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一徹を抜く時

「アスカ、今日の模擬戦闘の対戦相手が掲示されてたけど確認した?」


 米帝魔導学校で朝食をとっていると、後から来たヒビトが僕の隣に座りながら今日の予定の話をしてくる。


「え? 知らなかったよ。僕は誰と模擬戦することになってた?」

「アスカはね、エレンさんとだったよ」

「エレンさんと⁉︎」|


 まじかーと思いながら、背もたれに寄りかかる。

 エレンは上級魔導士だから、てっきりヒビトと模擬戦するのかのと思っていた。


「実力差がありすぎるよ」

「まあ、上級魔導士が相手だと気が引けるよね。だけど、アスカなら、大丈夫かもしれないよ」

「いや、ヒビト。その自信はどこから来るのさ」

「そらはもちろん、アスカを信頼してるからさ」


 その信頼は重たいよヒビト。

 僕は、少し溜息を吐きながら、朝食のスープをすする。


 そんな、多大な信頼を寄せられて、少し息苦しくなっているところに、あのイケメンがやって来る。


「おはよう。アスカ君達」


 エレンは、すでに魔導戦闘用の服装に着替えている。


「今日は、アスカ君と戦える機会が得られて嬉しいよ」

「あの、どうして僕なんですか? ヒビトじゃなくて」


 エレンはよくぞ聞いてくれましたと言った表情で話し始める。


「僕はね、前々から君に興味があったんだ。君は一部では有名人なんだよ。最も強い攻撃魔導士の1人、あの東洋のジャンヌダルク、ソイニー様の弟子、そして、あすなろ荘では謎の襲撃者から子ども達を守ったアスカ君。だから、僕は一度君と戦ってみたかったんだ。君の実力がどれほどなのか知りたいんだ。後、その刀の魔導具もきになるしね」


 エレンは気持ち悪いくらいに僕に詳しかった。

 しかも、秘密にされているあすなろ荘の事件のことまで知っていた。

 後、刀の魔導具。

 普通の魔導士は杖を用いる。

 僕は通常、手からそのまま魔導を現界させるが、強い相手など実力以上の魔導を使わなければならない時は増幅用魔導具である刀で戦うことにしている。

 エレンが、この『一徹』について魔導を増幅させることができるなどを知っているか分からないが、彼は確実にこの刀に興味を持っている。

 これは、下手すると僕が魔導具士であることもバレてるんじゃないかと不安になる。

 しかし、それ以上の情報をエレンは言ってこなかった。


 エレンは話し終わると、「それじゃあ後で」と言い残して去っていった。

 模擬戦まで後一時間。

 僕は急いで朝食を食べ終わるとヒビトを残して、先に自室に戻る。


 自室前に行くと、そこにはマミがいた。

 マミは僕に気づくと、側に寄ってきて、もじもじしている。


「あの、アスカ君、今日の模擬戦、エレンさんとだってさっき知って‥‥‥」

「そうみたいなんだよね。ちょっと今僕ね、ビビってるんだ」

「え!? 大丈夫? 私に何かできればいいんだけど」

「いや、大丈夫だよ、マミ。それよりどうしたの?」

「いや、その、頑張ってって伝えたくて」

「そうだったんだ、ありがとうマミ」

「私、思うの。アスカ君なら大丈夫だと思う。あすなろ荘も救って、私も救ってくれたアスカ君は誰よりも勇気があって、困難に立ち向かう力があると思うから‥‥‥。ごめんね、試合前に時間を取らせちゃって、それじゃあ頑張ってね、応援してるから」


 そういうと、マミは走って、消えていってしまった。

 誰よりも勇気があるか‥‥‥

 そう思ってもらえているならありがたいけど、僕はただの臆病者だよ。マミ


 僕は心の中でそっと呟く。


 自室に入り、ベッドに座る。

 さっきから右手の震えが止まらない。

 普段、ソイニー師匠やユミ姉と模擬戦をしているが、今回は米帝大統領の息子で、米帝の上級魔導士との模擬戦である。

 しかも、相手の魔導についても攻撃魔導士という情報しか知らない。

 ビビっても仕方ない。と僕は自分を自分で諭す。


 ——コンコン


 ドアを誰かがノックする。


「どうぞ」と声をかけると、ロージェ先生が部屋の中に入ってきた。


「アスカ、ここにおったか」

「ロージェ先生どうかされましたか?」

「いや、アスカが今日の模擬戦でエレンと対戦することを知ってな。様子を見にきたのじゃ」

「そうだったんですね」


 ロージェ先生は本当に面倒見がいい。

 いつも僕のことを気にかけてくれる。

 まあ、魔導具士の弟子だから当然なのかもしれないけれども、僕にはそれが嬉しかった。


「アスカ、エレンは強いぞ。米帝大統領の次男で、すでに上級攻撃魔導士。ヒビトとはまた違う強さだ」

「ヒビトとは違う強さですか?」

「そうじゃ、ヒビトはしなやかさがある。攻撃をするにも彼なりの美学が垣間見え、効率よく敵に最大限のダメージを与えるようにヒビトは攻撃し、さらには剣術も使って攻撃の幅を増している。一方、エレンは、聞いたところによると、力こそ正義といった感じじゃ。力でどんどん攻めてくる。全てを破壊してしまえば、最後に勝つのは自分だという考えらしい」

「それは少し戦いずらそうですね。こちらが何か細工したとしても、強さで全てを無に帰されてしまいそうですし」

「そうじゃ、だから助言に来たのだが、アスカ、そろそろ『一徹』使ってもいいのではないか? お主は魔専では、他の人に使うところを見せることを避けてるみたいだが‥‥‥」

「その、やはり刀の魔導具は目立ちますので‥‥‥目立つと、魔導具士としてバレる可能性も出てくるのを懸念して、これまで使用を控えていました」


 本当ならば、もっと『一徹』を使って修行を積みたいが、如何せん、刀の魔導具は目立ってしまうのが難点だった。

 だが、今後はそうも言ってられないのはわかっている。

 僕は、さらに強くならなければならない。

 それには『一徹』の力が必要で、『一徹』を使いこなさなければならない。

 最終的には、秘技だって使えるようになりたい。


「ワシは、今回の模擬戦、『一徹』を使うべきだと思うのじゃが、そして、一徹を使って上級魔導を現界させても良い」

「え? ロージェ先生だけど、それでは怪しまれてしまいませんか?」

「アスカ、この前な、ユーリ様に言われたのだ。あの刀の魔導具はなんなのかと、そして、なぜ上級魔導が使えるのかと。一応誤魔化しといたが、すでにアスカが上級魔導を扱えることはばれ始めている。この前のレイト君の事件の時も使っただろ。おそらく、マミやヒビト、ナオミは言わないだけで気づいておると思う。つまりじゃ、もう隠す意味はない」

「そうかもしれないですけど‥‥‥」

「最終的な判断はお前に任す。とりあえず、今日の模擬戦全力で頑張ってきなさい。米帝大統領の次男だからと言って遠慮するでない。勝てば有名人になれるぞ。魔専の実力も示せるし。もしかすると姫様から褒美ももらえるかもしれないぞ」

「え? 姫様から?」


 ロージェ先生は話し終えると、部屋から出て行った。

 相変わらず姫様というワードに弱い僕。

 多分、ロージェ先生もそれを理解して、ワザと姫様を出汁に使っている節がある。

 まあ、仕方ない。

 チームリーダーとしての威厳も守らないといけないし、魔専を舐められたくもないし。

 後、僕が無様なところを晒せば、ソイニー様の顔に泥を塗ってしまう。

 ‥‥‥やるしかないか。


 僕は、ベッドから立ち上がる。

 そして、模擬戦会場へと向かう。



 —————

 模擬戦は全部で20試合行われる予定である。

 今は10試合目、次が僕の出番である。

 ここまで、魔専はヒビトが勝ち取った一勝だけで、後の9戦は全て負けている。

 散々な結果であった。


 僕の前の生徒の試合も終わり僕の出番が回ってくる。

 僕はゆっくりと競技場へと足を進める。


 競技場には、魔導学校の生徒だけでなく、近隣の市民や政府高官、米帝軍関係者など多くの人が魔専の実力を見るために来ていた。

 多分、今のところの評価は最悪であろう。


 僕は競技場の真ん中に着く。

 すると、向こうからエレンが歩み寄ってくる。

 それに伴い、歓声が湧き上がる。さすがわ米帝大統領の次男。

 僕とは注目度が違う。


「アスカ。今日君と対戦することができて嬉しいよ。今日はよろしく」

 エレンは、爽やかに挨拶する。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 僕も、お辞儀をしながら挨拶する。


『それでは、エレン・ミハエル様とアスカ・ニベリウム君との模擬戦を開始します。殺傷能力の高い魔導は禁止、相手を治癒魔導で治癒できないほど傷つけるのも禁止です。それでは開始してください』


 レフェリーの合図で模擬戦がスタートした。

「我と契約せし世界の精霊よ。我の血となり肉となれ『混合球体バリアス』」

 開始と同時に、エレンは聞いたこともない詠唱を行い、水、風、火、雷の四種の球体をそれぞれ2個ずつ計8個現界させ、同時に僕に打ち込んでくる。


 僕はとっさに『身体強化エンハンス」を自分にかけ身体能力だけで球体を避ける。


「おーさすがは、ソイニー様の弟子。これぐらいの攻撃じゃ当たらないか。」

 エレンが僕が攻撃を避けたところを見て感心する。


 僕は、そんなエレンにカウンター攻撃を仕掛ける。

「清らかなる大地の恵みよ我に集積せよ『高水圧体プレッシャーボール


 水球に高圧をかけ、硬度を増加させた高圧水球を現界させ、エレンに向け一直線に発射する。

 僕が発射した水球は勢いよくエレンに向かっていき、そして破裂した。


 破裂した際に生じた水蒸気があたりを包む。

 そして、次第に水蒸気が消えていくと、そこには盾が現界していた。


「あはは、ごめん、僕は攻撃だけでなく防御の両方が上級魔導相当なんだ」

 エレンは、『岩石防壁』を使って、僕の水球を防いでいた。

 おそらく、岩石が割れる時に水球のエネルギーが吸収されることを利用して、防いだのだ。


 防御魔導も使えるなんてチートではないかと少し不満に思ったが、今はそんなこと思っている場合ではない。

 気を抜けば負けてしまう。

 しかし、以前僕は劣勢を強いられることになる。


 エレンはとんでもないことをし始める。

 左手で、岩石防壁を現界させた。右手で、『雷撃サンダー』の魔導を現界させたのである。


 僕の頭上に黒い雲がもくもくと現界し始める。


 ——ズキャン


 そして、雷が僕に向かって降り注ぐ。

 一回ではなく、何回も‥‥‥。

 雷が落ちたところの地面はえぐられていた。

 これが当たったらひとたまりもないことは目に見えている。


 僕は、身のこなしだけで雷撃を避けていたが、次第に避けきれず、直撃打をくらいそうになる。

 やばい。魔導で防がなければ。

 僕は詠唱する。


「集積せし球体よ、飛散せよ『散弾バースト』」


 僕は、水球と火球を同時に現界させ、それを雷撃にぶつかる直前に飛散させ、間接的なバリアを貼る。


 うまく、雷撃に散弾魔導を当てることで、雷撃を回避することができたが、魔導同士がぶつかって起きた爆発の衝撃波で僕は吹き飛ばされる。


「ぐは」


 僕は、胸を強く打ち付け、咽びかえる。

 強い、エレンが強すぎる。

 こちとら、ダメージが入っているのにエレンには攻撃すら届かない。

 これが力の差というやつか。

 僕の素の魔導は中級魔導レベル。それじゃあ、敵わないのか。

 やはり、この『一徹』に頼らないといけないのか。


 僕は心の中で迷う。

 自分が魔導具士であることがバレる可能性が高まるが、強くなるため、エレンを倒すためには『一徹』に頼らざるおえない。


 そして、僕は、強くなることを選ぶ。


 僕は、ついに名刀『一徹』手を掛ける。

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