表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/63

悪夢再び

 シルベスターは、与えられた船の艦橋でグラスを傾けていた。

 安酒である。ガツンと強くて、さっと手軽に酔えればいい。そんな酒だ。

 一度酒に溺れきってしまえば容易には抜け出せない。


(だがこの仕事が終わるまでだ)


 この仕事が終われば、シルベスターは再び賞金稼ぎをすることができるようになる。用意されたこの船の性能は、脅威の一言だった。

 外から見ても巧妙に隠されているが、驚くほど多くの武装が装備されている。主推進機関の出力も大きく、補助推進、姿勢制御、回避機動用のスラスターも十二分に備えられていた。


 性能的には帝国軍の正規フリゲートと同等。

 シルベスターと乗組員達はそう見ていた。

 この艦を使いこなせれば1級の賞金稼ぎになれる。

 そうすればこの愛すべき労働者専用酒ともおさらばだ。

 船長席の呼び出し音が鳴った。通信だ。相手の表示は、ラザロウ。彼は近くの別の船に乗ってシルベスター達と同じように待機しているはずだ。


「よう」

「どうした、作戦前だろ」

「俺たち賞金稼ぎがそろって作戦も何もないだろうが」

「ま、そうだが。時間が来る、<黒銀の栄光>が来る、殺到する、沈める、だろ」

「あぁそうだ」

「作戦が単純すぎねぇか?」

「こんなもんだよ。何、相手は一隻だし、今回はこないだみたいに変な横やりもない。いけるさ」

「そうだな!」


 彼らは、その楽観的で雑な作戦立案が彼らを3流に留めている理由であることを理解していなかった。


「ひとつ気になるんだが、そろそろ<黒銀の栄光>が出てきてるはずの時間じゃないか?」

「ん……? あぁ、本当だ」


 いつの間に時間が経っていたのだろう。

 シルベスターはラザロウに言われて初めて気がついた。


「すこしのずれくらいあるだろ。気にすることないさ」

「そうか……。まぁ待つか」

「このまま連中が来なくても、船返せとか言われないよな?」

「心配しすぎだろ、それは。とにかく、そろそろ連中が来るはずだから、通信は切って置くぞ」

「あぁ、次の通信では祝杯をあげよう」


 シルベスターがグラスを掲げて見せると、通信が切れる間際、ラザロウが笑ったのが映った。


「……まだワープアウト兆候はないか?」

「ありませんね」

「ふうむ」


 うなりながら、シルベスターはグラスを傾けた。カラン、と氷が音を立てたが、液体が口に入ってこない。


「ちっ、空か」


 誰にも聞こえないよう小さく呟いて、足下の酒瓶を取って中身を足した。


「いつ来ても対応できるよう警戒は怠るなよ」

「はい」


 乗組員にしてみれば、酒を飲んでいるシルベスターに言われても緊張感など保てるはずがない。

 それでも返事だけは従順だった。


 継ぎ足した酒が空になる頃になっても、<黒銀の栄光>号は現れない。


「おい、本当に来ないんじゃないのか」


 シルベスターは不安に駆られ始めた。


「知りませんよそんなこと」


 乗組員にしてもしびれを切らしている。返答はぞんざいだった。

 その男は退屈そうにモニターに表示される観測データを見ていたが、ついにある数値を見て、活気が戻った。


「ワープアウト兆候発生」

「来たか!」


 待望の反応にシルベスターは立ち上がった。


「位置が予定の誤差範囲からずれてます。包囲の外側、本艦背後1万キロ!」

「急速回頭だ!」


 シルベスターの命令で船はワープアウトしてくるだろう<黒銀の栄光>号に正面を向けるべく回頭を始めた。


「ワープアウト兆候解析完了、質量<黒銀の栄光>相当です。ワープアウトまであと1分」


 1分あれば回頭は間に合う。


「砲撃準備も急げ!」

「はいっ」


 艦橋がにわかに慌ただしくなった。


「船長、もうひとつワープアウト兆候! よこっつらです!」

「なにぃ!?」


 ブリッジのメインモニターの状況図に、もうひとつのワープアウト兆候が表示されていた。

 シルベスター達賞金稼ぎ艦隊は、本来の<黒銀の栄光>号ワープアウト予定地点を取り囲む球形の配置をとっていた。

 最初に発生したワープアウト兆候はシルベスターの船の背後。

 もう一つは、その兆候に対して90度をとる位置に発生していた。


「質量、こちらも<黒銀の栄光>相当!」

「2隻!? いや、どっちかがワープデコイだな!?」


 どっちだ。

 どっちがデコイでどっちが本物だ。

 シルベスターは酔いの回った頭で考えた。


「2つめだ! 後の方が本命だ、そっちに向けろ!」

「はい!」


 船が新たな方向に向けて回頭していく。

 周りの船達は、バラバラに判断して、それぞれ本物と信じた方に向けて回頭しているようだ。

 ワープアウト兆候から遠い位置にいた船は、ワープアウトしてきた船を射程に収めるべく加速を開始している。


 綺麗な球形をしていた陣形は乱れはじめていた。


「一つ目、ワープアウトします。……コッチが本命だちくしょう!」


 索敵担当のオペレーターが叫んだ。

 彼らの船は今、ワープアウトしてきた<黒銀の栄光>号に艦の横腹を向けている。射撃目標としては最も被弾しやすい位置関係だ。


「ならそっちに回頭だ!」


 だが大きな問題は無い。まだ射程外だ。

 そう自分に言い聞かせて安心しようとしたシルベスターの心を、激しい艦の揺れがおそった。


「な、なんだぁ!?」

「被弾! 砲撃です!!」

「んな馬鹿なぁぁぁ!!」


 シルベスターの声は絶叫の悲鳴にちかい。

 そうしている間にも次々と艦にビームが直撃している。

 艦が大きく激しく揺れた。


「回避、それと反撃、反撃だ!」


 シルベスターは叫ぶことしかできなかった。

 シルベスターの意識が光の中に消え去るまで、長い時間はかからなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=204386124&s
― 新着の感想 ―
[良い点] 艦のコントロールは完全に取り戻せたようですな、間に合って良かった 良かった。 [気になる点] 相手は射程外と認識していたのに次々と命中していたようですが、どういう事なのでしょう? ワープし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ