ヒビト・シルベニスタ
「ヒビト・シルベニスタ。ユーリ様の嫡男だ。
今日から共に剣術を学んでもらう。」
「初めまして。ヒビト・シルベニスタです。君はアスカニベリウムだよね。噂は聞いてるよ。あすなろ荘の子供たちを守ったっていう」
「いや、あれはロージェ先生に助けられだけで、自分はなんにもしてないですよ」
「いやいや、そんな謙遜しなくても。後同い年らしいからタメ口で行こうよ」
「あ、そうだったんですか? あ、そうだったんだね…。なんだかタメ口って気恥ずかしいね」
思い返せば、これまで他人とタメ口で話したことなんてなかった。
あの襲撃してきた男は除いて。
頭から足先までくまなく、ポカポカするよあな暖かさが僕を包み込んでいるような気がする。
それからロージェ先生は、剣や刀の持ち方や作法などを教えてくださった。
そして、一通り終わったところで、素振りを500回するように言われる。
分からないことがあればヒビトに聞きなさいと言って、ロージェ先生は何やら少し用事があるらしく、どこかへ消えてしまった。
まあ、剣豪なのだから何かしらやることがあるのだろう。
僕とヒビトは素振りをし続けたが、100回辺りを過ぎたぐらいから、お互いについて質問し始めた。
「ヒビト君は、いつからロージェ先生に剣術を習ってるの?」
「呼び捨てでいいよアスカ。僕はね5歳くらいからかな」
「え!? じゃあ、もう5年も先輩じゃないか」
僕がそう驚いていると、ヒビトはバツが悪そうに苦笑いをしている。
「実は、かれこれ5年くらい習ってるんだけど、あまり上達してないんだ。魔導の方が得意らしくて。
やっぱり得意不得意なものってあるからさ。
だけど、ある程度までは上達したいから頑張ってるんだ」
「ヒビトは自分の考えをしっかり持っててすごいな。ちなみに魔導はどれくらいのレベルなの?」
「魔導はね、来週上級魔導認定試験に行くつもり」
「え!? 上級魔導!?」
たった10歳で上級魔導士になるかもしれないって、天才じゃないか。
さすがシルベニスタ家。
「僕はただ運が良かっただけだよ。努力できる環境があり。
いい師匠がいた。全ては自分だけの力では成し得ないことだし。
本当に運が良かっただけだから、神様に感謝しないとね」
ムムム、非の打ち所のないほどいい奴である。
名家の生まれで才能もあるのだから捻くれているのではないかと思ったのに。
いい奴ではないか。
少しぐらい隙があってもいいのにな。
なんて、少しばかり醜いことを言ってしまったが、内心いい奴そうで安心している。
「ところでアスカは、魔導はどれくらいなの?」
まあ、そうなるよね。
僕が先に聞いたんだから、聞き返してくるよね。
ここで見栄を張っても後々大変になるだけだし、正直に言うか。
「僕は、初級魔導だよ」
「じゃあ、まだこれから伸び代が沢山あるね!」
く〜、全くいい奴だ。
僕が傷つかないように言葉を選んでくれている。
好感度爆上がりじゃないか。
色々話しているうちに素振りも500回振り終わった。
もう腕がプルプルで何も持てそうにない。
一方、ヒビトは5年間も修行を続けているから、こんな素振り屁でもないようだ。
僕が座りこむと、ヒビトも僕の隣に座る。
そして落ち着いた表情で話し出す。
「実は今日アスカに会うのが楽しみだったんだ」
「そうなの?」
「うん、他の魔導士と違うみたいだから‥‥‥、ロージェ先生から聞いたんだ。アスカは、人を守るために強くなりたいんだよね」
ロージェ先生はどんな伝え方をしたのだろう。
「魔導士になりたいって子達は、名誉のためとか自己顕示のためとか、そう人が多過ぎて、疲れちゃうんだよね。まあ、確かにモチベーション維持とかにはそういったことが必要かもしれないけど‥‥‥」
「ヒビトはなんのために魔導士になるの?」
「僕もね、アスカと同じように大切な人を守るために魔導士になるんだ。
実はね、僕のお母さんも魔導士だったんだ。お母さんは僕が簡単な魔導を使うとものすごい喜んでくれたんだ。それが僕も嬉しくて、魔導をどんどん練習した。だけど、数年前の米帝奇襲攻撃事件に巻き込まれて死んでしまったんだ。もし僕がもっと強くなっていれば、お母さんと一緒に出撃してお母さんを助けられたかもしれない。そんな後悔が僕を掴んで離さないんだ。
だから、僕は大切な人を守るために魔導士を目指すんだ。アスカもそうなんでしょ」
ヒビトは大切な人を失って、自分の無力さを感じ、絶望したのだけれども、絶望の淵から這い上がって、再び立ち上がったのか。
そして今度こそは、守りたい人を守るために強くなると決意したのか。
僕と一緒だ。
「うん、僕もそうだよ。二度と、大切な人が目の前で死ぬところを見たくない」
「やっぱりアスカは僕に似てる。なんだか嬉しい」
ヒビトの笑顔が咲く。
男だって忘れて抱きしめたくなるようなそんな笑顔。
そして、2人はお互いの境遇が似ていることを確認し合うと、初めて出会った日であるが親近感からぎこちなく笑いあった。
するとそこへ、ロージェ先生が戻ってきた。
「アスカ、もうへばったのか。まあ初日はこんなものだな」
へばった僕を見て笑っている。
「そういえば、ヒビト、今日は午後からユーリ様のお手伝いをする予定だろ。
今日の稽古はここまでにしておこう」
「そうです。父上の仕事の手伝いに王宮に行かなければなりません。
先生、今日もありがとうございました。アスカもまた明日! これから一緒に頑張ろうね」
そう言うとヒビトは王宮に向く準備をすべく自室に戻った。
ロージェ先生は「うむ」と言うと、今度は僕の方を見る。
「アスカ、ヒビトはいい奴だろう。
よくもああ純粋に育ったものだ。
話は変わるが、アスカ、今から魔導移植させたと言う刀を見せてくれないか?」
「はい先生」
ロージェ先生と共に、執務室に戻ると、僕は先生に刀を見せた。
「おー大したものだ。しっかり刀に定着しておる」
ロージェは刀身を見ながら感心する。
その間に、僕は、ロージェ先生に、その刀には魔導回路の残滓があったことを伝えるか迷い、結果、伝えることにした。
「ロージェ先生、あの、その刀には何故だか魔導回路の残滓がありまして、それに沿って移植したら、ちゃんと定着できました」
「魔導回路の残滓? それはおかしいな。この刀にはそんなものはついてなかったはずだが? 歴代の魔導具士達が何回か初代から継承されたこの刀に魔導回路を移植しようとしたらしいから、もし仮に残滓があるならば、何らかの言い伝えぐらい残ると思うのだがね」
確かにそうだ。
あんなにはっきりとした残滓が残っていれば、才ある魔導具士なら簡単に気付くであろう。
ならば、あれは幻覚なのか?
「まあ、今は考えてもわからんだろう。
それよりも、刀に定着させることができて良かったじゃないか」
これで、魔導修行も捗るな」
ロージェ先生は、真顔で考え続ける僕を宥めるように言う。
「ええ、先生、刀を授けてくださりありがとうございました。
あの、先生、あと聞きたいことがあるのですがいいですか?」
「どうしたんだい?」
「初代の魔導具士について知りたいのです。世間で言われているように、本当に無慈悲な人で忌み嫌われるような人だったのですか?」
「そうか、そうじゃな、知りたいよな」
ロージェ先生は、急に立ち上がり、書棚から百科事典ほど分厚い一冊の本を持ち出した。
そして、その本を僕に渡す。
「その本を見てみなさい」
本を開くと、中には手書きで沢山の文字が書かれていた。しかし、後半部分は白紙だ。
「これは、本なのですか? 人が直接書き込んでいる日記のようなものに見えますが‥‥‥」
「まあ、確かに日記といった方が正しいかもしれない。それは、初代から代々受け継がれてきた、魔導具士の書だ。
そこには、先代達が経験してきたことが記載されている。つまり魔導具士についての真実の歴史が記載されている」
「初代って、1000年前の人ですよね。それから脈々と受け継がれてきたんですか!?」
「そうだ、ワシの剣やアスカの刀のようにな。とりあえずその本を読みなさい。ただ、口外禁止だ。口外したところで誰も信じないかもしれないが」
ロージェは、座り直して、膝に肘を置き、まっすぐ僕を見据える。
僕は、本を一回ゆっくり撫でたあと、真実を知る覚悟を決め本を開いた。




