38決戦1
■決戦
ウォルグが玉座から立ち上がる。漆黒のマントがカラスの羽のように広がった。美しい顔と相まって、まがまがしさが立ち上る。
「さあ、そろそろ幕引きといきましょうか、皆さん! 覚悟はいいですね?」
鎖を引っ張って、シモーヌを無理矢理立たせた。
「きゃあっ!」
俺とピューロは同時に叫ぶ。
「シモーヌ!」
ウォルグは残虐な笑みを浮かべて、おかしくてたまらないとばかりに口走った。
「ははは、人気者ですねシモーヌ! 皆さんにいいものを見せてさしあげなさい。それ!」
魔王の能力『万物意操』により、シモーヌの手枷が外れる。そこから現れたむご過ぎる姿に、ライデンとメイナが相次いで叫んだ。
「なっ……!」
「ひ、酷い……!」
何とシモーヌの両手は、手首のところで切断されていたのだ。傷は塞がっているが、俺たちの怒りを呼び覚ますには十分以上な仕打ちだった。
「てめえ……!」
ウォルグはそんな反応が返ってきたことで悦に入っている。
「何でこんな真似をしたか分かりますか? シモーヌの能力『転移』の指輪を手に入れるためですよ。……ですが、切り落とした両手からは発見できませんでしたね。体のどこか別の部位に隠されているのでしょう。いや、残念です」
俺は血管がぶち切れそうなぐらい、怒髪天を衝いた。
「何が『残念』だ、このくそ野郎っ! さっさとくたばりやがれぇっ!」
ウォルグの額目がけて、俺は神速で『鋼の爪』を伸ばす。それは完璧に狙いどおりに命中した。脳を貫かれて生きていける生物などいない。俺はあっさり勝った――
と思いきや。
「何っ?」
魔王の頭部に青い光がまたたいている。それは俺の爪を通過させず、ぎりぎり直前で防いでいた。俺の爪が通じない――?
ウォルグは勝ち誇って、自身の能力を自慢する。
「我輩は今までの怠惰な魔王とは違います。『進化する魔王』とでもいいましょうか。悪魔としての力を引き出す方法を見つけたのですよ。これが必殺……」
ウォルグの光が分かれ、一方が俺の爪の上を逆走してきた。ライデンがそこへ飛びかかる。
「ムンチっ!」
『勇者の剣』が俺の爪を切り裂いた。行き場を失った光が空中で爆発する。その爆風が俺とライデンをしたたかに打ち据えた。
「うわあっ!」
「ぐぅうっ!」
ウォルグが俺たちのうめき声に聞きほれている。まるで素晴らしい手品を披露した芸人のようだった。
「……必殺、『邪閃光』! 攻守一体の夢幻の光! 『万物意操』と組み合わせればこんなこともできますよ!」
俺たち勇者一行の中間にある床が、瓦礫として浮かび上がり、ウォルグの光――速度はさほどでもない――を浴びて爆砕する。破片が高速で飛び散り、俺たちを痛打した。ピューロとメイナが悲鳴を上げる。
「うぐっ!」
「きゃああっ!」
さっきまで無傷で立っていた俺たちは、たちまちのうちに床に突っ伏していた。そこへ魔王が愉悦を含んだ高笑いを響かせる。
「はーはっはっ! いいざまですねぇ! 今度は直接『邪閃光』で、頭でも爆発させてあげましょうか!」
そのとき、悲痛な制止が湧き上がった。シモーヌだ。
「やめてぇっ!」
「むっ?」
彼女はウォルグに前腕だけですがりつく。長身の魔王を見上げて涙をこぼした。
「あなたも天使なのでしょう? そうなら人間の味方をするべきです! どうして人間を支配しようなどと思うのですか? ……あなたは間違ってます!」
指摘された側はいたって冷静に微笑する。
「間違ってなどいませんよ、シモーヌ! 魔王モーグに拾われて5年、記憶喪失後のあなたを養ったのは魔王と魔物たちですよ! 彼らを『人間にとって危険で有害だから』と殺そうとしたのは、そこに転がる人間たち――勇者一行ではありませんか!」
「そ、それは……」
シモーヌのまごつきに、ウォルグは畳みかけた。
「魔王も人間もお互い殺し合ってきたのですよ。何百年、あるいは何千年と。この闘争に正義も悪もないのです! 我輩のように、魔王となって人界を征服する野望を露わにするほうが、どれだけ正直であるか……」
俺は痛みをこらえて立ち上がる。魔王に右手人差し指の先端を向けた。憎しみが胸を焦がす。
「この野郎、勝手なことばかり抜かしやがって! どけ、シモーヌ! 食らえウォルグ、爪の乱れ撃ちだ!」
シモーヌが慌てて離れると、俺はウォルグ目がけて『鋼の爪』を連射した――それこそ豪雨のような勢いで。だが『邪閃光』は魔王の体表で淡くきらめき、すべての爪を弾き返す。こいつ、マジか? ウォルグがけたたましく笑った。
「はははははっ! 無敵の爪もこうなると形無しですね。それ、『万物意操』!」
俺の足元が突如盛り上がり、載った俺ごと急上昇した。天井と瓦礫とで挟み込み、俺を潰す気だ! 俺は真下の塊を『鋼の爪』連射でぎりぎり粉砕する。だが空中に放り出された格好の俺は、そのまま垂直に落下して足から床に叩きつけられた。ボキリと太ももの骨が折れる音がする。激痛が爆発し、俺は一瞬気が遠くなった。
「うぐぅっ! く、くそったれが……!」
僧侶メイナがまず自分自身を治療したあと、ライデンとピューロの傷を癒やす。
「シモーヌ、こっちに来て! その両手、治るかもしれないから! それからムンチ、すぐ行くからしばらく持ちこたえて!」
そうしたメイナの活躍を前に、魔王ウォルグは不快感を剥き出しにした。鋭い牙が唇の奥に見える。
「やはり『僧侶の杖』は邪魔なことこの上ないですね。まずはそこの娘から殺して差し上げましょう」
ライデンが『勇者の剣』を掲げてウォルグに迫った。その猛牛のような突進はさすが勇者といえる。
「させるかっ!」
「馬鹿ですね。『邪閃光』をどうぞ!」
ウォルグの指先から光の球が飛び出し、ライデンに襲いかかった。しかしライデンはひるまない。
「『勇者の剣』に切れないものはないっ!」
何とライデンは、魔王の青い光すらも真っ二つに叩き切ったのだ。二分された輝きは背後の壁まで飛んでいって爆発する。これにはウォルグも仰天した。
「何っ?」




