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10.影後女 その3


「ようこそおいでくださいました」


 巫女さんっていうと黒髪ロングでおしとやかー、みたいなイメージって一定層にはあると思う、影後女たちがついて来なくなってからまもなくついた神社、その鳥居の下にそのまんまイメージ巫女さんはいた。


「警備会社の者です……えーと」


「鮫島様に月島様、それに……天利様ですね」


 待って、何か今俺の名前出てくる前に間が無かった? 一応俺この人とは初対面だよね?


「大丈夫ですよ天利様、わたくしと……申し遅れましたね、わたくしは御代志ツバメと申します」


 仕事モードの月島に似た、けれどどこか違う凛とした様子の巫女、御代志は大丈夫というけれどすんません何が大丈夫なんですかね。


「この度は愚姉の愚行の為にお手数をおかけして申し訳ありません」


「いえいえ、頭を上げて下さい、僕たちはお金で御代志様に雇われている人間ですからね……それよりも」


 恭しく頭を下げてくる御代志に、鮫島が慌てた様子で手を振り頭を上げる様に促す、御代志は頭を上げると少し厳しい顔をしていた。


「はい、御三方がいらっしゃるのはわかっておりました……御仲間の方たちには使いを送ったので後程いらっしゃると思いますので、まずはこちらへ」


 俺たちは導かれるまま鳥居を潜る、鳥居を潜った瞬間、明らかに空気が澄んだものに変わったのがわかる、なるほど祭られているのが呪われてそうな物でも、神社と言う空間は別物なのかもしれない。


本殿に案内されると、大きな祭壇に置かれた箱を御代志がこちらに持ってきて開ける。


「こちらが影後女たちを封じている巫女の髪になります」


 軽く100年以上は経っている髪の毛は、全くと言って良いほど劣化は見られず、艶やかさを保っていた、その髪に束ねる様に結ばれた何本もの髪の毛があり、その内の幾つかが真っ白な白髪だった。


「毎年巫女の命日に祭りを行い、代表の巫女が自らの髪を一本巻き、封の力を強めて参りました……ですが」


 御代志は一度切り、悲しさと怒りの入り混じった様な表情を浮かべながら、白髪に触れる。


「姉は聡明で力もあり誰にでも優しい人で、村の者たちからも慕われていました……なのに最悪の形でわたくしたちを裏切り捨て去りました」


 すると御代志の触れた白髪はまるで灰の様にパラパラと崩れてしまう。


「巫女は純潔でなければ力を失います……しかし例外として真に愛する者と結ばれたならばその力は失われず、更に強いものとなるのですが見ての通り、言い伝えで聞いただけでしたが、まさか力が失われたらどうなるかを自分で目にする事になるとは思いもしませんでした」


 愛の力って思ったよりも偉大なのね、愛の力……俺とは無縁だな、うん。


「一つ不思議に思ってる事があったんですけど、聞いても良いですかね?」


 空気を変える為か少し考えた様子を見せてから、鮫島が御代志に質問を投げる。


「僕たちって知られなければただの警備会社なんですけど、どこで僕たちみたいな特異な人間が雇われているって知ったんです?」


 そういえばすっかり忘れてた、最近変なモノを見る頻度が増えてきて感覚が麻痺していたらしい、蛇神の神社の時は森重のツテという話だったが、今回の仕事はどうやら違うらしい、襲われかけた……というか生餌に使われるならそれくらい知っておきたい。


「身内の者がそちらに努めておりまして、福原という……」


 福さぁぁぁぁぁん! 身内の為に身内を売りやがったな畜生め! なるほど、なんで霊とかに語り掛けれるなんて力があるってこういう所の出だったのねと。


「福さんが……なるほど、お客様に探りを入れるような事を申し上げてすみません、僕も天利さんも何も知らないで生餌になるのは流石に気分が悪いので」


 鮫島もそう思っていたのか、というか鮫島の場合俺より面倒なのを相手にしないといけないんだもんな、そりゃ聞きもするか……鮫島の言葉に御代志は申し訳なさそうな顔をすると頭を下げてくる。


「こちらこそ申し訳ありません、突然の事に他に手は無く頼らせていただきました、全てが滞りなく済んだ暁には、相応のおもてなしをさせて頂きます」


「いやいや頭を上げて下さい、それに相当な額を頂いてると森重も申しておりましたので、僕たちは仕事をするだけです、ねえ天利さん?」


 なんでこのタイミングでそんなボール投げてくるのさ、これ俺頷かないと空気読めない子になっちゃうじゃないか。


「ちゃんと金貰ってんだし、仕事っすからね、やりますよ……」


 自衛出来る鮫島と自衛出来ない俺、思った以上にやばそうなんで本当は帰りたかったのにこれ完全に帰れないよね、帰ったら悪モンじゃねえか完全にこれ! そもそも帰れないけど。


「それで、言い方悪く生餌と言いましたが、結局僕たちは何をしたら良いんですかね?」


「はい、明日の正午の儀式の終わりまでこの村の範囲に留まっていただければ」


 いるだけで良い、ならばこの神社の敷地内に留まれば……そう思う俺の希望を打ち砕くのは鮫島の視線、その先には影後女が二体居る、鮫島にも見えるって事は村の中にいる影後女よりもヤバい奴。


「まあ、本体に当たる髪の毛があるって事は、当然より強いのがいますよねえ」


 神社が神聖な場所だから村の影後女は来なかったんじゃない、自分たちよりもヤバいのがいるってわかっていたからこそ来なかったのだ、幸いにして向こうはまだこちらの様子を窺っているようだが、いつこちらに来るかもわからない。


 知性が有るのか無いのか、怨念の集合体と言うべきモノに対してその考えは間違っているのではないかと思う。


「一応、村の地図をお渡ししておきますので、どうかお役立てください」


 御代志が俺と鮫島に地図を渡してくれる、俺達はそれを受け取ると本殿を出て境内を足早に通り、鳥居を抜けた所で振り返る。


 本殿の屋根に3体の影後女の姿が見えた、どいつも村のとは違う、目を背けたくなるような悪寒を放っている、鮫島にも見えているのだろう、緊張した面持ちだ……月島は。


「天利くぅぅぅん、はやくいこうよおぉぉぉぉ」


 半ベソだった。


 とりあえず俺達は神社から離れながら地図を確認する、少し古い感じの地図、神社は村の北東の近くにある、西が更に山奥へと続く道となり、南西に外界へと続く道、後は商店だったりなんだったりがちらほら。


「すんげーざっくりだな」


 正直な感想だ、だが分かりやすいと言えば分かりやすいのが、神社と村の以外の方に向かえば村から出る事になるのはよくわかった、御代志は俺達が動きやすいようにこの地図を渡したわけではない、俺達に地図の範囲から逃げ出すなって意味で渡したのだろう。


「この地図の範囲から逃げるなって意味なんですかねえ」


「だろうな、綺麗な顔してあの御代志って巫女も腹の中がわかんねえな」


 信じられるのは鮫島と月島だけ、うちの会社の女性隊員も大丈夫だろうけど、名前も面も知らない、あまりに興味が無い、というか興味を持とうとしなかった自分を恨む、鮫島も女性隊員が選抜されてるくらいしか知らない、さてどうしたものか……。


「なあ? 月島」


「な……何、天利君」


 村の方まで戻って来てるようで、出店もぼちぼちあるし人もいるが影後女もそこそこいる、神社のヤバい奴の後なのからか、少しびくついているが月島は落ち着いているようだった。


「月島ってさ、今回選抜された女性隊員わかるか?」


「わかるよ? というか今回の臨時警備の隊長は私だよ?」


 きょとんとした顔で月島は俺を見上げてくる、鮫島が話を進めているからてっきり鮫島かと思っていたのだが、鮫島の方を見ると苦笑いを浮かべ。


「すいません、すっかり忘れていました」


 ほうれんそうって大事だと思うんだ、鮫島よ。


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