決戦
最初に戦端を開いたのは、独立防衛艦隊である。
連邦軍の戦列艦列は中央で2つに分かれて前進してきていた。要塞ではなく戦闘艦を攻撃したいのだろう。
連邦艦隊が要塞主砲の射程にさしかかった。
「撃て」
セツトの命令で、<ヴァーラスキルヴ>要塞主砲が火を噴いた。連邦軍が大きく広がっているため、主砲の半分以上700門が敵を照準可能であった。
猛火である。
たちまちに連邦軍戦列艦の80隻あまりが散った。
中央に近い連邦軍戦列艦の動きが止まり、後退して距離を取った。要塞主砲の射程がそこだと見極め射程から遠ざかるようにしたのだ。
連邦軍は戦列艦がなるべく射程に入らないように、両サイドに離れていきながら前進を続けた。同時にハの時になるように艦列を組み替えていく。
要塞はそのまま砲撃を続けた。
距離を取られても途端にビームの攻撃力がゼロになるわけではない。
超高出力の要塞主砲であれば、多少離れたところで損害を回避することはできない。
爆散する艦こそ減ったが、要塞は着実に連邦艦隊に損害を出していった。減衰してもなお、一度の斉射で60から70隻ほどが爆散していく。
独立防衛艦隊の戦列艦も、連邦艦隊に正対できるようハの字型に形を変えていった。
ハの字が90度の角度にまでなって、連邦軍は広がるのを止め、前進を再開した。
要塞主砲の一方的な攻撃が続いている。
連邦軍は動じることなく回避機動を取りながら前進を続けていた。
「分かっていれば覚悟ができるからな」
ヴェツィアはその様子を見て呟いた。予想外の攻撃に醜態をさらしたかつての自軍の様が心に棘として刺さっている。
ヴェツィアの艦隊、マーズカミノ王国第1艦隊は独立防衛艦隊左翼にいた。隣には同第3艦隊がいる。第2艦隊の残兵を合流させたとはいえ、第1艦隊よりも規模は小さい。
供与されたサジタリウス級は<ヴァリオン>と名付けられ、艦列の先頭にいる。
「まもなく連邦艦隊がサジタリウス級有効射程に入ります」
「うん。予定通りに」
サジタリウス級はすべて左翼に集中されている。
数の上では左翼と右翼は同等だが、戦力の上では左翼の方が強大だ。左翼で連邦艦隊右翼を破り、そのまま連邦艦隊中央と左翼を片翼包囲するというのが当初の予定だった。
サジタリウス級戦艦7隻はほぼ同時に砲撃を開始した。
連邦軍の戦列艦は守りを固めてじっとこらえている。
その10分後、今度は要塞副砲が砲撃を開始した。一気にこれまでの倍近い、150隻の戦列艦が犠牲になっていった。
「記録より砲撃が激しいぞ! どうなってんだ!!」
レイゼの艦隊指揮所では参謀の悲鳴が上がった。
「うろたえるな、それでも参謀か。涼しくしていろ」
レイゼはその参謀をとがめた。
「おまえ達の仕事は兵の命を小銭でも数えるかのように計算することだ。計算しろ。対応は必要か?」
「失礼いたしました。いますぐ」
「謝罪はいらん。その一言の間にも兵が死ぬ」
そう言いつつ、レイゼは直感で対応の必要があると感じていた。戦列艦の減りが予想よりかなり早い。
攻撃の集中を受けている連邦軍右翼では既に1500隻を超える戦列艦が失われていた。
「閣下、まずいです」
「フリゲート隊は全隊突撃」
参謀の端的な報告に、レイゼは即断した。
「戦列艦は砲撃開始後も防御最優先を維持するように」
レイゼの命令はただちに符号化された発光信号で艦隊に伝えられた。
連邦艦隊の上下左右を固めるフリゲート隊が推進炎を吹き加速を開始した。
目標は独立防衛艦隊戦列艦だ。
それを見て、独立防衛艦隊側もフリゲート隊と海賊隊が動いた。
目の前にいるフリゲート隊の動きを阻止するために加速を始めた。
左右から迫ってくる連邦軍フリゲート隊は、要塞で対応をする。戦列艦を狙っていた主砲の一部にフリゲート隊を狙わせることにした。
フリゲートが移動している間に、戦列艦同士が有効射程に入った。
「撃て!」
命令はほぼ同時。砲撃もほぼ同時に起こった。
戦列艦の放ったビームの矢が雨のように互いの艦隊に降り注いでいった。
戦列艦は双方とも生存を最優先に防御と回避にエネルギーを集中させていたため、お互いに大きな損害を与えることはできていない。
しかし連邦軍の戦列艦は、要塞の砲撃によって着実に数を減らされていった。
戦列艦を狙うのは副砲だけになったとは言え、一度の斉射で約70隻が沈められていた。わずか10分で500隻近い艦艇が沈んでいくのである。たまったものではなかった。
連邦軍の戦列艦隊は、隊列のあちこちに大きな穴を開けながらも、よく耐えていると言って良かった。
戦列艦に上下から迫ろうとした連邦フリゲート隊も、海賊隊と独立防衛艦隊のフリゲートとの乱戦が始まってしまい思うように動けていない。
海賊隊は数こそ少ないものの、要塞が提供した砲とシールドが効果をあげ、連邦フリゲート隊と互角以上の戦いを見せていた。
左右から迫ろうとするフリゲート隊も、要塞主砲の猛烈な射撃により、信じられない速度で艦が沈んでいく。
その状況を見てレイゼが命令を出した。
「戦列艦を下げさせろ」
連邦軍の戦列艦が反転を始めた。砲撃を止め、回避機動を続けながら、可能な限りの速度で要塞から離れようとした。
要塞と戦列艦が追撃を開始する。独立防衛艦隊の戦列艦は要塞に速度を合わせた。要塞は巨大なだけあって、大きく加速することはできない。出せる加速度は戦列艦よりも遅かった。
追われる連邦軍戦列艦と、追いかける要塞の距離が次第に離れていく。
連邦の左右のフリゲート隊も、要塞から距離を取る運動を始めた。最も速やかに要塞の射程から出ることできる軌道を取り、急いで離れていく。
乱戦になっている上下のフリゲート隊は撤退できない。乱戦下での撤退は困難が伴い大損害の可能性がある上、乱戦になっているからこそ要塞からの砲撃を受けずに済んでいるからである。
連邦軍戦列艦が要塞主砲の射程から出たときには、3万3000隻あったものが2万隻を切るまで撃ち減らされていた。
残る連邦軍は上下フリゲート隊だけだが、フリゲート隊は乱戦を解消しようとしなかった。独立防衛艦隊が乱戦の解消を図っても、それをさせない。
乱戦が終われば要塞からの全面的な砲撃を受ける。
連邦軍は乱戦を続けることに必死だった。
連邦軍の戦列艦は要塞の射程から出ても撤退を続けていた。ワープジャマーの射程外、ワープ可能になるところまで避けようとしているようだった。
「追うにも追い切れないな」
セツトは要塞司令室内で状況を見ていた。要塞の足の遅さが少し残念だった。
まだ近くでフリゲート隊の乱戦が続いている。<黒銀の栄光>号は大きな損傷もなく戦いを続けているようだった。こちらが押している。遠からず決着がつくだろう。
帝国艦隊の方の状況を見ると、帝国艦隊が押しに押していた。もともと5万対3万である。奇策でも打たれない限り帝国艦隊は負けない数だった。
3万の連邦艦隊は後退しながら戦闘を継続しているが、ついに帝国艦隊がドラグーンとフリゲートを投入し強引に中央突破を図っていった。
(どうやら勝ったかな。)
セツトは思った。
「連邦の戦列艦及び離脱したフリゲート艦がワープ準備に入りました。ワープ先解析中です」
ミツキが報告をあげてきた。
「解析完了。帝国艦隊の背後です」
「え?」
「連邦艦ワープインまであと30秒」
まずい。
連邦艦は要塞から離れるためにほぼ全力で加速して速度をつけている。ワープアウト後すぐに帝国艦隊に殺到するだろう。
要塞は、すぐ近くでフリゲートが乱戦しているため、そのビームの余波がワープジャマーとして働きワープインできない。
連邦軍が短距離ワープに入った。
戦列艦2万弱とフリゲート艦3000が、帝国艦隊の背後を襲った。




