表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/82

僕は折れない

「おいお前、どうして転生してるんだよ。

 聞いてんのか?」


 あすなろ荘を襲った男は、前世で僕の家族を殺した男だった。

 ふつふつと怒りが湧いてくる。


「質問に答えろよ」

 その男が、すごい剣幕でなぜ転生しているかを聞いてくる。

 しかし、そんなことどうでもいい。

 僕は目の前の男を生涯、転生しようとも許さない。


「なんだよその目は。

 初等魔導士の分際で俺に勝つ気か?」


 相手の挑発が聞こえてくる。

 しかし、今はそんなことどうでもよかった。

 僕は、これまで感じたことがないほどの憎悪と一緒に男を睨みつける。

 なんとかして一矢報いなければ‥‥‥。



 今持っている魔導を全てつぎ込んで、あいつを燃やす。

「お前だけは、絶対にここで倒す。清らかなる大地の息吹よ燃え上がれ 火球ファイヤーボール


 目の前に1 mほどの火球が現界する。

 やはり、中級魔導以上の火球は現界させることができなかったが、いつも以上に高温の火球を現界させた。

 そして、それを自分が今出せる最大速度で、男にぶつける。


「本気を出してもその程度かよ」


 しかし、男はいとも簡単に刀を一振りするだけで、火球をかき消してしまった。

 魔導が空になった。急激な疲労感が襲い、その場に倒れこんでしまう。

 床に顔をつけながら横を見ると、子ども達が、サチやユウトが恐怖に怯えた顔をしながらこちらを見ている。


 ああ、また僕はダメなんだ。

 誰も助けられないのか。

 怒りだけあっても強さがなければ誰も守れない。

 この世界はなんて残酷なんだ。


 自分の不甲斐なさが悔しく、涙が出てくる。


「お前ら2人揃って、俺に家族を殺されてるんだな。殺された者同士、運命の赤い糸みたいに惹かれあったのか?ウケる」


 男は、勝ったと言わんばかりに、余裕をぶちかましている。


「さて、もう一度聞こうか。お前の魂は何故死んでないんだ?」

「そんなの‥‥‥知らない、いつの間にか転生してたんだ‥‥‥」

「そうか、なるほど、敵は身内にいると言うことか。

 まあいい、お前も最後に俺の役に立ててよかったな。

 さあ弱者は死ね」



 男は刀を振りあげる。

 前世で首を切られた時、。

 あの時と全く一緒だ。

 俺は死ぬんだ。

 また、転生するのかな。


「おやめなさい、サチ、ユウキ」

 死を覚悟したその時、礼拝堂にお手伝いさんの声が響く。


 その後すぐに礼拝堂に甲高い声が響く。


「お兄ちゃんに手を出すな」


 その瞬間、男に木の棒が当たる。


「ん?なんだ?誰だ?」


 声がした方を見ると、そこにはユウキとサチが立っていた。

 正確には、震えながら立っていた。

 小さい体で勇気を振り絞って、僕を守るためにそこで立ち上がったのだ。


「ガキが、大人しくしていれば生かしておいたのに、先に死にてえようだな」


 男の照準がユウキとサチに変わる。

 ユウキとサチ怖さのあまり尻餅をついたまま動けない。

 このままでは彼らが殺されてしまう。



 動け、動け、動け、足よ動いてくれ。

 このままではユウキとサチが死んでしまう。



 ——コツン



 胸の内ポケットから何かが落ちる。

 こ、これは。



「よし、じゃあ、どっちから死ぬか?男のお前か?それとも女のお前か」

 男が子ども達が投げた木の棒を拾い、その棒でユウキの喉を上げる。


「やっぱり男のお前か———」


 ———ドキュシュン


 礼拝堂を土煙が覆う。

 そして、土煙が収まった時、男の姿はそこにはなく、礼拝堂の壁にめり込んでいた。


「痛えな、完全に油断していた。

 一体何しやがったんだ。肋骨が数本いったぞ」


 ミシミシと音を立てながら、男は壁から出てくる。


「お前、その手に持っている物はなんだよ」


 男は僕が持っている物を指差す。


 そう、僕が今、最後の切り札として、現状の打開策として手に取ったこれは、

 今日作製した増幅用魔導具だ。

 増幅用魔導具は、僕の魔導に呼応して赤白く輝く。


「それは、魔導具か?

 今俺を弾き飛ばした魔導は明らかに上級魔導。

 だが、お前の実力は初級魔術のはず。

 どういった手品だ——」


 僕は、男の声を遮りながら話し出す。


「お前は言った。守るものがあるとその分弱くなると。それは違う。

 守るものは僕に勇気をくれる。知恵をくれる。

 そして力をくれる。そして、僕に心の支えになる。だから僕は絶対に折れない。

『なんでもいいから出てくれ魔導』」


 僕は中級以上の魔導の詠唱を知らない。

 知らないけど、何故か魔導を現界できると言う不思議な自信があった。

 この魔導具があれば。


 僕の言葉に呼応して、真っ白で純白な球体が現れる。

 その球体は、これまで僕が現界させてきた魔導とは比べ物にならないほどのスピードで男目掛けて飛んでいく。


「おいおい、その魔導はなんだ見たことねえぞ。

 しかもそのふざけた詠唱はなんだ。

 なんでそんなので魔導が現界するんだよ」


 男は、先ほどとは打って変わって避けるのに全力を尽くす。

 そして、遂に一発は男の腕にあたり、男の腕を弾き飛ばす。


「うぐす」


 男は呻き声を上げて、その場にしゃがむ。

 しかし、その顔は困惑とは程遠く、不適な笑みを浮かべている。

 驚くことに、腕が吹き飛んだ箇所が次第に治り始めている。


「お前の攻撃があったった箇所の傷の治りが遅いな。

 なんだよ。お前のその魔導具は。

 それにしても、俺に攻撃を当てたやつはお前が初めてだ。

 だんだん楽しくなってきちまったじゃねえか。

 久々に本気を出すから楽しませてくれよ」


 おいおいまだやる気なのかよ。

 腕一本なくなったんだから退いてくれよ。


 僕の方も、最後の切り札が有効だったとはいえ、いっぱいいっぱいで、いつ今の優勢が崩れるかもわからないため、早めに蹴りをつけたい。

 つけたかったのだが、予想に反して相手を興奮させてしまった。


「さあさあもっと打ってこいよ」


「こうなったら仕方ない。『出でよ魔導!』」


 俺はどんどん白い球体を現界させて男に向けて飛ばす。

 男の方は、球体の速度に慣れてきたのか、軽い身のこなしでどんどん避けていき、全く当たらなくなっていた。


「ちゃんと俺を狙ってくれないと楽しくないじゃないか」


 さらに意識を集中させ、魔導を現界させる。

 魔導は僕の意識と同調しているかのように、集中すれば集中するほど、精度も威力も速度も上がっていった。

 次第に、魔導具が振動し始める。

 そして、遂に




 ——パリン



 軽めの音を立てながら、魔導具は崩壊した。


「やば」


 僕がそう言葉を発した時にはすでに男は「あは、ラッキー」と言いながら、僕の方に方向転換して向かってきていた。


 もう反抗する手立てがない。

 これが本当の最後なのか。

 ごめんみんな。

 だけどやっぱり‥‥‥


「死にたくない」


 そうポツリと呟く。

 男の刃先が僕の喉目掛けて飛んでくる。

 僕は目を瞑る。

 死ぬ。




「少年よ。よくぞ時間を稼いだ」


 低く大きな声が礼拝堂に轟く。

 壁が破壊され、そこから筋骨隆々でタキシードを着た紳士的な老人が剣を振りながら乱入してきて、男の刀を弾き飛ばした。


「今度は誰だよ。今日は来訪客が多すぎるぞ」


 男は苛立ちながら紳士的な老人を睨む。

 そして、その老人は口を開く。


「我は先代の魔導剣豪、ロージェ・アハトニスだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ