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再会


「いやよ」


 キティシアは即答で断った。

 話を持ちかけた方のデアグストもその答えは特に意外ではなかったらしい。


「そう言うと思った」

「当たり前じゃない。私に帝国軍の演習を手伝わなきゃならない理由なんてない」


 キティはデアグストから近衛艦隊の演習に参加して欲しい、という依頼を受けていたところだった。


「協力してくれれば、一時的に停止してるだけの懸賞金を全て消すとしてもか?」


 デアグストは事務的な口調だった。

 説得を試みている、というより説得を試みて欲しいと期待されて用意された言い訳を言わなきゃいけないから仕方なく、という感じだ。


「別に私は懸賞金なんて気にしてないわ。何なら今すぐ再開してくれてもかまわないわよ?」

「はは。国賓の使用船にそんなことはできんよ」


 キティはデアグストの机のうえに手をついて身を乗り出した。

 デアグストをにらんでいる。


「いい挑発の仕方だわ。カチンときてつい乗っちゃいそうになるくらいの」

「挑発とは何のことかね」


 デアグストは平然としらを切った。


「一年前の私なら乗ってたわ。誰かに守られるなんて我慢ならない、ってね。でも今はダメよ、あいつを要塞に帰すまでがお仕事なの」

「私にとってもそうだ。彼にはちゃんと無事に帰って貰いたいと願っているよ」


 キティとデアグストは同時に微笑んだ。


「それじゃ、この話は終わりでいい?」

「あぁ。とりつく島もなく断られたと担当者に伝えておこう」

「そうしてちょうだい」


 キティはきびすを返して部屋から出て行こうとした。


 デアグストのデスクの電話が鳴った。


「私だ。来客中だぞ……なに?」


 デアグストが眉をひそめた。


「船長、すまんが少し待ってくれんか」


 とキティを呼び止めて、相手から詳しく話を聞き始めた。


 不穏な気配だ。

 キティは腕を組んでデアグストを待った。


「……わかった。伝えよう」


 しばらくして、デアグストが通話を終えた。


「何事かしら。か弱い貨物船相手の簡単な仕事を終えた後、手強い騎兵隊ドラグーンが現われるときみたいな空気感だわ」


 キティが機先を制した。


「なかなか的確だ。君の船にキュークという男がいるだろう?」

「えぇもちろん。私の愛すべき片腕だわ」

「つい先ほど、近衛の男爵を殴ってしまったらしい」

「まぁ。男爵殺しなんて怖い」

「死んではおらん!」

「そうなの。手を出すときはちゃんと仕留める男なのに。運のいい男爵おとこね」


 デアグストは眉間にしわを寄せた。

 これだから海賊は。


「だがそれで、男爵が怒りに怒っていると言うことだ。決闘だと飛び出す勢いらしい」

「勢いということは、どなたか理性的な方がまだ止めてるのね」

「もちろんだ。帝国軍は無法者の集まりではない。だが、問題はこの始末をどうつけるかだ」

「なるほど、閣下が言いたいのは、演習という形で決闘しようということね」


 キティはデアグストの結論を先読みした。

 男爵には貴族として汚名をすすぐ機会を与えなければならないということだ。


「そうだ」

「恥の上塗りにならない?」


 キティ達が勝ったときには。


「それは奴の問題であって帝国軍の問題ではない」

「キュークと話せるかしら?」


 デアグストは頷いて、再び電話を取った。その先に命令を下すと、壁面のモニターが点き、いつも通り無精ひげを伸ばし不敵な表情をしているキュークが映し出された。


「これはお頭。お恥ずかしいことで」

「何があったのかしら、キューク?」

「いつも通り何もありませんでしたぜ。まぁちょっと、憲兵に銃を突きつけられてる最中なんで、お頭の顔が見れて嬉しくてひっくり返りそうです」

「そうなの。かわいそうね」

「へぇ」


 それっきりキュークは黙った。

 キティも黙っている。


「ありがとう、閣下。もういいわ」

「いいのか?」

「いいのよ」


 キティが断言したので、モニターが消えた。


「それで、どうするかね?」


 デアグストは少し早口になっていた。


「あら、不安なの、閣下?」

「正直に言えば、な。お前達の性格からすると、演習といわず実弾でやってもいい、とか言いそうだからな」

「まさしく別に構わないけど、それだと閣下が困りそうね?」

「困る」

「どうしようかしら」


 キティは楽しそうに悩んで見せた。





 セツトの父、ヴァイエル伯爵の葬儀はつつがなく終了した。


 国葬である。

 葬儀の段取りも進行も全て帝国の役人が進めてくれていた。


 セツトとしてはただ席に座って、父を悼んでいればよかった。

 葬儀が終わって廻りの参列者が帰途につく中、セツトはしばらく席に座ったままだった。


 父の遺体は宇宙に散ってここにはない。

 しかし葬儀という儀式は、改めてセツトに父の死を感じさせた。


「セツト様」


 サツキが小声で注意を促してきた。


 セツトの方に歩いてくる者がいる。

 白髪頭の初老の男だ。

 見知った顔だった。


「ヴォールフ!」

「お久しゅうございます」

「お知り合いですか?」


 サツキが聞いてきた。


「お初にお目にかかります、お嬢様。私、ヴァイエル伯爵家で執事を務めさせていただいております。以後よしなに」

「要塞司令官補佐官、ミツキです。よろしく」


 サツキはしれっと偽名を名乗った。

 セツトはそのような指示はしていない。しかしセツトはいぶかしむ気配すら出さずに話を続けた。


「まだ執事をやってくれているんだね」

「はい。伯爵家を次の方にお渡しし安定するまでは、と思っております」

「次、というとやはり?」

「はい。ベルクフッド様です。そのための縁組でしたので」

「だろうね」

「セツト様が継ぐと言えば、継げたのでは?」

「……僕は死んだよ」


 セツトは短く返した。

 同じようなことは皇帝にも聞かれた。死亡を取り消して伯爵家を継いではどうか、と。


 答えも同じだった。


「失礼いたしました」


 ヴォールフは顔を伏せた。


「いいんだ。お母様は帝都に来ているの?」

「いいえ。軍による国葬ですから、出るべきではないと仰せでしたので。ここにはベルクフッド様と私で」

「そうか。ベルクフッドは?」

「友人とどこかへ行かれました」


 セツトは少し安心した。進んで会いたいと思う相手ではなかったのだ。


「それじゃあヴォールフ、伯爵家の近況を言える範囲で構わないから教えてくれないか。お母様や、猫のミケ、メイドやコックのみんなは元気?」

「もちろんですともセツト様」


 ヴォールフは柔らかく微笑んだ。


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