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海賊の頭目

 

 セツトがやらなければいけないことは山ほどあった。

 機械的な操作はミツキがすべてやってくれるとしても、方針の決定はセツトが行わなければならない。


「私には決断を行う権限も機能もありません」


 とミツキは譲らない。


「地球連邦は、AIに全てを委ねた結果滅びました。そのために私は、決断を行わないように作られ、また、決断を行うように自らを変更することもできないよう設計されています。したがって、決断は、閣下にやっていただかなくてはなりません」


 それがミツキの説明である。ある程度おおまかな決断でも解釈して対応してくれるが、勝手に何かしておく、ということはなかった。

 おかげでセツトは一日に何度もミツキから提案と説明を受け、そのたびに決定をしていかなければならなかった。


 <ヴァーラスキルブ>要塞は、現在、オシクル星系内に位置を固定している。

 恒星とオシクルcと名付けられた巨大なガス惑星との重力均衡点上である。要塞はここで恒星に対し軌道を安定させ、外部施設の建造にあたっていた。


 海賊を集め急拵えの艦隊を作るには、要塞外に宇宙港を設けることが必要だった。要塞の保安、要塞に関する必要以上の情報漏洩の防止、物理上の制約のためである。


 外敵のなかった地球連邦において、艦隊はさほど大規模にはならなかったという。


 要塞に収容できる艦艇の数は5百隻。

 開口部を大きくしないという観点から、一度に発着できる艦艇も数隻程度に制限されている。要塞の港で艦隊を運用するのは得策ではなかった。


 そこで要塞の軌道を安定させ、近傍の空間に艦艇を停泊するための港と付随設備を建造することとした。


 基本の構造は四角い棒である。

 そこにトラクタービームの発振器を並べ、宇宙船をロックできるようにした。

 棒の中のスペースには海賊達の大好きな酒場やカジノなどの娯楽施設を設けている。こうした娯楽設備を運用するのは、マーズ=カミノ王国の海賊用宇宙港で店を開いていた者達だ。


 海賊の募集は順調といえた。キティが海賊に声をかけに出て1ヶ月、現在100隻がオシクル星系に集まっている。


 セツトは近傍の独立諸国にも声をかけていた。3か国がセツトの提案に応じることを決め、そのほか5カ国と交渉が進んでいる。


 要塞外設備の部品パーツの製造、海賊に提供する兵装の製造、独立諸国に提供する艦艇の建造。要塞の生産設備はフル稼働と行っていい状態にある。


 キティは、出て行って1ヶ月半したころに戻ってきた。50隻の艦隊が<黒銀の栄光>号に随伴していた。

 50隻の海賊船は1人の海賊に率いられている。

 ヴィード=グロリアスという男だ。海賊界ではそれなりに知られた男であるらしい。


「うちの親父が仲良かった海賊でね」


 キティはグロリアスという男について教えてくれた。


「30年やってる。配下は全て百戦錬磨。一目置いてる海賊も多いから、引き入れといた方がいい相手だよ。好きなものは、とにかく女」


 セツトはこの海賊艦隊の頭目と要塞内で会うこととなった。

 キティに連れられて、グロリアスが応接室に入ってきた。

 グロリアスは、長身ですらりとした均整の取れた男だった。白髪交じりのグレイヘアに原色に近い派手な色の服を着て、歩いているだけで目を奪われるような男だ。自信あふれる涼しい微笑みを浮かべている。


「要塞司令官セツト=ヴァイエルです。表向きシーア=アズナと名乗っていますが。ようこそ我が要塞へ、グロリアス頭目」

「お招きありがたく、司令官殿」


 ふわりと優雅な一礼だった。海賊の頭目だということを忘れそうになるほどだ。


「どうぞおかけください」


 セツトはグロリアスに着席を進めたが、グロリアスは動かず、じっとセツトの顔を見た。


「……何か?」

「なるほどね」


 グロリアスはゆっくりと頷いた。


「キティが入れあげるのもわかるというものだ。将来有望そうないい男ではないか。私の少年時代が思い出されるようだ」


 キティがグロリアスの腕をつねった。


「余計なこと言わなくていいの」

「大事なことだ。キティのことを頼むとラージェから言われているんだぞ、私は」

「夢の中でね」

「夢の中でだ。ただ間違いなく機会があればラージェは私に頼んだはずだ。私以外にそれを頼める相手はいない」

「キュークの方が頼りになるわよ」

「遠くから見守るこの愛が分からないとは。キティ、もう少し女を磨いた方がいい」

「はいはい」


 キティはさっさとソファに座った。セツトの隣だ。そこが定位置だと言わんばかりであった。


「失礼しました」


 グロリアスも砕けた雰囲気を収めてセツトの正面に座った。少し斜めに、足を組んで座っている。座り方まで様になっていた。


「仲が良さそうでなによりです」

「オムツを替えたこともある関係だからね」

「ヴィー、反応炉の中に放り込まれたいの?」


 キティの言葉にとげが生えた。


「私くらいになるとそれくらい生還するよ」


 キティがペースを乱されている。セツトは珍しいものを見た思いだった。


「本題に入っても?」


 グロリアスがきっちり話を戻してきた。


「えぇ、もちろん」


 セツトは頷いた。キティとのやりとりのおかげで場の緊張がほぐれている。意図してやったのだろうか。


「ありがとう。なんでも、兵装を提供することで私たちを雇いたいとか」

「そうです。ドラグ-ンに装備されているものと同等のものをお約束いたしましょう。金銭では手に入らない物ですよ」

「現在の<黒銀の栄光>号を見ていなければ一笑に付すところだが、信じざるを得ないね。確かに、中途半端な金銭より魅力的な条件だ」

「ぜひ手伝っていただきたいと考えています」


 これではい分かりました、ではないだろう。それであればわざわざ会う必要はない。

 どんな追加の要求をしてくるか。セツトは心の中で身構えた。


「その前に確認しておきたいのだが、あなたは、この先の宇宙をどうしたいのだろうか」

「どう、とは」

「この戦争、あなたが介入しなければ帝国が負ける可能性が高いでしょう。介入して、その先に何を求め、何をなしとげたいのか。教えていただきたい」


 グロリアスはまっすぐセツトを見て、そう問いただしてきた。


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