れられるのか? どう考えても無理そうだけどな……」


 ウォルグは苦笑し、俺の疑問を一蹴する。


「この期に及んで何をたわけたことを。我輩が神界にいた頃、他の天使たちはただの下等な生き物にしか見えませんでした。ザルフェも単なる駒。孤高の我輩に居場所など必要ないのです。そんなものが必要なのは、自力で生きられない脆弱(ぜいじゃく)な存在だけでしょう」


 脆弱か。はは、まったくそのとおりだ。俺は何もできない無力さを呪った。魔王はそんな俺を笑殺する。


「つまらない辞世の言葉でしたね、ムンチ。さあ、死になさいっ!」


 瓦礫が俺に向かって動き出す――


 と、そのときだった。俺の斜め後方からウォルグ目掛けて、炎の球が6発連なって飛んでいったのだ。


「何っ?」


 ウォルグは『邪閃光』の力で楽々防御する。だがその一方、集中が切れたためか、宙に浮かべていた塊が真下に落ちて轟音を立てた。粉塵舞い上がる中、俺は後ろを振り返る。そこにいたのは――


「シモーヌ!」


 先ほど大量の瓦礫に圧殺されたはずのシモーヌが、部屋の出入り口で元気な姿を見せていた。今の火球は彼女が撃ったものだったのだ。シモーヌは喜びのこもった声を上げる。


「ムンチさん!」


 なぜ彼女は生きているのだろう。なぜ玄室の出入り口に現れたのだろう。ともあれ、俺は彼女のもとに駆け寄った。


「何で無事だったんだ?」


 俺の当然の問いかけだったが、シモーヌは微笑んで、まずメイナのそばに転がる新『僧侶の杖』を拾い上げる。


「まずは治療が先です!」


 彼女は俺の右手人差し指を(いや)した。効果は抜群で、俺の指は元に戻る。あれだけ痛かったのが、今はすっかり治まっていた。


 シモーヌは続けてメイナの回復にかかる。杖を振りながら俺の疑問に答えた。


「私、『転移』したんです、自分の意思で! 潰される、何とか逃げなきゃ、そう願った一瞬に、私は迷宮の中に飛び出していました。状況を理解するまで少し時間が必要でしたが……」


 そうか、瓦礫の山に挟まれる直前に、彼女は転移していたというわけか。


「以降は戦いの音を頼りに、手探りでこの部屋までやってきました。そうしたらムンチさんが殺されそうだったので、『魔法使いの腕輪』で助太刀させていただきました」


 メイナが回復し、目をしばたたいて俺たちを見上げた。


「……あれ、シモーヌ! ライデンは? 魔王ウォルグはどうなったの?」


 俺は彼女の手を掴んで引っ張り起こす。玉座の方を見やれば、まだ煙でぼやけていた。俺はかいつまんで指示を出す。


「まだ戦闘の最中だ、メイナ。お前はシモーヌと一緒に左回りで移動しろ。俺がウォルグへまっすぐ攻撃して時間を稼ぐから、その間にライデンとピューロを治してやってくれ。あの二人は命が危ない状態だ。頼むぞ!」


「分かったわ!」


「はい!」


 俺は煙のまっただ中を走り出した。ぼやけたシルエットながらウォルグが確認できる。ともかくまた顔を狙い撃ちして視界を(さえぎ)らねば。俺は右手人差し指を構えた。


「食らえっ!」


『鋼の爪』を射出する。それは『邪閃光』に(はば)まれることを想定しての攻撃だったが――


 魔王の頭が粉々に吹っ飛んだ。


「当たった?」


 俺はむしろ爆砕できたことを不審がる。あっけに取られて立ちすくんでいると、俺の右足がいきなり強烈な衝撃とともに爆発した。


「ぐああっ!」


 俺は仰向けに倒れて激痛にうならされた。血がどくどくとしたたり落ちる。あまりの痛みに涙が出た。そんな俺に近づいてきたのは魔王ウォルグだ。


「どうですかムンチ、我輩の造形能力は……!」


 爆風で粉塵が吹き飛んだ視界に、瓦礫で作られたウォルグの影人形が突っ立っていた。俺が破壊した頭部は、その人形のものだったのだ。俺は自分の迂闊(うかつ)さを呪った。


 魔王は俺を見下ろしつつ(いぶか)る。


「それにしても、さっきの炎は『魔法使いの腕輪』……。シモーヌはまだ生きていたというわけですね。今はどこに……」


 魔王の右斜め後ろで光がまたたいた。


「何っ?」


 煙が晴れる。そこにはライデン、ピューロ、メイナ、シモーヌが、厳しい表情で揃っていた。ライデンの腕、ピューロの背中、ともに完治している。新『僧侶の杖』の力だ。


 勇者ライデンが『勇者の剣』を握り締めた。


「そろそろ決着をつけようか、魔王」


 武闘家ピューロが腰を落として身構える。


「ボクが野望を阻止してみせます、ウォルグ」


 僧侶メイナが不敵に笑った。


「あたしがあんたを倒して、本の主役になるんだから。覚悟しなさい」


 天使シモーヌの声は涙でにじんでいる。


「ウォルグさん……。あなたは私のおじさまの仇です。滅亡してください」


 魔王は彼らに正対した。その背中のマントの黒さに、薄黄色の長髪が溶け込むようだ。


「ふん、回復したから何だというのですか? 振り出しに戻ったなら、また我輩が元に戻してさしあげましょう! 『万物意操』!」


 俺は右足で暴れ回る激痛をこらえ、ウォルグへと右手人差し指を向ける。


「させるかっ!」


『鋼の爪』が伸びて、鞭のようにしなって魔王の右足に巻きついた。だが『邪閃光』の輝きで防がれ、衣服すら切り裂けない。しかしウォルグの注意は、一瞬こちらにひきつけられた。


「ええい、邪魔ですねっ!」


 ピューロがその隙に乗じて疾走し、魔王の左足にタックルをしかける。これが見事に決まった。『武闘家のピアス』の力のおかげだ。


「うおっ!」


 ウォルグは仰向けに転倒する。とうとう魔王を転ばせた。二度とない機会に、俺とピューロは主役の名を呼んだ。


「今だ、ライデン!」


「ライデンさん!」


 この世に切り裂けないもののない、伝説の武具『勇者の剣』。それを構えたライデンが、裂帛(れっぱく)の気合いもろともウォルグに飛びかかった。

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