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8.影後女(かごめ) その1

今回はちょっと小分けです。


 祭り、神霊を慰める為に行われる儀式。


 最近は色々混同されたりもしたりするけど根本はそれらしい。


 古くなると供物を捧げたりもするらしいが、良くはわからない。


「この組み合わせってのは珍しいよな」


 俺と鮫島は畳敷きの古ぼけた、しかし掃除はされていて綺麗な部屋で向かい合って座っていた。


「確かに、天利さんとはあの神社以外とはなかなか組まないですからね」


 鮫島は珍しくマスクをしていない、というか目元も以前の様な荒んだ感じはない、歯はいつも通りギザギザっ歯なんだが……。


「今回は確かあれだろ? 俺らみたいに異形が見えたり触れたりする奴らだけで構成されてるんだろ、臨時隊」


「そうですね、僕と天利さん、月島さん、後は何人か選出されてるみたいだけど名前しか知らない人ですね」


 森重は今回は来ないらしい、来られても非常に面倒臭そうであるが、何でも本部に詰めておいて何かあった時のバックアップするらしいのだが……。


「ここってどれ位かかるとこだっけ」


「電車乗り継いで最寄り駅まで6時間、駅から車で3時間ですね」


「確か電車は二時間に一本レベルで駅から3時間って言っても夜走らせたら危なすぎて倍の時間かかるとか言ってたよな」


「言ってましたね、死ぬ程不便な場所って森重さんが言ってましたけど、冗談抜きとは思いませんでしたよ」


 よくこんな所に電気と電波が通ってるなと、日本のインフラを支えてる人たちに頭が下がる限りである。


 こんな特殊な環境でする警備ってなんぞやと思うとこれがまた妙なのである。


「確か今回は制服は着ないで警備だっけか」


「そうですね、僕も驚きましたけど、クライアントからの希望で私服で、というかいてくれれば良いって話ですね、問題が発生したらその時指示を出してくれるそうなんで」


「という事はクライアントの希望は俺たちの見えたり触れたりするアレと」


「そういう事になりますね」


 凄く帰りたい、帰りたいけど帰れない、車ねーし。


「あ、思い出しました」


「何だ? 出来たら楽しいニュースを頼む」


「僕と天利さん以外選出されたメンバーって女性でしたね」


 かえりーたい、かえりたーい、あったかくなくても良いから我が家にかえりたーい!


「それ楽しいニュースなのか?」


「僕のとこの同僚は喜びますね」


「俺にとっては非常に嬉しくない」


 いやまあ普通の男からしたら嬉しいのだろうけどね、うちの会社の女性隊員ってレベル高いらしいし……まあそんな事はどうでも良い。


 俺の言葉に鮫島は他にはーと言いながら顎に指を当てて考えてる様子を見せる、鮫島って口閉じてると割りと普通の好青年なんだよなあ、目元の荒み具合が治まってからはなおそう見える。


「そうですねえ、お祭なんで出店が出てるからそれを楽しむのはどうですかね?」


「それいいのか? クライアントに怒られるんじゃ……」


「まあ、いてくれれば良いって話ですからねえ、村から出なければ何をしていても良いって破格の待遇ですかねえ」


「その破格の待遇が恐いんだけどな、うちの会社はいくらで俺たちをここに派遣したんだか」


 本当に訳が分からない、普通のクライアントは制服着て形だけでもビシっとしてくれという、能力だけ欲しいから他はどうでも良いというのは、言ってしまえばそれが必要になる面倒な事態が待っているに他ならない。


「そういえば」


「何だよ、何してても良いなら俺は部屋で寝てるぞ、気ままに寝るのは良いぞさめーじぃ」


 俺はごろりと横になると鮫島に背を向けて目をつむる、夢の世界サイコー。


「誰がさめーじぃですか、多分ここにいると天利さんの望まない展開になりますよ」


「どういう意味だよ」


「月島さんが来るって言ってましたよ?」


「へ? 月島が?」


「ええ、浴衣姿で」


「浴衣姿で?」


 鮫島の言わんとする事がわからなかった、だが俺の心の中の警鐘は鳴り響き始める。


「月島さん帰国子女じゃないですか、間違った知識を自主的に覚えたらしくて」


 浴衣の中に何も着けてないそうです。


 待って鮫島君、君日本語おかしいよ? 間違った知識を自主的ってどういう事なのさ、浴衣って何か下に下着は着けないとか聞くけど実際は違う、材質が薄く透けたりする事から着用する下着に注意はするのであって、着用しないって文化は無いんだぜセニョリータ。


「それじゃあ僕は出店でも見てきますかね」


「待ったああああああ!」


 立ち上がり部屋から出て行こうとする鮫島をギリギリ捕まえる、逃がさない、絶対逃がさない、今こいつを逃がしたら俺の色々が終わる。


「な、何ですか天利さん」


「お前! 俺を肉食獣の前捨てていくと言うのか!」


「月島さんに失礼だと思うんですけど、それ……というかお二人は恋人同士なのでは?」


「誰がそんな事言ったんだよ!」


 立ち上がって鮫島の肩を掴む、鮫島よ……なんて恐ろしい事を言うんだ。


 俺は清く正しく生きるのだ、普通に俺が好きになった女の子と普通の生活がしたいんだ、まあ普通の生活が何かって言われると難しいんだけど。


「月島さんですよ?」


 鮫島はそう言って俺の右肩当たりを指差してくる。


 と同時に甘い香りが俺の鼻孔をくすぐる、何で気づかなかった、違う、何でいるんだよ。


 俺はギギギと首を鳴らしながら鮫島の指差した方向に首を向ける。


 現実とは実に非情である、事実とは人を絶望に落とすのである、にこやかに微笑んでいるけど目が笑ってない月島の顔がそこにあった。


「じゃあ僕はお邪魔になるといけないので」


 肩を掴んでいた俺の手から鮫島はするりと抜け、申し訳なさそうな顔で後退る、ねえお前俺と月島が恋人関係じゃないってわかってるよね? わかっててお前俺を見捨てる気だよね?


「あ・ま・り・く・ん」


 耳元で名前を囁かれ、するすると腕を体に回され、蜘蛛に捕食される虫ってこんな気分なんだろうなあ、うん、何で月島の腕に黒い靄が……ってよく見たら月島の腕じゃねえ。


『ああああまあああありいいいいぐううううん!』


 もう一度見たそれは月島の顔をしていなかった、顔の無い影、一言でいうとまさにそれ。


 それがざらざらと砂嵐のような声で俺の名前を呼ぶ、マジ勘弁して、鮫島と言えば目の前の状況に呆然とした様子だったが、頭が事態に追いついたのか腕を振り上げ。


「天利君を離せ!」


 るよりも先に、白の半袖ブラウスにハーフパンツという動きやすそうな格好をした月島が月島だった異形の顔に思いっきり拳を叩きつける、殴られた影は勢いよく吹っ飛ぶと壁に叩きつけられる前に霧散する、まるで最初からいなかったかのように。


「あれはいったいなんだっふぐっ!?」


 言い終えるより先に俺の頭は月島の胸に溺れる、柔らかい、柔らかいけどこの柔らかさに負けてはいけない! しかし悲しいかな、男天利孝……圧倒的な腕力差の前に敗北、動けない、そして呼吸が出来ない。


「えーと、月島さん、そのままにしてると天利さん死にますよ?」


「えっ? わぁ!?」


 鮫島のおかげで柔らか地獄から如何にか解放される、良かった……女の胸に抱かれて死ぬって言葉面はかっこいいけど、死ぬほど格好悪い死に方は何とか回避できた、酸素が美味しい。


「天利君ごめんね……天利君が襲われてたらついカッとなって、それでそれで、無事だとわかったら……」


 月島が申し訳なさそうに眉をハの字にする、助けてくれた手前文句は言えない、いや過剰スキンシップはあかんよと言いたいけど、それよりも気になる事がある。


「さっきのあれは何だったんだ?」


 最初に見た時は月島だった、というか確かに月島のはずだった、しかし何度か見ている内に影の化け物になってしまった。


「あれが、今回僕たちがどうにかしないといけない奴ですね」


影後女(かごめ)だっけ?」


「何で君ら知ってるの?」


「森重さんが教えてくれたので」


「そうそう、事前に知っておいた方が良いだろうって事前ミーテイングで」


 ねえ何その重要そうなミーティング、俺教えられてないんだけど。


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