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賞金稼ぎの悪夢

 目の前で<黒銀の栄光>号がのたうっている。


 賞金10億。

 とどめの一撃を刺した船が1億。あとは山分け。


 他の船が撃ったビームが瀕死の船体に突き刺さった。まだ<黒銀の栄光>号は力を失いきってはいない。反撃の牙をむく先を探して砲塔が旋回している。


「反応炉だ、反応炉を狙え!」


 とどめを刺せるかどうかで分配額は大きく変わってくる。<黒銀の栄光>号の装甲は度重なる被弾でもはや紙程度のものでしかない。船体の奥深くに守られた反応炉とはいえ、直撃させれば打ち抜くことができるだろう。

 そうすれば、<黒銀の栄光>号は自身の持っている反物質で爆散する。


 命令を受けた砲手が狙いを調整する。この一撃で決める。

 照準が反応炉に合わせられ、砲手がトリガーを引こうとした瞬間。


 世界が白く染まった。




 はっとして目が覚めた。


 ここは自室のベッドの上だ。

 ベッドサイドのテーブルには、寝る前に飲んでいた酒のグラスが酒をたたえたまま置かれていた。シルベスター=ヤドリは、そのグラスを乱暴に取り上げると、中身を口の中に流し込んだ。


 灼熱感が喉を通り過ぎていき、いやな気分が少し晴れた。


「くそっ。またあの夢か」


 何度同じ夢を見たことだろう。


 賞金だけではなく、船まで失った。

 鍛え上げ苦楽をともにした船員達も多くが真空に散った。


 あと一歩で<黒銀の栄光>号を沈めることができたのに。横合いから打ち込まれたビームの一斉射でただの夢に終わってしまった。


 シルベスターは今、残っていた貯金をはたいてボロい貨物船を買い、生き残った船員達と小さな運送業を営んでいた。


 孫請けのさらに孫請け、玄孫請けである。言われるがままに荷物を積み、言われたとおりに運ぶ。運んだあげくに荷物にいちゃもんをつけられ、ただでさえ安い配送料をさらに値引きされる。


 仕事があるだけましだ。

 一緒に<黒銀の栄光>号を追った仲間の中には立ち直る財産さえない奴もいるのだから。

 日々そう言い聞かせ、酒で騙し、ギリギリでなんとか生き繋いでいる。


 そんな状況である。


 グラスを置き、サイドテーブルに置かれている携帯端末を見ると、メッセージが届いていた。

 副船長からだった。


『来客あり。起き次第会議室まで』


 受信時刻は20分前。

 副船長がわざわざ連絡してくると言うことは、支払いの取り立てではない。

 仕事の話だろうか。

 もしそうならたたき起こしてくれればいいのに。


 心の中で文句を言いながら着替え、会議室に向かった。

 会議室といっても、ここは乗員用のスペースに余裕のない小さな貨物船内。人が6人も入れば狭く感じるくらいの狭い部屋だ。


 中では、副船長と共に2人の男が待っていた。


 1人は旧知の男だ。

 一緒に<黒銀の栄光>号を追い、船を失ったラザロウ船長。彼は確か貨物船を買う金すらなかったはずだ。今何をして生きているのか情報も特に入ってこなくなっていた。


 もう1人は知らない男だ。

 年の頃は60近いだろうか。白髪交じりで余裕のあるたたずまいをしている。シルベスターがよく付き合っているような柄の悪い連中の雰囲気ではない。真逆、貴族やそれに連なる行儀のいい社会の雰囲気がある。


「ラザロウ船長、ひさしぶりじゃねぇか」


 シルベスターはまず旧知の船長に声をかけた。


「朝早くにすまねぇな」

「そっちのかたは?」


 単刀直入に聞く。


「はじめまして。ヤドリ船長。私はヴォールフという者です」


 白髪の男が自己紹介をした。

 発音の丁寧さはやはり上流な人間だろうと思われた。


「よろしく、ヴォールフさん」


 シルベスターが席に着くと、すぐに本題にはいった。


「知ってるか、ヤドリ。今、帝都に<黒銀の栄光>が来てるぜ」

「<黒銀の栄光>が? 捕まったのか?」

「そうじゃねぇみたいだ。近衛にエスコートなんかされててよ、海賊対策局に問い合わせたら、今あいつの懸賞金は停止してるってんだ」

「はぁ?」


 取り下げでもなく、停止。一時的な処置だということだろうか。


「よくわかんねぇけど、俺にはもう関係ねぇよ。見たろ、こんな貨物船一隻じゃ何もできないぜ」

「船があったら、やる気はあるか?」


 ラザロウが身を乗り出してきた。


「あ?」

「<黒銀の栄光>を沈めちまわねぇかって誘ってんだよ」


 ラザロウの目は本気のようだった。目の奥で恨みと欲の炎が燃えてギラついている。


「懸賞金は停止してんだろ。沈めても一文の得にもならねぇよ」

「失った船と、船員達の仇をとりたくないのかよ?」

「そういう問題じゃねぇよ。賞金首でもない奴を沈めたら逆にこっちが賞金首になっちまう」

「心配すんな。旦那がうまくやってくれる」


 シルベスターは改めてヴォールフを見た。

 ヴォールフは静かにラザロウとシルベスターの会話を聞いている。会話に入ってくるつもりはなさそうだ。


 貴族本人ではあるまい。

 使用人だろうが、使用人の中でも上に近い人間のような雰囲気がある。


 ラザロウに貴族に繋がるような伝手があったとは思えない。

 そうすると、実際考えているのはヴォールフの主人か、そのまた主人かといったところだろうか。


「船があったら、ってのはどういうわけなんだい?」

「この話に乗るなら船一隻くれるってよ。中途半端な船じゃねぇぞ。艤装は帝国軍用品レベルだ」

「修理品か?」


 軍用装備で市場に出回っている物の多くは故障して換装したものや大破した船から取り外した装備であることが多い。

 故障したままの物はジャンク品、それを修理して使えるようにした物が修理品として売買されている。


「横流し品だよ」

「そいつはレア物だな」


 ジャンク品や修理品も横流し品ではあることも多いが、彼らの中で単に『横流し品』といった場合、故障していない艤装パーツの横流し品を意味する。

 こうした品の流出には帝国軍は厳しい。ジャンク品や修理品は、修理に使った部品の質などによってどうしても本来の性能よりは劣る。


 だが本来の性能を維持している物であれば、帝国と敵対する者にも同じ装備が渡ることになり、戦場での優位性が失われる可能性が出てくる。


 それ故に厳しい。


 しかし同時に、高く売れる可能性が高いと言うことでもある。時折、故障していないパーツを故障したと偽装するなどして横流し市場に流れてくることがあった。たいてい目の玉が飛び出そうな価格になっている。


 そんな物をただでもらえることほど高い買い物はないだろう。


「そうよ。だからこそ俺たちが万が一捕まれば足がたどられる。逃がすまで面倒見るってことの表れだよ」

「捕まる前に爆発させちまう、って場合かもしれないぜ」

「やる時には旦那も同乗するそうだ。それで信じらんないならこの話に乗らなきゃいいのさ」

「確かにな。詳しい話を聞かせて貰おうか。その上で答えてもいいんだろ?」

「あぁ、もちろん」


 ラザロウは自信たっぷりにそう言った。




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