出会い
黒い目と髪をした少年とも思える顔立ちをした青年
クロエは行きとは打って代わり徒歩で隣の都市アルテマから帰路に就いていた。
冒険者であるクロエに個人依頼してきたと受付嬢から聞き、その内容を確認し、何も考えず受注したのが運の尽き。受けた依頼は貴族をアルテマまで護衛せよというものだった。2泊3日での移動に合わせて護衛で緊急時以外、馬車中での待機のみ。アルテマに着いて依頼を達成したと思い、帰ろうと思ったら、誰も馬を貸してはくれなかった。
受付嬢のノーンさんが言っていた戦争後の復興のためだろう。つい先月まで都市アルテマが属する帝国ドーマとその国との隣接国である王国ソルテは戦争していたのだ。ドーマが敗れてしまったため人手が少ないでの復興作業だ、馬も人も使い潰されるほど働いているのだろう。先程まで護衛していた貴族はソルテから派遣された復興作業の責任者だそうだ。
そんなわけで、クロエは、とぼとぼと歩いて帰っているのであった。馬車で2泊3日かかったものを徒歩で帰るのはそれ以上の時間がかかる。そう考えると更に歩く速度が減る。かと言って飛行魔法でも帰ろうかと思ったが、消費する魔力が馬鹿にならない。2、3時間飛び続けると魔力不足で平衡感覚が衰えてしまうため、使いたくなかった。
「かといって、歩いて帰るのもなぁー」
そんな悩みを抱きながら、クロエは行きとは異なった道を辿って帰っている。それは単純に暇潰しである。馬車の中は仕事中であったため警戒して外を見ていたのだ。特に変わり映えもしない風景を意識して見ていたため見慣れてしまったのだ。
だが、行きの道同じような光景は続いていたのだが、1日半歩いた所に月明かりに照らされて町跡が見えた。
門は瓦礫となり、あらゆる建物が半壊している。火の手が出ている場所は無く、鎮火されているようだ。
町中を歩いて回るが人の気配もなく、ただただ瓦礫が広がっているだけだ。
そんな光景を目に入れながら歩いていると、クロエは全壊し瓦礫の山となっている場所の前で1人の少女を見つけた。少女もクロエの足音に気が付いたのか、ゆっくりと振り返る。
真っ白な髪をした少女だった。月光に照らされて、腰まである髪は輝きを増し、髪に隠され、僅かに覗く右目と左目の碧が幻想性を高めていた。また、黒いワンピースが白く細い華奢な体を強調し儚さすらも醸し出していた。
「何しているの?」
クロエはどうしてこんな場所に、こんな時間にいるのかなども気になったが最も気になったこと聞いた。
「待ってる。」
「誰を待ってるの?」
「命令」
何の感情も表情も見せることなく、少女は即答した。ただただ、無感情なまま彼女は告げる。
「次は貴方が命令するの?」
その質問の意味をクロエは悟る。彼女は自身に命令する立場である者が存在しないことを知っているのだと。
──なら、なぜこんな所で自分を縛るものを求めるのだろう。
クロエは腹が立った。何にと言われれば具体的な答えはない。あえて答えるとしたら、このような考え方にさせた人間もしくは環境、そのどちらにも、かだ。
「僕は君に命令なんてしないよ。 けれど、君に提案をするよ。君が嫌なら断ればいいし、嫌じゃなければ受け入れたらいいよ。」
少女はクロエの言葉を遮ることなくただ無感情な瞳をクロエに向けたままだ。
クロエは提案の内容をくちにすると同時に静かに強く決意する。
──もし、この少女が僕の提案を受け入れるなら
「この町から離れて、僕と一緒に行動しない?」
無感情のまま、反射のような速さで少女は頷く。
「分かった」
──いつか、「幸せだ」って心から言わせてやろう