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39決戦2

「食らえっ!」


 ライデンの素晴らしい刺突が魔王に迫る。これは決まったか? だがウォルグは『万物意操』でライデンの足元の床を浮上させた。さっきの俺に仕掛けた攻撃と同じだ。ライデンもこれについていけず体勢を崩す。ピューロが跳躍した。


「危ないっ!」


 彼は空中のライデンに素早く抱きつきつつ、もろとも瓦礫から逃れた。その背後で、天井と床の瓦礫二つが激突する。轟音が鳴り響き、俺はぞっとした。さっきの俺に対する攻撃にプラスして、天井の塊との挟撃を狙っていたのだ。ピューロがライデンを助けなければ、勇者は確実に死んでいた。


 俺はメイナに足を治してもらうと、シモーヌと入れ替わるように前に出て、『鋼の爪』を連射した。すべて『邪閃光』に(はば)まれることを承知の上で、ウォルグの目元を狙う。


「うぬっ……!」


 思ったとおり、防御の『邪閃光』の光で、ウォルグは視界をさえぎられるようだ。少し間抜けっぽいが、これは『邪閃光』の唯一の欠点といえるだろう。その間にライデンとピューロが体勢を立て直した。しかし……


「くそっ……」


 ここまでである。俺の『鋼の爪』速射は、『邪閃光』の完璧な防御で、決してウォルグには届かない。ライデンの何でも断ち切る『勇者の剣』なら、『邪閃光』ごと魔王を両断できるが、それには俺が連射をやめねばならない。同士討ちに陥る危険性があるからだ。ピューロの拳はこの際役には立たないだろう。メイナとシモーヌも同様だ。突破口というものがないのだ。


 そのとき、背後から欣喜雀躍(きんきじゃくやく)するシモーヌの声が聞こえてきた。


「ああ、両手が! ありがとうございます、メイナさん!」


 どうやらシモーヌの切断された両手が、メイナの新『僧侶の杖』のおかげでにょっきり生えたらしい。俺は閃くものがあり、シモーヌに頼んだ。


「シモーヌ、俺の腕の『魔法使いの腕輪』を外して、それを自分の腕につけるんだ。もしかしたら攻め手が一個増えるかもしれない。早く!」


「えっ、でも私は魔法使いの素質なんてないですよ!」


 俺は執拗(しつよう)にウォルグを撃ち続ける。視線をそらさず相手を釘付けにする一方、背後の天使に怒鳴った。


「いいからやれ! この際試せるものは何でも試すんだ! 生き続けたいならな! それが人間ってもんだ!」


「は、はいっ!」


 シモーヌは俺に駆け寄ってきて、素早く『魔法使いの腕輪』を装備した。だいぶぶかぶかだ――と思っていたら、勝手に腕輪のサイズが縮小してぴったりの大きさになった。いけるのか? シモーヌが平手を魔王にかざした。


「どうかお願いします、ゴルドンさん! 天国から力を貸してください! 火球を使わせてください!」


 しかし――腕輪に反応はない。俺はしょげた。


「駄目か……。新『僧侶の杖』は扱えたんだがな」


「すみません……」


「いいさ。……ライデン! ピューロ! 一か八か突っ込むぞ!」


 俺の連射でなかなかウォルグに近づけなかった二人が、同意を口にした。


「よし!」


「了解です!」


 駆け出したライデンとピューロを、うろたえたシモーヌが制止しようとする。


「は、早まらないでください!」


 ウォルグは、頭を振っても追いかけてくる『鋼の爪』にいらいらしているようだ。


「いまいましい……!」


 ウォルグが『万物意操』で床中央を持ち上げた。その隆起は俺の視界をさえぎる。これを突き抜けた『鋼の爪』が、仲間に誤射してしまう危険を考慮し、俺は一時的に射出をやめた。


 その直後だった。隆起の向こう側で爆発音がとどろき、粉塵が舞い上がったのは。それは当然ウォルグの『邪閃光』が起こしたものだと察せられる。俺は仲間二人の身が案じられ、思わず叫んだ。


「ライデン! ピューロ!」


 俺は即席の丘を駆け登り、向こう側を見下ろした。煙の中、そこに見えたものは――


「ラ、ライデン!」


 ライデンは右腕が吹き飛ばされて、『勇者の剣』を取り落としてしまっていた。血潮が断面から床へと染み渡っていく。激痛にもがき苦しみ、七転八倒する勇者のむごたらしい姿。ウォルグの『邪閃光』をまともに受けたのだ。


 右利きのライデンは床の盛り上がりで斬撃を封じられ、その結果なす術なくやられた。俺にけしかけられたために……。しかしウォルグに迫ったのは彼だけではない。俺はもう一人の名を呼んだ。


「ピューロ!」


 ピューロは魔王ウォルグの胴にしがみつき、その動きを封じている。堕天使は焦って振りほどこうと必死だ。


「こ、この……! どきなさいっ!」


「ムンチさん、今ですっ!」


 俺は「任せろ!」と短く応じて、右手人差し指を突き出した。


「ウォルグ、これならどうだっ!」


 俺は『鋼の爪』を伸ばすと、鞭のようにしならせて魔王の頭部を痛打する。だが……


「くそっ!」


 俺は悔しさで背骨を焼いた。ウォルグの『邪閃光』の輝きが、彼の頭部に線を描いてまたたいている。刺突、射撃、鞭の斬撃と、俺の攻撃はことごとく弾き返されたのだ。ウォルグの側近である水の魔族ザルフェ――彼に対したとき同様の無力感が、俺を押し潰しそうだった。


 ウォルグは一拍の安堵ののち、けたたましく哄笑した。


「はっはっはっ! 我輩は無敵です! ……ええい、いい加減にしなさい、ピューロ!」


 ウォルグの額から放たれた光球が、カーブを描いてピューロの背中に接触する。その途端。


「がっ……!」


 ピューロの背中が――小規模だったが――爆発し、彼の血と肉が煙とともに飛散した。ピューロはずるずると滑り落ち、魔王の眼前でうつ伏せに倒れる。ライデンが歯を食いしばって根性を見せた。


「ピューロ! おのれ……っ!」


 彼は右腕を砕かれてなお闘志を失わず、左手で『勇者の剣』を握り、ウォルグに斬りかかる。もちろんそんな慣れない攻撃を受けるウォルグではなかった。あっさり空振りさせると、勇者に足をひっかけて転ばせる。


「死ねぇっ!」


 ウォルグはライデンとピューロにとどめを刺す気だ。俺は危機を感じ取り、再び『鋼の爪』を奴の目元目がけて連射した。すべて『邪閃光』にはね返されるが、ウォルグを後退させることはできた。

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