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処遇会議

 僕とレイト兄のイザコザはロージェ先生の介入により一旦沈静化された。

 しかし、レイト兄とレイビッヒが魔専内で女子学生を襲ったことは、魔専において重大事件として認定され、翌日処罰等の会議が開かれることになった。


 魔専始まって以来の大事件となり、魔専を統括する文科省や魔専のOB・OGなど、魔導軍や公安魔導部からも重役がやってきて、さらに英雄ユーリ・シルベニスタも会議に加わることになった。

 もちろん、ソイニー師匠やロージェ先生も参加している。


 僕やレイト兄、レイビッヒ、さらには僕のチームメイトは皆会議の結論が出るまで、自宅待機が命じられていた。


 ————

 処遇会議は紛糾していた。


「前代未聞ですよ。魔専内での暴行事件は。魔導士は高貴なる存在。学校側は、意識付けをしっかりできてるんですか」


 政府高官が声を荒げる。


「学校側としては、今回このような事件の発生を未然に防げなかったことについては、遺憾だと思っていますが、今回の件は私たち魔専だけの問題ではないと感じています。元来、魔導士間でも貴族と平民との差別意識が定着していますし、それを発端とした事件は数多く起きています」


 魔専の学校長が政府高官に言い返す。


「何だい、文科省にも責任があると君は言いたいのかね」

「そうは言っておりません。社会全体の問題だと申し上げたまでです。いつ発火してもおかしくないことがただ、魔専で着火したに過ぎないということです」


 魔専の学校長と文科省政府高官がいがみ合う。


「おいおい、今はそんなことを話しある場ではないだろう。魔専始まって以来の問題を起こした生徒達の処遇を話し合おうとしているのではないかね?」


 英雄ユーリ・シルベニスタが話に割って入る。

 さすがは英雄、ユーリが話せば誰も何も言わなくなる。


「ところで今回は、アロンガス家の嫡男が平民貴族のマミ・ユフゲルを暴行をしようとしたことが発端となったわけだが‥‥‥」


 ユーリが、事件の発端の原因を整理しようと話し始めると近衛師団団長、つまり、中級魔導士認定試験て王から賜ったという天界魔導具を使用したネロの父親が話に割って入った。


「少し事実が違うようです、ユーリ様。私の息子、ネロは、今回の事件の中心と言われているレイト君やレイビッヒ君と同じチームに属しているのですが、レイト君やレイビッヒ君は虫も殺せないほど、慈悲に満ち溢れた人物だと聞いております。

 そのような子どもが、今回のような酷い《むごい》事件を起こすでしょうか。私は、平民魔導士のマミ・ユフゲルが色仕掛けした自演としか思えません」


 会議にはアロンガス家の擁護派もいる。

 しかも事件の渦中にいるマミは、平民の出自。

 また、貴族が平民に、こんな酷い事件を起こしたとなると、王国民の不満の種になってしまうため、なんとかもみ消したい派閥もあるらしい。

 そう言った人たちは、ネロの父親の意見に、強く賛同している。


 その意見を注意深く聴いてから英雄ユーリは話し始める。


「確かに、今回は目撃者が全くいない。したがって、何が真実かはわからぬままだ。そして、双方の言い分は互いに相反している。そこでだ、今回は、秘密裏にエリナ姫にご協力を仰ぎ、レイト君とレイビッヒ君、マミさんの取り調べ中の動画を見ていただいた」


「何? 姫様に!?」


 一同に動揺が走る。

 一介の王国民の事件に姫様が関わるとは前代未聞である。

 しかも、姫様には真実を見通す魔眼が生まれつき備わっている。

 つまり、誰が嘘をついているか分かるわけだ。


「それで、姫様はなんと?」


 政府高官がユーリに身を乗り出しながら訊く。


「姫様はおっしゃりました。嘘をついているのは、レイト君とレイビッヒ君であると」


 ユーリは静かに淡々と答える。

 すると、机をバンと大きく叩いて、ネロの父親が立ち上がり叫ぶ。


「そんなバカな。彼らがそんなことをするはずがない。何かの間違えではないのですか?」


 その愚行にユーリは鋭い眼光を向け、諌める。


「その発言は、姫様を疑うということでよろしいのかな?」


「ハッ」とネロの父親は我に帰り、もはや何も言えなくなり、椅子に静かに座った。

 もう誰も反論するものはいなかった。


「それでは、私の見解を伝える。今回の事件の主犯格でリーダーである、レイト・アロンガスは退学、アロンガス家は領地没収、そして教唆及び共犯のレイビッヒ・アランは1ヶ月の停学処分とする。異議があるものはいるか? いないようであれば、この会議はここで終了とする」


 誰も異議なんて唱えられるわけがない。この事件には姫様が関わったのである。

 姫様の魔眼にケチをつけるなんて自殺行為である。

 しかも、英雄ユーリが決めた采配にも、不満を持つ者のなかで、ケチをつけられる人物はいない。


 こうして会議は終わりを告げた。

 不思議なことに、レイト兄を殺しかけた僕ぬついては何もお咎めがなかった。

 また、ユーリ・シルベニスタの取り計らいだろうか‥‥‥?


 また、レイト兄については、後日聞いた話によると、本人は全く反省しておらず、姫様や魔専、さらには英雄ユーリに対して恨みつらみを吐き散らしていたらしい。

 そして、今は、魔導を習える他の学校に通っているらしい。


 会議が終了し、関係者が退出し始めた時、英雄ユーリは、ソイニー師匠の元に近づいてきた。


「やあ、ソイニー久しいな」

「ユーリも久しぶり? 少し老けたんじゃない?」

「ソイニーは相変わらずだな。天界出身者は寿命が長くて羨ましいな」

「今では、私が天界出身だってことを知っているのは、あなたと王やロージェぐらいになってしまったわね」

「アスカ君や、ユミ君には伝えてないのかい?」

「ユミは知っているわ。だけど、アスカはまだ‥‥‥やっぱり、天界出身ってのは伝えづらくてね。それよりどうしたの? 私に直接話しかけてくるなんて珍しいわね」

「マミさんから事情を直接聞いた時にね、面白い物を見せてもらったんだ。今回マミさんが助かった原因の物。この魔導具なんだけど、999魔導具と言って、魔導を流せば仲間に『コード999』が発出される仕組みらしい。こんな精巧で画期的な魔導具見たことないんだが、訊くところによるとソイニーの知り合いの魔導具士が作ったというではないか」

「え?」


 ソイニーは一瞬固まってしまった。

 見たことも聞いたこともない魔導具。

 しかも知り合いの魔導具士が作ったとか全然知らない。

 ソイニーは必死に頭を回転させる。

 そして、一つの答えを導き出す。

 この魔導具は、アスカが作ったのではないかと。

 それならば、返答を間違えれば、アスカが魔導具士だとバレてしまいかねない。

 とりあえず、ソイニーは口裏を合わせることにする。


「あ、そうそう、それはね、アスカに頼まれて、知り合いの魔導具士に作製してもらったの」

「やはりそうだったか、腕の良い魔導具士と知り合いなのだな。私にも紹介してほしいものだ。それにしても、この999魔導具は大変便利なものだから、大量生産して、魔導士の標準装備にしたいのだが、それは可能か知っているか?」

「いや、なんだか作製するのがすごい大変らしかったから、大量生産は無理じゃないかな」

「そうかそれは残念だ。この魔導具は今回マミさんを救ったという実績があるから、魔導士の身の安全の向上に繋がると思ったのだが‥‥‥」

「そうよね。大量生産できれば良かったのにね。あははは」


 ソイニーはなんとか誤魔化そうと、引きつった笑顔のまま笑い続ける。

 帰ったらアスカに少しばかりお仕置きしなきゃと考えながら。


「それはそうと、もう一つ尋ねたいんだが」

「え? まだあるの!?」


 ソイニーは危機を乗り越えたのではないかと少しばかり安堵していたため、面食らった。


「報告書によると、アスカ君の魔導具は杖ではなく、刀らしいじゃないか。しかも、実力は中級魔導士なのに、魔導は上級魔導だったと、魔導鑑識班から報告されている。この刀の魔導具も知り合いに作製してもらったのか?」


 非常にまずい、これは非常に。

 何か隠し事があるのではないかと、完全に英雄ユーリは疑っている。

 ソイニーが困惑していると、横から剣豪ロージェが話に加わる。


「ユーリ様、そのことなら私から説明しましょう。私はアスカを稽古していることはご存知ですよね。アスカはもともと魔導は未熟でしたが、剣や刀の扱いは長けておりまして、私は、刀とアスカの親和性が高いのではないかと考えました。

 そこに、ソイニー隊長が腕の良い魔導具士と知り合いだということを聞いたので、刀の魔導具は作製できるか尋ねたところ、できるとのことだったので作製してもらいました。すると、予想は的中、いやそれ以上の成果で、理由がわかりませんが、アスカの魔導力をも引き上げてしまう刀の魔導具が出来上がったのです」


 ロージェ先生は嘘を華麗に並べた。

 直属の上司で、なおかつ家に住まわせてもらっている身だから、嘘をつくのは少し負い目を感じたが、今は魔導具士の弟子であるアスカの身を守らなければならないため、仕方なかった。


「そうか、そうだったのか。いや珍しかったもので興味本位で訊いて見たかっただけだ」


 そういうとユーリはロージェ先生の近くに歩み寄り、小さな声で話しかける。

「ロージェ、お前の魔導具士の才で作ったわけではないよな。もしそうならば、お前の魔導具士の才がバレる可能性が高まってしまう。そうなると、私もお前の身も危険になるからな」


 ロージェは内心動揺した。それはとてもとても。

 しかし、豪胆さで顔色一つ変えず、返答する。


「いえ、それは決してありません」

「そうならよろしい」


 そういうとユーリは、ソイニー師匠とロージェ先生に別れを告げてから公務に戻っていった。


 そして、ソイニー師匠は、自宅待機中の僕の元へ戻ってきて開口一番、こう告げた。


「アスカ君! 私は今からあなたをこちょこちょの刑に処します!」


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