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戦艦商売

 

 連邦と王国による宣戦布告と対帝国同盟の結成の報は、またたくまに宇宙に広がった。特報を乗せた航宙艦が恒星間ワープを繰り返して各星系に情報を伝達していった。


 衝撃であった。


 これまで小競り合いのレベルの戦いはあったが、決定的な戦争になることはなく、誰もがどこかで安心しきっていた。


 帝国とてその例外ではない。

 だが、ある程度の情報を掴んでいた帝国上層部は、すぐに皇帝レクスザール3世の名の下に宣言を出した。


「連邦と王国の宣戦布告は、独立諸国に対する侵略戦争の宣言に他ならない。領土的野心を持っているのは彼らであり、帝国はただちに独立諸国の独立を守るべく必要な行動を行うであろう」


 最も混乱の極致にたたきこまれたのが、独立諸国である。


 これまで独立諸国は、3大国のどこかに近づき、あるいは等距離を保って国を維持してきていた。

 それが突然連邦と王国によって宣戦を布告され、存亡の危機を迎えることとなったのである。


 元々連邦と関係を構築していた国はまだ良かった。早期に連邦に降伏してしまうという解決策が現実的であったし、連邦もそのように外交政策を展開していた。


 帝国と関係を深めていた国は、レクスザール3世の宣言にすぐに飛びついた。支援を要請し、安全を買おうとしていったのである。

 代償はただではないだろうが、攻め滅ぼされるよりよっぽどましだった。


 王国に近しい国が最も悲惨であった。

 王国は彼らの降伏を認めようとはしなかったのである。これは、王国と連邦の間の密約に原因があった。

 独立諸国は連邦が領し、帝国領は王国が領する、という密約である。

 これまでせっせと関係を作ってきた王国から突然喧嘩をふっかけられ、降伏も認めてもらえないという、理解できないと叫ぶしかない状況に追いやられていた。


「とくに我が国なんて、連邦大統領に名指しされましたからね」


 ヴェツィアは珈琲をすすりながらセツトに語った。


 <ヴァーラスキルヴ>要塞内に設けられた司令官専用のプライベートスペースに設けられた応接室だ。

 リラックスできるよう深く柔らかいソファーが置かれ、池と岩、植物の調和が美しい小さな庭に面している。


 ヴェツィアはたびたび要塞を訪れていた。

 公用のこともあれば、まったく私用のときもある。提督直々の偵察行動だぞ、と笑っている。


 ミツキは最初のうちこそ強く警戒していたが、いまでは緊張して接することはしなくなっていた。もちろん必要な警戒、監視は維持している。

 ただ、セツトにしてみると、珈琲をせびりに来ているとしか思えなかった。お土産として粉を必ず持って帰るのだ。


「来客に出すと、すごい人気なのです。売りたいと言い出す者もいるくらいで。売りませんか?」

「考えておきましょう」


 セツトははぐらかしているが、既に要塞内で豆の栽培を開始していた。収穫できるようになれば安定して供給できるだろう。売るのもいいが、売らずにこうして人に渡すものとして使ってもいいと思っていた。希少価値の維持は重要だ。


「それで、貴国はどうするんです?」


 セツトは尋ねた。


「うん。我が国としては、帝国に助けを求めるしかないということになりそうです」

「なるほど」

「ただ、これまで我が国は王国よりとして帝国にいろいろなことをしてきましたからね。ただ助けに来てくださいだけでは、良くないことになりそうだという話もあります」

「まぁ、そうでしょうね」


 いやな予感がした。いつもの私用名目かと思っていたのが。


「そこで、アズナ殿。一緒に帝国に行ってもらえませんか」


 予感が当たった。


「僕はもう帝国とは何の関係もありませんよ」

「しかし我が国には、あなたしかあてがないのです。どうかお願いしたい。悪い言い方をしてしまうと、今の状況の責任を取っていただきたい」


 わざわざ悪い言い方を、というあたりヴェツィアは誠実であった。


「僕は帝国に行くつもりはありません」


 セツトは断った。


「死んだことになっている人間と会う者はいないでしょうし、なにより、帝都に知り合いはほとんどいません」

「なりませんか」

「申し訳ありませんが、お役には立てません」

「仕方ありません、分かりました」


 ヴェツィアは意外とあっさり引き下がった。


「では、アズナ殿はこの状況でどうなさるおつもりですか?」

「提督、少し付き合ってもらえますか?」


 セツトは立ち上がって歩き始めた。


「ああ、もちろん」


 ヴェツィアがその後を追って立ち上がった。そのさらに後ろをミツキがついてくる。

 セツトはプライベートスペースから出て、港に向かった。港には入港した船を格納しておくドックがある。目的地はそのひとつだった。


 ドック自体には入らず、その脇のドック内を一望できる部屋にはいった。

 ガラス張りになっていてドック内が見渡せる部屋である。


 扉を開けて中に入った。


「これは……!」


 目の前に現れたものに、ヴェツィアは目を見開いた。

 ガラスのそばまで歩きながら、首を振って大きなそれの全体を眺めた。


「戦列艦?」


 ヴェツィアが疑問符を付けたのは仕方のないことだろう。

 大きさとしては戦列艦と同じくらいだ。全長500メートルほど。くさび形の形状をしている。


「戦列艦ではありません」


 ミツキがヴェツィアの言葉を否定した。


「サジタリウス級戦艦。艦名はまだ決まっておりません」

「戦艦……」

「はい。本要塞において建造したものです」

「建造……。すると、これは、まさか」


 ヴェツィアは興奮を抑えきれない様子で、部屋のガラスに張り付いた。


「地球連邦軍において主力艦として使われていた艦です」

「こ、攻撃能力は?」

「対艦装備として主砲24門、副砲27門の計51門のビーム砲を備えております。主砲の半減射程は7千キロ、先日の戦闘で収集したデータから推測するに、貴国の戦列艦に対しては1万キロで砲撃を開始しても十分な戦果をあげられるでしょう」


 ヴェツィアの脳裏に、射程外から一方的に撃ち減らされる悪夢がよみがえった。マーズ=カミノ王国の戦列艦が有効射程と設定しているのは4千キロである。


「では、防御能力」

「先日貴国の戦列艦は一発も射撃をしていないので、推測できません」


 ミツキは言葉を選ぶことをしない。


「心がえぐられるような思いです」

「唯一の攻撃であったフリゲート艦の攻撃を参考にしますと、1千キロ以上からの砲撃であれば、シールドの復元力が勝るでしょう」

「泣いてもいいですか」

「ご自由に」

「いえ、我慢しますよ。ドラグーン相手に戦うとどうなります?」

「ドラグーン級突撃駆逐艦を相手にしますと、双方射程外から速度同期の上戦闘を開始したと仮定した場合ですが、ドラグーン10隻でようやく50%の確率で撃沈されます」


 一対一で戦えばどうなるのか、を尋ねたヴェツィアに対してミツキの回答は斜め上をいくものであった。


「……恐ろしいものですね」


 ドラグーンを10隻集めてようやく互角。

 そんな存在はヴェツィアの想像の外側にあった。


「僕もそう思います」


 セツトもうなずいた。


「さて、提督。これをわざわざお見せしたのは、提督を悲しませるためではありません。僕の提案は、これです」

「これ?」


 どういう意味か、とヴェツィアは思った。


「僕に協力するのであれば、マーズ=カミノ王国にお譲りしましょう」

「何!」


 ヴェツィアの目が輝きを取り戻した。



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