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米帝魔導士

 ソイニーさんが院長を務める魔導孤児院から緊急救援要請がユミ姉に届いた。

 僕らは今、救援に行くため孤児院あすなろ荘に向かっている。


「ユミ姉! ソイニーさんには連絡つきましたか?」

「師匠には全く連絡がつかないわ。なんてタイミングなの。よりによって師匠が王宮魔導会議の日に襲撃だなんて。

 王宮魔導会議は王様も出席して国家最重要機密事項が話し合われるため厳重警戒の中行われるの。

 だから、盗聴などによる情報漏洩を危惧して、杖などの魔道具、携帯などの電子機器類は全て外しておかないとならないの」

「そうなると、ソイニーさんはすぐには来れないと言うことですね。他に救援に来てくれそうな人はいないのですか?」


「もうすでに、知り合いの魔導士に手伝ってもらえるようお願いしてあるわ、だけど、最短で20分かかってしまうらしいの」

「それじゃあ、尚更早く到着しなければならないですね」


 何度も信号無視をしながら超特急で救援に向かう。

 この前遊んだ、ユウキやサチのことが頭を過る。

 ユウキやサチにもしものことがあれば‥‥‥そう考えると恐怖で凍る身。

 どうか無事でいてくれ‥‥‥。


「ちょっと待って、今連絡が、なんですって?」

「ユミ姉、何がわかったんですか」

「今、警察官の無線を傍受していたら、先刻、米帝の魔導士が3人、横浜に不法入国したって。恐らく今回の襲撃者は米帝よ」


 よりによって世界最強を誇る米帝魔導士が相手となるとは‥‥‥。

 もう心が挫けそうだ‥‥‥。

 しかし、とうとう時間がやってきた。


「ついたわよ。いい、アスカ、初等魔導でも今は貴重な戦力だから、いつでも魔導を使えるようにしておいて」

 ユミ姉は、バイクを孤児院の門の前に止め、自分の杖を取り出し、臨戦態勢をとった。


 ゆっくり敷地内に入る。

 普段ならば子ども達の声が響きあっている場所は今、静寂に包まれている。 

 建物の周囲には人影はない、中にいるのか?

 ゆっくりと入り口のドアを開く。


 ———ぴちゃ


 床が何かで濡れている。

 よく見るとそれは赤色‥‥‥‥血だ。

「ヒッ」

 僕が叫び声をあげそうになると、とっさにユミ姉が僕の口を塞ぎ、首を横に振る。

 叫んではいけないと、無言で伝えてくる。


 ユミ姉は血が流れてくる先を確認した。

 そこには人が廊下で1人倒れている。

 近づいてみると、米帝のマークが入った軍服を着ている。

 どうやら孤児院の子どもではないらしい。


 僕は、少し胸を下ろした。

 だが、疑念が残る。どうして米帝魔導士が死んでいるのか。

 仲間割れか?何かの事故か?

 今はまあどっちでもいい、とにかく子ども達を助けなければ。


 ユミ姉と僕はさらに奥に進む。

 まだ残暑で外は暑いにもかかわらず、建物内はマグロを保管できそうなくらいに冷え切っている。

 再び廊下に血痕を見つける。

 その血痕は礼拝堂の方に続いていた。


 僕とユミ姉は、礼拝堂の入り口前まで足を進める。

「私が先陣を切る。アスカは後方支援を頼む」

「分かりました、ユミ姉」

 少し声が震える。

「大丈夫だよアスカ。修行通りにやればいいんだよ」

 ユミ姉はそんな僕の不安を見抜き、優しく声をかけてきた。

 魔導は軍事で用いるため、修行では軍隊で使うコンビネーションなどは一通り習ったが、実戦は初めてである。

 やはり、不安だ。

 しかし、時間は待ってくれない。いつも準備してるかしてないかにかかわらず、その時はやってきてしまう。


「行くよ、アスカ」

「はい」


 ——ドン


 勢いよくユミ姉が礼拝堂の中に入り、遅れて僕も中に入る。


 礼拝堂の中は荒らされた形跡はなく、整然としていた。

 ただ一箇所を除いて。


 祭壇に目を向ける。

 祭壇の上には、米帝の魔導士が2人乗せられていた。

 大量の血が滴り落ちているところを見るにすでに死んでいる。

 しかも、肩には帝級魔導士を示すエンブレムがついている。

 帝級が殺されてる。

 これはやばいと直感が囁く。



「あれ、また人が来た。今日は来客が多い日だな。

 だけど、名簿には名前がないんだよな〜。

 効率厨の俺にとってこういう想定外なことが一番きついんだよなー」


 米帝魔導士の死体の上に急に男が現れ、見知らぬ男はメモ帳を見ながら呟いた。


「武器を置いてから手を挙げろ! お、お前はもしや‥‥‥」


 ユミ姉が大声で見知らぬ男に指示を出すが、何やら様子がおかしい。

 ユミ姉は、男の顔を見た瞬間、時が止まったかのように硬直している。

 しかし、男はそんそんなこと知ったことかと言わんばかりに体を死体の上で横になる。


「見たところ、上級魔導士が1人と、そっちは初等魔導も使えにないひよっこではないか。

 なんだよ、おれを楽しませたいなら、皇級魔導士を連れてこい! 皇級を! 米帝魔導士達は、少しは俺を楽しませてくれたぞ」


 男は急に怒鳴り出した。訳の分からない男である。

 ただ、その気味悪さが、一層恐怖心を煽る。


「あれ、そういえば、お前どっかで見たことがあるぞ」


 男は僕らの顔を見ると、何かを思い出して、指を刺して来た。

 僕とあの男が何処かであっている?

 確かにあの声、あの風貌、あの口調どこかで会ったような気がする。

 しかし、男が指を刺したのは僕ではなく、ユミ姉だった。



「お前、確か、あ、思い出した、俺が昔殺し損ねたやつじゃないか?名前はっと」


 男はメモ帳を探して、ユミ姉の名前を探しているようだ。


「あったあった、クルルギ家の長女、ユミじゃないか。懐かしいな。俺が唯一ミスした仕事だからよく覚えている。

 あれは変わった仕事だったな。王国の公安魔導士部隊の隊長と副隊長を同時に殺せだなんて、あわや国家が転覆するかもしれないのに、そんな大それた指令が来たからびっくりしたっけな。

 だけど、やっぱり強い奴をやるのは楽しかったな.

 お前の弟はあっけなかったけどな」


「わはははは」と男は笑いながら、ユミ姉を見下し、煽る。


 ユミ姉は、ワナワナと震えている。

 それが武者振るいなのか、恐怖からなのかはわからなかったが、確実に怒りがユミ姉を包んでいる。

第二章も終盤に突入します。

いつもご一読いただきまして誠にありがとうございます。

作者自身は楽しんで執筆しておりますが、読者の方々にも楽しんでいただけましたら幸いです。


また、ご一読後、「面白い!」「応援したい」などなど思っていただけましたら、ブックマークの追加または、画面下にある『☆☆☆☆☆』での評価を頂ければ幸いです。

モチベーション維持に繋がります。

また、感想もお待ちしております。

よろしくお願い致します。

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