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中級魔導士認定試験①

「ソイニー師匠、あの、来年魔導専門学校に入学しようと思うのですけど‥‥‥」

「魔導専門学校ですね。先ほどロージェから連絡がありました。魔導専門学校は、いわば軍学校みたいなとこで、魔導の素質があるならば、平民や貴族など門戸にかかわらず入学できるのですが‥‥‥。内部は貴族の子息が幅を利かせていて、貴族の嫉妬や怨恨が渦巻いていますよ。私はそんな中に、アスカを入れたくない気もしますが‥‥‥、強くて一流の魔導士になるにはやはり、魔専で研鑽を積むのが一番であるのも事実です」


 ソイニー師匠は、大まかな魔専の印象を教えてくれた。

 僕の身を案じ、魔専が一筋縄ではいけない、人々の嫉妬などの渦巻く世界だということを教えてくれた。

 これまで、アロンガス家から酷い仕打ちを受けてきた僕は、少し足がすくむ。


「なになにアスカ〜、魔専に行くの〜?」


 自分の部屋から出てきたユミ姉が、後ろから僕に抱きつきながら訊く。


「今日、ロージェ先生から勧められて‥‥‥」

「いいじゃないの、魔専、魔導も強くなるし、あと《《精神》》も強くなるわよ」

「やっぱり、人間関係が大変そうなんですね。ユミ姉はそんな人を簡単に蹴落とそうとしてきそうな場所で好成績を修めましたね」

「私は、それは、優秀だから。まあ、色々あったけど。特にユリウス家がうるさかったけど……ソイニー師匠に習ってたから、魔導で無双してやったわ。結局は、力でねじ伏せてしまえばいいのよ!」


 力でねじ伏せる‥‥‥。

 それが一番苦手なんですが‥‥‥。


「ユミさん、ユミさんは強くなるためと言って、片っ端から喧嘩を売っていたではないですか。だから大丈夫ですよ。普通に生活していれば、そんなに酷いことはされないと思います。多分」


 ‥‥‥多分。

 まあ、酷いことをされるのは確定なんですね、と思う。

 だけど、強くなるには通らなければならない道。

 ならば進まなければ。


「そういえばアスカ、入学試験っていつなの?」

「ユミ姉、来月中旬です」

「今は4月に試験をやってるんだ〜、私の時は12月だったわ、てか、アスカ、魔専の魔道士科って中級魔導以上が入学条件じゃないっけ?」

「え!?」


 時が一瞬止まる。

 僕だけではなく、ユミ姉もソイニー師匠も「やばい」という顔をしながら止まっている。


「そうですアスカ、魔専の魔導士科に入るには中級魔導士認定を受けないといけません。それには、中級魔導士認定試験に合格する必要があります。えっと、今度の試験は最短で‥‥‥明後日です!」

「明後日!?」

「そうです。それを逃すと試験は来月中旬で、魔専の試験と被ってしまいます」


 ソイニー師匠は携帯で、中級魔導試験日程を見せてくれた。

 よく見るとそこには、募集期間も書いてあり、見事にすでに締め切りを過ぎていた。

 それはそうだ。試験日の二日前に応募を締め切る試験があるだろうか。


 あーなんて運がないんだ‥‥‥

 ユミ姉は落ち込む僕を見て、頭をよしよしとゆっくりなでる。


「大丈夫ですアスカ」


 するとソイニー師匠が満面の笑みでこちらを見ている。


「何が大丈夫なのですか?」

「私がなんとかしてあげます。受験者1人ぐらいねじ込むのは容易たやすいことなのです」


 え?それっていいの?

 不正じゃないの?

 僕は疑義の目を師匠に向ける。


「そんな目で見ないでくださいよアスカ。まあ、少し反則気味なのは否めませんが、それでも試験自体に細工をするわけではないので大丈夫です。

 もし私だけでダメならば、剣豪ロージェの威光も使いましょう!」


 あーそういえば師匠は、なりふり構わない人だった‥‥‥

 この時、数年間一緒に暮らしてきて段々わかってきたソイニー師匠の特性を再確認する。


「あの、受験できるのは嬉しいですけど、どんな試験をするんですか?」

「試験は簡単ですよ。規定以上の球体を現界させまとに当てる試験と、簡単な対人戦闘試験があります」

「僕でもできそうですか?」

「何を言ってるんですか。アスカはもっと自信を持ってください。そりゃ一時は魔導具士の才の影響で初級魔導以上には成長しないかと思いましたが、この2年間で中級魔導の実力をつけたじゃないですか。もしかするとそのうち上級魔導だって身につけられるかもしれませんよ! アスカなら」


 ソイニー師匠は「えへへ」と笑いながら、僕の方に詰め寄って座り、腕を絡ませてくる。


「はいはい、師匠、アスカに近づきすぎです。絵面的にアウトです」

「なんですかユミさん、酷いです。私だって、アスカをなでなでしたいです」

「う〜ん、どっちかっていうと師匠は撫でられる方ですよ。まあ、今は置いといて、アスカ、頑張りなさいよ。お姉さん期待してるから。

 中級魔導士になったらお祝いね!」


 次の日、付け焼き刃になってしまったが、ソイニー師匠やユミ姉から試験の手ほどきを一通り受けた。


 そして当日‥‥‥中級魔導士認定試験の日。


 会場はなんと、王宮だった。

 牢獄に入れられて以来の久々の王宮。

 かなり足がすくむ。


「ソイニー師匠、僕って王宮に入って大丈夫なんですか?」

「まあ、あれから3年近く経ってますし、もう騒ぎは収まっていて、あの事件は解決済になってますし、アスカのことを知ってる人もほんの数人しかいないから大丈夫ですよ。あと、実は騒いでいたのは周りのものだけで、姫様のお父様、つまり第一王子はそこまであの事件を気にしてないみたいだから、もう大丈夫ですよ。後、私が後ろ盾になってますし。まあ、またアスカが姫様にちょっかいを出せば、状況は変わりますが。あはは」


 ソイニー師匠はやけに楽しそうである。

 人の不幸は蜜の味ですか? 師匠

 あんだけ脅してきた王子が、あの事件を気にしてないだって?

 信じられない話だったが、まあ、事がうまく運んでいるならば、大人しくしておこう。



「それじゃあ行くわよアスカ」


 ソイニー師匠と王宮の通用門から王宮内に入る。

 前回は犯罪者用の入り口から入ったから、正式な手順で入る王宮は感慨深い。


 中に入ると、中庭の魔道演習場に通され、すでに候補者が10人いた。

 皆口々に、「俺が落ちるわけがない」だとか、「これに落ちたら魔導士科に入学できない」だとか、色々呟いている。


 みんな大変なんだな、と少し同情した。


「じゃあ、頑張ってアスカ。付き添い人席から見てるから」

 そういうとソイニー師匠はバイバイと手を振りながら、付き添い人席に向かっていった。


 付き添い人席なんてあるのか。

 そう思い、付き添い人席を眺める。

 お父さんやお母さんや、強面のお爺さんなど心配そうに候補者を見ている。

 まあ、候補者全員12歳くらいの子どもだから心配にはなるのだろう。

 子どもを持つって大変なんだなと、しみじみと感じていると付き添い人席に見慣れた人物が座っていた。


 その人物は僕が気づいたことに気づくと、口パクで『来ちゃった』という。

 そう、僕の稽古仲間のヒビトだった。


 ヒビトは、英雄ユーリ・シルベニスタの嫡男で、父の手伝いで王宮にも何度も出入りしているから、簡単にここまでこれたのだろう。

 本当にどんだけ僕のことが好きなのやら。


 やれやれと思っていると、演習場に併設された平家から魔導士の隊服をきた試験監督らしき人が3人出てきた。


「おいおい、今年の試験監督はチーム・ユリウスかよ」

 1人の受験生が小さな声でつぶやく。

「チーム・ユリウスって徹底的な実力主義チームで、戦場でもヘマした部下に背後から魔導攻撃で喝を入れるっていう」

「なんてついてないんだ。絶対試験基準が難しくなるじゃないか」

「俺は、俺は試験に受かるんだ何が何でも」

 などなど、受験生の間に明らかな動揺が広まる。


 それらを聞き、とにかく波乱なことが起きそうな試験だと僕は覚悟する。


「それじゃあ、集合しなさい。点呼を取るわよ」


 腰まで伸びた髪を揺らし、真っ赤な口紅を塗った隊長のエマ・ユリウスが快活は声で叫ぶ。

 その声に体が自然に反応し、全員背筋がピシッと伸び整列する。


 1人ずつ点呼し、最後に僕の番が回ってきた。

「アスカ・ニベリウム!」

「はい!」

「ほう、お前か、ソイニー様の弟子で、無理やり受験生として名前をねじ込んできた愚か者は」


 エマ・ユリユスの鋭い眼光がアスカを捉える。

 その眼光は凄まじく、僕は怯んでしまい、冷や汗が出てくる。


「時にアスカ少年、貴様はソイニー様の弟子だそうだが、そうなると、ユミ・クルルギを知っているのか?」

「はい、私の姉弟子になります」

「おーそうかそうか、あの小汚い泥棒猫が姉弟子か。

 今日は貴様をたっぷりと可愛がってやる。

 楽しみにしておけ」


 やばい、これは非常にやばい。

 試験が始まる前から目をつけられてしまっている。

 しかも、そういえば、ユミ姉が魔専時代にユリユスって人と仲が悪かったって言ってたっけ‥‥‥。

 これは完全に僕が復讐を受けるやつじゃないですか‥‥‥困った。


 僕の困惑なんて御構い無しに、エマ・ユリユスは試験内容を説明し、試験準備がどんどん進んでいく。


 最初の試験は的当て。

 順番は僕が最後だった。


「では、1人目、開始せよ」

 エマ・ユリユスがそう叫んだ時、1人の受験者がボソッと呟いた。


「あれって、姫様じゃないか?」

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