作戦会議
グロリアス艦隊の偵察により、連邦軍発見の報がもたらされた。
偵察に出た海賊船が続々と帰還してくる。連邦軍の進行状況はすぐに明らかとなった。
先陣は3個艦隊。
中央に3万隻、両翼に2万隻ずつの7万隻。それぞれ異なる平行したルートでマーズ=カミノ王国に迫ってきている。
2度ほどの恒星間ワープで合流できる程度の近い間隔だ。なにかあればすぐに合流できる。そんなコース取りだった。
マーズ=カミノ王国の近くまで来ると、艦隊は一箇所に結集し、7万隻の一個の大艦隊となった。
セツト達は連邦艦隊を迎え撃つべく、マーズカミノ王国を出た。有人惑星がない無人のカルネダ星系を選んで布陣した。
星間ガスが渦を巻く星系である。
ガスの影響でビームの減衰率が大きく、探知系にも障害がある。
海賊と周辺独立諸国の連合艦隊、仮称『独立防衛艦隊』は6000隻まで数を増やしていた。
戦列艦3500隻、海賊船含むフリゲート等2500隻という構成である。
海賊船が基本的に快速性を重視したフリゲート系統の船であるため、連邦や帝国の編成と比べて戦列艦が少ない。
戦列艦の不足は、要塞と、建造が間に合ったサジタリウス級戦艦7隻で補うこととした。どちらかというと、要塞頼みだ。
翌日、独立防衛艦隊と帝国艦隊は合流を果たした。帝国艦隊4万、帝国派独立諸国艦隊1万、独立防衛艦隊6000の計5万6000隻と、<ヴァーラスキルヴ>要塞がそのすべての戦力である。
布陣は別々にした。
指揮系統を一本化するにはヴァイエル伯爵に集約するしかないが、海賊や独立防衛艦隊に参加した諸国の艦隊指揮官は明確にそれを嫌がった。彼らの中には帝国に対して海賊行為をしたことがある者も多くいる。艦を並べるのを嫌がるのは当然と言えば当然であった。
右に帝国艦隊、左に独立防衛艦隊、そうした形で布陣を行った。間隔は広く開けている。
そうして2つの戦場を設定したのである。
連邦艦隊も2つに分かれざるを得ないようにする狙いだった。
連邦軍が帝国艦隊を重視して布陣すれば独立防衛艦体が要塞を軸に押し込み、逆であれば帝国艦隊が押し込む。そして目の前の敵を撃滅し次第、持ちこたえる他方の艦隊を側方から援護する。
シンプルながら、指揮系統や互いの信頼関係といった問題がある以上複雑な作戦は困難であり、これが最も有効な作戦だと考えられた。
セツト達が布陣して3日後、連邦艦隊7万隻が星系外縁に姿を現した。
「寄せ集めの苦労が見えるようだな」
偵察を行ったフリゲート艦からの情報を一目見て、レイゼはセツト達の事情を看破していた。
作戦責任者であるサルコウ大将は後方の星系にいて、残りの3万隻で補給路の維持、占領地域の拡大を行っている。カルネダ星系での指揮はレイゼに委ねられていた。
「しかしこれでは我が軍も2つに分けるしかありませんね」
ファランジェ少将が当たり前のことを言った。ひとかたまりで一方の艦隊に向かえば挟撃されることになる。
「問題はどう分けるか、でしょう」
リーク少将は腕を組んでいる。
3人は床面に表示された星系内の状況を見ながら、どう戦うかを協議していた。
「いったい連中はどちらが主攻なのでしょうか」
「数で言えば帝国艦隊の5万では」
主に議論しているのはファランジェとリークである。
「要塞側は遺跡の武装で固めているのでしょう。すべてドラグーン級とみるべきです。数だけで見るのは危険です」
セツトが周辺諸国や海賊に呼びかけた内容は、連邦軍も把握していた。要塞とマーズ=カミノ王国軍との戦いの記録も入手しており、数で見てはいけないことは明らかだった。
「その可能性もありますね。しかし帝国艦隊への対処も考えると、彼らにあまり兵を割くのも得策ではありません」
「少なくても持ちこたえることはできるのでは。その間で帝国艦隊を叩けば勝てる」
ファランジェは少数の艦隊で要塞側を押さえておき、帝国艦隊と雌雄を決する作戦をすることを考えている。
「つらい防御になりそうだな。射程距離は連中の方が長いのだろう」
「その防戦は私がやろう。必ずこらえきってみせる」
ファランジェには自信があるようだった。防戦の粘り強さに関しては、ファランジェの得意とするところだったのだ。
「まぁ待て」
レイゼがついに口を挟んだ。2人の議論を聞きながら、参謀の作戦検討結果を下敷きに、頭の中で作戦を練り上げていたのだ。
「私は、狙うべきはこちらだと思っている」
レイゼが鞘に収めたままの剣で要塞側の軍勢を指し示した。
「と、いいますと」
「この寄せ集めこそ奴らの弱点だからだ。ファランジェ、お前の麾下の2万に私の1万を足す。これで帝国軍を留めろ。大きく引いて構わん、決して砕かれず、そして離すな」
「はい」
「リーク、お前と私の4万で奴らを叩く」
「かしこまりました。要塞には正面攻勢を?」
問われて、レイゼは不敵に笑った。
「攻勢など不要だよ」
7万隻の連邦軍は2艦隊に分かれてから恒星内ワープを行い、セツト達の正面にワープアウトしてきた。
独立防衛艦隊の正面には4万。
帝国艦隊の前には3万。
独立防衛艦隊側に重きを置いている編成だ。
「こっちに4万とは。よほど敵の指揮官に気に入られたようですぜ」
敵の配置をみて、<黒銀の栄光>号ではさっそく軽口が始まっていた。
目の前の連邦艦隊は、3万3000隻の戦列艦と7000隻のフリゲート艦で構成されている。
連邦の戦列艦は通常通り隊列を組んでいるが、フリゲート艦のうち3000隻は上下に、4000隻は左右に展開している。横に広く広がっている陣形だった。
「美少年はつらいね」
「敵の指揮官、なかなかの美人って話でしょ。お頭いいんですかい?」
「よくない。奴とセツトを絶対に会わせてはならない。みんな頼むよ!」
「むしろ、捕らえて目の前に引き出して寝返らせる、って作戦にしやせんかい」
「そう都合良く寝返るもんかね?」
「そこはよ、美少年パワーってやつで。だって見ろよ、うちのこらえ性のない艦隊アレルギーのお頭が艦隊行動してやがんだぞ」
<黒銀の栄光>号は独立防衛艦隊の海賊隊の中にいた。
海賊隊の指揮をしているのはグロリアスである。
独立防衛艦隊は、中央に要塞を置き、その両側に戦列艦を並べていた。フリゲート隊と海賊隊はそれぞれその上下に楔型の陣形をとって待機している。
「うん。我慢してる。かなり我慢してる。ああ好き勝手飛びたい。この戦いが終わったら、私、セツトとおもいっきり海賊して通商破壊に勤しむんだ……」
「なんかその言い方不吉なんでやめてくだせえ」
「明日の豪華な晩ご飯より、今日目の前のランチのことを考えましょうや」
「うわ美味しくなさそう」
キティが苦い顔をした。
「食わず嫌いはいけやせん」
ぴし、とキュークがたしなめた。
連邦艦隊が隊列を整え終え、前進を始めた。
いよいよ戦いが始まる。




