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脱出


 留置場への出入り口は、重そうな金属製の扉でできていた。格子の入った窓がひとつだけあり、内側にドアノブのような物はない。

 向こう側の見張りはまだ誰も覗いてきておらず、こちらの様子は向こう側には発覚していないだろうと思われた。


「ミツキ、開けられる?」

「問題ありません」

「やってくれ」

「了解」


 ミツキが左手の人差し指と中指をそろえると、そこから短い光の刃を発生させた。ミツキの指にはブラスターが内蔵されている。指を2本そろえればカッターモードだ。

 ミツキは入口ドアの鍵があったあたりに刃を走らせ、鍵を溶かして切断した。


 ミツキは溶け切れた扉の部分にそのまま左手をかけ、扉を内側に開いた。

 留置場の扉が開いていく。

 扉の向こう側で、見張りの兵士が1人、椅子に座っていた。兵士がミツキ達に気がついた。

 兵士が何か言うよりも早く、ミツキの人差し指の先から光の弾丸が放たれ、兵士の額を撃ち抜いた。


「制圧完了。行きましょう」


 ミツキが2歩飛び跳ねて兵士のところまで行き、その腰からブラスターを抜き取ると、セツトに差し出した。


「閣下、お持ちください」


 セツトは受け取った。エネルギーをチェックすると、満タンだった。


「出口は分かる?」

「ルートは来るときに記録済みです。ただ、この先で戦闘が発生しているようです」

「戦闘?」

「はい。この声はキュークです。他にも<黒銀の栄光>号の乗組員の声が確認できます」


 セツトの耳には何も聞こえていない。しかし、ミツキに聞こえるならその通りなのだろう。

 どのようにして知ったのかセツトには分からなかったが、助けに来てくれたのだ。おそらく荒っぽいやり方で。


「状況は?」

「一本の通路を巡って膠着しているようです。こちらが動けば挟撃できます」

「よし、行こう」

「了解。閣下、決して私より前には出ないでください」

「わかった」


 セツトも銃の使い方は多少習っているが、ほんのさわり程度に過ぎない。時間をかけて狙って的の端にでも当たれば良い、という程度の腕前だ。


「では参りましょう」


 ミツキがさっさと先を急いで行く。その後をセツトとヴェツィアが続いた。

 戦闘現場にはすぐに着いた。

 T字路になっているところに、セツト達を逮捕した兵士たちが集まって、Tの字の縦の棒の先と対峙しているようだった。

 セツト達はTの字の横の棒の左からT字路に近づいていく形である。


 ミツキは全く警戒の様子を見せずに兵士達に近づいていき、両手の人差し指を向けた。

 ミツキの内蔵ブラスターが光弾を放ち、2人を倒した。キューク達に意識が向いていた兵士達はそこでようやくミツキに気がついた。


「お前らは!!」


 兵士達に動揺が走った。その間にミツキが射撃した。

 兵士達もすぐに応戦する。

 ミツキの放った弾がさらに2人を沈黙させた。兵士達の弾はミツキの手前の空間で何かに弾かれて散った。


 セツトが銃を構えるまでもなく、戦いは一方的だった。

 さらに2人が倒れ、兵士達は壊走した。兵士達をまとめていた背の高い指揮官はいないようだった。

 ミツキは逃げる兵士の背中にむけて銃口を向け、残った兵士達も瞬く間に倒してしまった。


「すごい腕だね」


 セツトは賞賛した。


「彼らが防御シールド発生器を持っていればここまで一方的にはならなかったはずです」


 ミツキは当たり前のように言っているが、そんなものは誰も持っていない。艦艇には装備されているが、個人用のものはない。


「まさか、ないのですか?」


 セツトの表情を読み取ったミツキが驚いた。


「ないよ。ミツキも遺跡の一部だってことがよく分かったよ」


 ミツキは自身を戦闘用ではないなどと謙遜していたが、装備の差があまりにありすぎる。向こうの攻撃は受けないうえにこっちの攻撃は百発百中だなんて。


「失礼しました。艦艇に装備されていたので、てっきりあるものかと。個人用装備にまで確認が及んでいなかった私の落ち度です」

「いや、まぁいいよ。とりあえず、速く逃げよう」

「了解」


 そう応じてミツキはT字路の交点に出て行って、キューク達に自分の存在を知らせた。


「ミツキか?」


 向こうから声が投げかけられた。


「そうです。閣下も一緒です」


 ミツキが返事をして、キューク達が駆けてきた。


「おぉ坊ちゃん、無事で何より」

「キュークさん、ありがとうございます」

「いいってことよ、お頭の決断だ。こっちも助かったぜ。軍警の連中は人質とったら物わかり良くなったんだが、艦隊の奴らが分かってくれなくてな。悪いがくっちゃべってる暇はねぇ、囮で剥がしたここの兵士が戻ってくる前にずらかるぞ」

「はい!」


 セツト達は<黒銀の栄光>号の海賊達と合流して駆けだした。

 ターミナルを出たところでヴェツィアと分かれた。

 追ってくる者はいない。

 エアロックで手早く宇宙服を着た。バギーに乗って船まで行くと、時間が惜しいとバギーはその場において船に乗り込んだ。


 <黒銀の栄光>号は、全員が船内に入ったのを確認したあと、すぐに離陸した。


 メインスラスターを噴射させて宇宙港を離れていく。

 セツトとミツキは、キュークと共にブリッジに上がった。


「おかえり、セツト。楽しかったかい?」


 キティがいつもの調子で出迎えてくれた。


「お頭、ありがとうございます。けど、大丈夫なんですか? この国と契約していたんでしょう」

「契約くらいで私たちを止められると思ったら大間違いだね」

 キティは胸をはった。

「うちの大事な乗組員(セツト)を勝手にしょっぴくあっちが悪い。ま、この先のことはなんとかするさ。キュークもおかえり」

「おう。せっかく助けに行ったのに自力で出てきやがったからな。こんな助け甲斐がない奴だとは思わなかったぜ」

「へぇ、自力でね。やるじゃん」

「それは完全にミツキのおかげですよ」

「ふうん。それで、この先どこ行きたい?」


 キティがセツトに聞いてきた。キティがセツトに行き先の希望を聞くのははじめてのことだ。セツトはキティと一瞬目線を交わした。


「要塞までお願いします。追っ手があると思いますが、追跡されても構いません」

「ほう、完全に撒かなくていいのかな?」

「構いません」


 セツトは断言した。

 キティは少しの間セツトの真意をさぐるようにじっと見つめた後、にこりと笑った。


「いいよ、じゃあそれでいこう」


 <黒銀の栄光>号の方針が決まった。





「逃げられた、だと?」


 モニターの向こう側の男に聞き返されて、長身の指揮官は恐縮した。

 モニターのあちら側にいるのは、第2艦隊の司令官ド=ナール提督である。今回強行策に出ることを強く主張し、指揮下の兵にセツト達を捕らえるよう命じていた。


「つい30分前に無事捕まえたから迎えを送れと言ったのは貴官だぞ。その後みんなで仲良く昼寝していたとでもいうのか?」

「申し訳ありません、司令官閣下。海賊<黒銀の栄光>号が留置施設を襲撃し、奪還されたのです」

「そうか。それなら対象は<黒銀の栄光>号に乗っているわけだな?」

「はい」

「よろしい、なら話は簡単だ。プランB通り第2艦隊と第3艦隊で連中を追う。貴官も艦隊に戻れ」

「は。ヴェツィア提督についてはどういたしますか?」

「奴に同胞を撃つ度胸はあるまい。どうせ奴が艦隊に戻っても追いつけないだろう」

「分かりました」



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