共通点
米帝魔導士があすなろ荘を襲撃したと知り駆けつけたがそこにはかつてユミ姉の家族を殺した男がいた。
あすなろ荘にいた男と対峙するユミ姉と僕。
「お前は、あの時の男だな、子ども達はどうした」
ユミ姉の声が怒りに震える。
「子ども達は、そこにいるさ。
米帝魔導士もちょうど狙ってたみたいだったが、獲物を横取りしようとは、舐めくさってたから瞬殺したわ」
男は、礼拝堂の祭壇の隅を指差す。
そこには、魔導孤児院の子ども達と、施設のお手伝いさんが恐怖に震えながら身を寄せ合っている。
「さて、君たちおしゃべりをしにきたわけでもあるまい。この孤児院の子どもらを助けにきたのだろう。
いいのか? 早くしないと全員攫ってしまうぞ」
男が不気味な笑みを浮かべながらそう言葉を発した瞬間、ユミ姉は腰に手を回し、腰からハンドガンを取り出し、男目掛けて発砲する。
この時、ユミ姉の戦い方を僕は初めて見た。
てっきり、魔導で戦うものかと思っていたら、ハンドガンで戦い始めたのだ。
ユミ姉の放った銃弾は、真っ直ぐ男に向かう。
しかし、男は余裕の表情で刀を抜き、銃弾を全て弾こうとする。
が、男はしっかりと刃先を弾丸に当て、弾丸を真っ二つにできるはずだった‥‥‥、はずだったのだが、男の刀は弾丸によって弾かれ、手から離れ、後方に飛んで行った。
「何? 魔導弾だと? 厄介なものを持ち出しやがって」
男は、後方に素早く飛び下がり、刀を拾うと、勢いよくユミ姉に詰め寄る。
ユミ姉は、マガジンのリロードを素早く終えると再び、発砲する。
しかし、男は、今度は刀で弾丸を弾こうとせず、上下左右に体を回転させながら、身のこなしだけで、弾丸を避ける。
そして、切っ先がユミ姉に届きそうになる。
「我が神聖な身を守りて現界せよ、『絶対防壁』」
ユミ姉の絶対防壁により男の切っ先はユミ姉には届かなかった。
「ちゃっかりちゃんと習得してるじゃねえか、自分の家族を犠牲にして得た絶対防壁をよ。有名だぜ、お前の絶対防壁、世界の魔導士の中でも一位二位を争うほどの堅牢さとな」
「黙れ、サイコパス。私はこれまで、お前を倒すために生きてきた。
ここで死ね」
ユミ姉は、絶対防壁を現界させたまま魔導弾を放つ。
男は、いとも簡単にその弾丸を避ける。
「おっと危ねえな。盾とハンドガンの組み合わせって意外に厄介だな。
だけどな、お前の負けだ」
そう言うと、男は体をくるりと回転させ、今度は子ども達の方へと向かっていく。
子ども達を殺す気だ。
「そうはさせないぞ、正方防壁」
ユミ姉はとっさに子ども達の四方を囲むように黄金の防壁を現界させ、子ども達を守る。
しかし、それを見て男はニヤリと笑う。
「守るものがあるってことは、その分弱くなるってことだよな」
次の瞬間、男は持っていた刀をユミに投げつける。
——しまった。
通常、盾は何個も現界させて、守ることができるが、あの男の攻撃は強すぎて、魔導を分散させて盾を複数現界させても打ち破られてしまう恐れがある。
だから、一度に一枚の盾を現界させるのに集中させなければならない。
そのため、今、ユミ姉は自分自身を守るための盾を現界できないでいた。
ユミ姉は刀を避けようと試みるが、間に合わないことを悟る。
——私はここまでなのか。また、大切なものを守れないのか。
「清らかなる大地の恵みをこの我が手に、水球」
50 cmくらいの水球が勢いよくユミ姉の目の前を通り過ぎると同時に刀も吹き飛ばす。
「アスカ!」
ユミ姉が僕を見る。
そう、一か八か、自分の力が通用するかどうかさえ分からなかったが、やるしかないと決意し、僕は初等魔導を放ったのだ。
「初等魔導士かと舐めていたが、知恵は働くようだな。水球を高圧で圧縮して鉄のように堅くして放出したか」
男は驚きながらこちらを見る。
「アスカありがとう、助かったわ。
私だけでなんとかしてしまおうと思っていたけど浅はかだったわ。
さあ、2人で助けるわよあの子達を。
まずはあいつを子ども達から遠ざけないと」
僕とユミ姉は協力して男に向かい攻撃を仕掛ける。
ユミ姉は防御に集中し、子ども達と僕、そして自分自身の防御をバランスよく守り続ける。
一方、僕は、高圧で圧縮した水球をどんどん放出して、男を牽制し続ける。
なんとか、子ども達に近づいて、脱出させることができれば‥‥‥。
しかし、男もそんなに甘くない。
僕の攻撃は全く男に当たらない。
一方、男は隙をみては斬撃を僕やユミ姉に浴びせてくる。
今はまだ、ユミ姉の絶対防壁で防げているが、いつやられてもおかしくない状態である。
「そろそろ10分経っちまうじゃねえか。効率厨の俺にあるまじき失態。
仕方ない、魔導を使うか。我が剣先は地獄への道標『強化斬撃」
「アスカ、気をつけてあいつ、魔導も使えるみたい」
ユミ姉の忠告が耳に入ってきたが、その忠告に気付いた時にはすでに男は、ユミ姉の目の前まで迫っていた。
ユミ姉はとっさに自らの前に絶対防壁を現界させる。
「間に合った」
僕は、ユミ姉の絶対防壁の限界が間に合ったことを確認すると、安堵から言葉が漏れた。
しかし、次の瞬間、ユミ姉の絶対防壁はいとも簡単に真っ二つに割られ、ユミ姉の鮮血が宙を舞う。
「ちくしょう、盾のせいて切り込みが甘くなった」
ユミ姉は、叫び声も上げず、ドサっと床に折れ込む。
ゆっくりとユミ姉の血液が流れ出す。
「ユミ姉!」
僕はただ叫ぶことしかできなかった。そう叫ぶことしか。
体は正直で、目の前の男に勝てないことは理解していた。
「おいお前、俺を目の前にして10分も立ち続けていいた奴は久しくいない。
だから褒めてやる。だが、残念だな、死んでしまうのだから」
男は、ユミ姉の目の前に立ちながら僕の方を見て笑っている。
とにかく何か攻撃しなければ、ユミ姉も子ども達も守らなければ。
僕の横目にすっかり怯えきっている子ども達の姿が映る。
アスナやユウキも僕の方を涙目になりながら見ている。
今この現状をどうにかできるのは僕だけなんだ、どうにかしなきゃ。
「そういやお前さ」
急に男の口調が変わった。
男はこちらに体を向け刀を肩にかけながら、僕の顔をまじまじと見てくる。
「お前も、どっかで会ったことあるよな。
外見は似てないんだが、魂の匂いが嗅いだことがあるんだよな」
そう言うと、男は再びメモ帳を取り出してパラパラとめくりだす。
「えっと、こっちのメモ帳だっけかな、あ、あったあった、やっぱりお前、桐生飛鳥だろ。俺が一度殺したことがある。
なんでお前は消滅せずに転生してるんだよ」
男は静かに、淡々とこちらを睨む。
あいつはやっぱり、やっぱりそうなのか。
あいつは、前世で僕の、僕の家族を、大事な家族を殺した、あの不審者だ。