もんだいそのに ソシャゲ廃課金となろうテンプレ主人公
お父様が空のかなたに消え、お母様が悠々と蹴破った壁からお城の中に戻るのを見届けた私は、休息のために、応接間にてお茶をたしなんでおりました。
「とてもよい香りですわ」
そうしていると、お父様が声をかけてきました。
「あの後、調べてみたのだが”うまぴょい”とは頑張って重賞で勝利するという目標を達成したのでお祝いするという意味ではなかったのかね?」
お母さまのラリアットで空のかなたに吹きとばされたお父様は平然とそうおっしゃいますが、特にお怪我をされた様子もございません。
「お父様?
先ほどお空のかなたに吹き飛ばされたばかりだというのになぜ平然としていらっしゃるのですか?」
「うむ、地面へ着地する瞬間に五点接地転回法で衝撃を分散したからな」
「はぁ、五点接地転回法で何とかなるような高さには見えませんでしたが……。
とはいえそれを言えばそもそもお母さまのラリアットを受けた瞬間に首と胴体が分かれていないといけない道理ではありますが」
「うむ、妻のラリアットを受けた瞬間に自ら後ろに飛ぶことにより衝撃を和らげたからな」
お父様のおっしゃることは確かに理にかなっています。
それが常識的には達成可能には到底思えないということをのぞいてはですが。
「なるほど……まあそれはともかく、お茶を淹れますのでお座りくださいませ」
「うむ」
私はメイドにお父様の分のお茶とお茶請けも用意させました。
「ふむ、よい香りだな」
「ええ、今が旬のアッサムの最高級のセカンドフラッシュですわ。
それでお父様。
うまぴょいの本来の意味はそれであっていますわ」
「ふむ、そうであろう」
お父様がそういって紅茶に口をつけた後で私は言います。
「ですがそれは表向きの話であり、実際のネット界隈では”こいつらうまぴょいしたんだ!!”は”こいつら交尾したんだ”の隠語になっているのです。
つまりうまぴょいするとは性行為するということを公言しているようなものですわよ」
私に言葉を聞いたお父様は口から紅茶を”ぶー”と、噴き出した後思いっきりむせていました。
「な、なんだと、なんとうらやま……ではなくけしからんことを」
「ですので、意味が分かったうえで私に”うまぴょいする”とおっしゃったなら、セクハラですわと申し上げたのです」
「う、うむ、確かに娘に言うようなことではなかったな」
「ええ、ですので、そういうことはお母さまにおっしゃってくださいませ」
私がそうお父様に告げるとお父様は慌てたようにおっしゃいました。
「い、いやそれはちょっと……。
そ、それはそれとして、ソシャゲとはそれほど問題であるかな?」
「そうですわね。
問題点はいくつかありますが……まずソシャゲの市場規模ですが、2011年の時点では2250億円ほどでしたが2019年では1兆2100億円ほどまで増加しています」
「ふむ、それの何が問題なのだ?」
「国民の可処分所得が増えていない以上、ソシャゲにつぎ込まれているお金が、ほかの市場の売り上げを奪っているということですわ。
そしてそれが間接的に恋愛や結婚減少につながっていると私は考えております」
「確かに一兆円の金がソシャゲに集中していて、ほかの市場を圧迫しているのは問題ではあるかもしれぬな……」
「それと私は思うのですがソシャゲの重課金プレイヤーはなろう系の物語の主人公と同様の問題を抱えていると思います」
「なろう系というと何も魅力もない男がなぜか異様に強い力を手に入れて、個性のかけらもないヒロインハーレムを作るというあれか?」
「その認識は少し古いと思いますが、まあ、おおむね間違ってはいません。
その両者に共通することはその領域世界を管理するものからの、えこひいきというか特別に優遇されているということですわね」
「ふむ……もう少し具体的に言ってくれるかね」
「たとえば、私とお父様が麻雀を打つとしましょう。
その際には勝つために牌効率を熟知し、配牌や捨て牌から相手の待ちを読んだり、ツモった牌を吟味するのは大事なことです。
また、悩んだ後に切った牌の周辺は、それを切った人間にとっては当然危ないということは予測できます。
ポーカーフェイスと言うように状況がどのような場合であれ表情を変えないというのは対人要素のあるゲームやギャンブルでは大事です。
しかし、廃課金したソシャゲのプレイヤーやなろう系物語主人公はその場の管理者から最強というえこひいきをされ必ず勝てるようになっています。
言ってみれば麻雀で最初から必ず役満で上がれる配牌を得るようなものですから、観察も思考もせずに勝ててしまうわけです。
で、あれば確かにその場では気持ちよくなれるでしょうが、現実的にはそういった経験はその場所以外なにも役に立たないわけでもあります」
「ふむ、それはそうであろうな」
「これは忍耐力や暗記能力に偏りすぎた現在の学校教育の問題でもあると思います。
学校での優秀な生徒が会社での優秀な社員にはならない場合が多いわけですわね」
「で、あるか」
「まあ、学校教育に関してはもはや時代遅れも甚だしいとだけ今は申し上げますわ」
「ふむ、それはともかくソシャゲに一兆円もかけられる金の余裕があるのであれば消費税は20%まで上げてもよかろうな」
「いえ、それは悪手です。
やるならば酒税やたばこ税同様にソシャゲ税としてそれそのものだけにかけるべきですわ」
「ふむ?
そうかね」
「贅沢なものに税をかける分には反発はそうされないものです。
逆に日常生活に必需とされるものに税をかけるのは国民全体の消費意欲をおとすだけですわね」
「ふむ……」
お父様が腕組みをして考えている所で突如としてお父様の背後にあった壁がぶちぬかれました。
「夫婦の話の時間だゴラァ!!」
ぶちぬかれた壁の砂煙の中から現れたのはお母さまでした。
「あら、お母様」
そしてお父様はお母さまのお姿を見て狼狽しています。
「な?!
い、いつから?!」
「い、いやそれはちょっと……ってところだゴラァ!!」
お母さまはその丸太のような腕でお父様の首根っこをつかむとずるずると奥へと引きずっていきました。
「これからうまぴょいの時間だゴラァ!!」
夫婦仲がよいのは大変良いことですね(白目)。
・・・
というわけでソシャゲの問題をさらに挙げるのであれば、ソシャゲにつぎこまれているお金がほかの市場を圧迫していることと、重課金プレイヤーは何も考えなくても無双して楽しむことができるが、そこでの運営によるえこひいきという要素がなくなる現実的状況ではその経験が一切役に立たないということだと思います。