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11.影後女 その4


 出店のあんちゃんもお客さんも全て女、老若男女の男抜き、いや、枯れ果てた感じの爺さん……あ、ごめんなさい御婆様でしたね、ごめんて睨まないでくれ。


 俺はもう視界に入る影後女を気にするのをやめ、出店で買った綿あめを齧りながら月島の話を聞く。


「今回来ている隊員は、男性が天利君と鮫島君で、女性隊員が私と大城友衣(おおしろ ゆい)中井正美(なかい まさみ)、後は白石弓絵(しらいし ゆみえ)だね、全員連絡先を控えているよ」


 呼び出す? と聞いてくる、俺はそれに首を横に振る。


「俺と同じで見えるだけなんだろ? 男じゃないから狙われるわけでもないし、気分が良いわけじゃないが、俺や鮫島と一緒にいなければ特には問題ないだろうからな」


「大城さんと中井さんは見えるだけだけど、白石さんは確かそれほど強力じゃないけど結界張れたよ?」


「月島あああああ! それめっちゃ大事な情報!」


 俺の大声に月島はびくりと肩を震わせ、周囲からはなんだこいつって目で見られる、すいません、だってこの子が大事な情報を隠していたから、白石さん見つければとりあえず明日までの時間稼ぎ容易になるじゃんとね。


 ガッツポーズ取って勝利(?)を確信した俺、しかし次の瞬間月島の口からとんでもない情報を聞かされる。


「えっと……私が試しで殴ったら粉砕しちゃって」


「……は?」


 今この子何て言いました? 粉砕したとか言ったよね、粉々に砕くと書いての粉砕だよね、ねえ何で殴ったの? 神すら殴殺しかける君の拳に耐えられると思うの?


「強度テストは必要かなって……」


 至極真っ当なご意見ですはい、強度テストは大事だね、確かに大事だよ……だけどさ、最初からマックスの負荷は掛けないと思うんだ、最初は小さな力から徐々に……徐々に掛けるもんだと思うんですよね!


「でもでも、私が殴った程度で壊れるなら頼りないかなって、天利君を守るなら私が殴っても壊れない程度じゃないと……」


「月島さんは自己評価を改めた方が良いと思いますよ」


 鮫島も苦笑いしている、ストイックの化身月島あぐりには是非とも鮫島の言葉を聞いて欲しいと思う、月島って本当にびっくりするほど自己肯定をしない、常に日々改善更新をしていく、お化けが苦手なのは全く克服出来ていないが……。


「月島はなんでお化けが苦手なんだ?」


 そう思うと当然湧く疑問、見る事が出来て攻撃も出来る、何を怖がる必要があるのだろうか?


「そういえばそうですね、何で苦手なんですか?」


 鮫島も興味を持ったらしく月島の方を見る、月島はと言えばおろおろして赤面しながら俺と鮫島を交互に見て。


「笑わない?」


「笑いはしない」


「人間誰しも短所がありますからね、それを笑ってどうになるわけでもないですから」


 月島の喉からごくりと唾を飲み込む音が聞こえる、そこまで意を決するような内容なのだろうか、軽く聞いて良い内容では無かったのかもしれない、ならば無理に聞く事も無いだろう、俺は月島に無理に言わなくてもと言おうとしたが、それより月島が口を開くのが早かった。


「殺せないから……」


「へ?……」


「えっ……」


「普通の鉛玉撃ち込んでもナイフで切っても殺せないからだよおおおおおおお」


 涙目で耳まで真っ赤にして途轍もなく物騒な事を言う、割と大きな声で周りから好奇の視線を浴びる、だがしかしそこで月島は止まらない。


「だってだってズルいんだよ! ブービートラップ仕掛けてもすり抜けてくるし!」


 まあお化けだからすり抜けるわな。


「RPG撃ち込んでも笑ってるんだよ!」


 ロケットランチャーの事ですね、はい……対戦車擲弾発射筒って言うらしい、戦車に使うようなモノを撃ち込むってどうなんだろう。


「ようやくさ、純銀の洗礼済み銃弾で追い払えはしたんだけど……うぅ……思い出したら怖くなってきたよぉ……」


 ちゃんと最後に何とか出来ているのは実に月島らしいと思う、周囲の人たちも月島があまりに荒唐無稽な事を言っていたので、ゲームかなんかの話だと思ってくれたらしく、俺たちから視線を外していくが。


「俺は月島の方が恐い」


「右に同じく」


 普通の人間は銃やナイフでどうにもならない時点で諦めると思うんだ、恐怖の対象と言うか、物理的にどうにか出来ないのが月島にはだめらしいが……。


「なあ月島?」


「なあに天利君……」


 俺が腕の血流が止まっているのを認識出来るレベルで腕にきつくしがみつく月島に、溜息をつきながら朗報を教えてやろうと思う。


「お前あの神社の蛇神様殴り倒したよな……」


「うん……」


「んでさっき影後女をワンパンしたよな」


「…………」


 月島は俺の言葉に不安と不思議が混ざった様な顔をする、まだ理解出来てないらしい、というか何で理解出来ていなかったのか、鮫島は俺の言わんとする事がわかったらしく手をポンと叩き。


「月島さん、素手で攻撃したらお化けを消滅させられるんじゃないですか?」


「…………あ」


 月島は何か頭の中で納得がいったらしく、すっと俺の腕を解放すると二度三度と自分の拳を握って何かを確認する様な素振りを見せる、何してるんだろうな、こういうのってバトル漫画とかだと次にするのは……っと、影後女がこっちに近づいて――。


 次の瞬間、月島のしなやかな腕から放たれたストレートが影後女の鳩尾あたりにもろに突き刺さり、体を綺麗にくの字に曲げさせる……えっ、何なん、月島さんどうしたんですかってめっちゃ笑顔が恐いんだけど、影後女がつい先刻と違って何か灰になるみたいに消えたんですけど、えぇ……。


「……殺せる……」


 鮫島には何が起こったか見えてなかったようだが、月島の様子から何が起きたのかは理解したようだ、というか多分俺も鮫島と同じ感じで、うんめっちゃドン引きしている、だってどう見ても笑顔が普通の可愛い笑顔じゃない、あの笑顔はどう考えても、ヤンデレが獲物の男の子を監禁した時に見せるような絶対ヤバいやつだ。


「えーと、月島サン?」


 妙に声が上ずってしまう、俺の声に月島の首がぐりゅんと音は立てないが、それ位の勢いで回って俺の方を向く、ねえ待って、そのヤバい笑顔でこっち見ないで恐いからマジで。


「天利くうぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!」


 でっかい犬とかに襲われた時の気分って多分こんな感じなんだろうな、俺はノーモーションで飛び掛かってきた月島に押し倒される、何でこんな状況になるんですかね?


「やったよ天利君! 私お化けを殺せたよ! やった……やったよ!」


 すいません、どなたかこの状況から助けていただけませんかね、というか生温かい目で見守るのやめていただけませんかね、いやそこのお嬢さん、大胆っとか言って顔赤くしてないで助けてヘルプミー、というか鮫島助けろよ……って鮫島どこ行った?


「月島! 月島!」


「なあに! なあに!」


「呼んでるわけじゃないから! 鮫島がいないぞ!」


 苦手を解消して大興奮だったらしい月島、しかし鮫島が消えたという事に少し冷静さを取り戻してくれる。


「私たちに気を使って?」


 訂正、あんまり冷静さは取り戻されてなかった。


「そんなわけあるか、日常ならいざ知らず、今の現状で離れるメリットが無い、それにあいつは何だかんだ真面目だ」


 月島のお化け苦手が完全にわからない状態で、鮫島は俺の傍から離れる事は無いだろう、そうなると次に考えられるのは、影後女から攻撃……周囲に影後女がいない、何でいない?


 注意深くあたりを見回してそれに気づいた、気づかれないように隠ぺいしていたのだろう、先刻まで鮫島の立っていた場所から、タールのような真っ黒な水たまりが地面に吸い込まれるように消える所だった。


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