一夜の集い④
まだ続きます。よろしくお願いします。
夜11時も周り、各自教室に戻り就寝するよう顧問より指示があり解散となった。もちろんそのまま眠るような者はいるはずもなく、ゲームをする者、再び肝試しに行く者、長い夜を各々楽しんでいた。俺達は学校を脱け出しシバケンの家に行き一服をしにいった。外は夜も更け冬の空気を濃くしていた。白い息が真っ暗な空へと吸い込まれるように消えていった。どこか楽しい時間が過ぎていったような儚い思いを抱き、あと僅かな楽しい時間を大切にしようと友人たちの笑顔を見回した。シバケンの家では両親も居り、よく集まってはタバコや酒の臭いをさせて帰って行く悪友というレッテルを貼られており、迷惑をかけると思い早々に学校へ戻ることとなった。学校に戻るとトランプやゲームをする気分にもならず、ダラダラと下らない冗談や音楽を聴いていた。
すると同じクラスの一人がトイレから戻ってこないことに気付き、トイレにも居ないことが分かった。その時同じく女子の教室でも戻ってこない人がいると騒ぎが起こり始めた。隠れて逢っているのではないかと、野暮な捜索隊が結成されることとなった。そうなると男子も女子も乗り気になり、各階にチーム分けした捜索隊と指示を出す指令室といった具合に、一同が団結しだした。俺達は捜索隊になり、5階を探すこととなった。5階は文系の部室や倉庫がある。かなりの部屋数があるため、見張り役と室内の捜索役に分かれ、一部屋づつ調べていくことにした。俺は廊下の見張り役で室内を調べている最中に逃げていく者がいないか見張っていた。残り半分くらいまで調べたところ、急な目眩が襲ってきた。地震でも起きたかのように地面が不安定に頼りなく揺れている感じだった。物音はしていないため地震ではないはわかったが、ただ立って見張っていただけなので、目眩とも考えづらかった。元々夜の学校なので静かなのは当たり前なのだが、ふと室内を捜索しているはずの友人たちの気配もしないことに気付いた。急に不安になり室内の友人達に声を掛けた。しかし誰もいなくなっている。慌てて階段を降り、教室に向かうと教室にも誰一人姿がない。それどころか用意した荷物も布団などもない。いつものように机が並んでいた。
「これはスポットか?」
思わず口に出した言葉に、背中に冷たい滴が落ちたように全身に緊張が走った。これまで気付かぬ内にスポットに入る経験はあっても、時間が経過した程度で、これは明らかに違う。今がいつなのか、そもそも同じ世界ではなくパラレルワールドのような別の世界だとしたら。考えれば考えるほど絶望的な状況に陥り、頭の中がじんと痺れたように鈍くなっていくのを感じる。
学校の外はどうなっているのか、ふと窓から外を眺めると、信号や車は動いている。いつの間にか音も聞こえていた。しかし決定的に感じる違いがあった。寒さだ。つい先程まで外にいたのでわかるが、気温が全然違う。確実にさっきまでとは全く違う別の時間軸に移動している。呆然と立ち尽くす中、微かな気配に気が付いた。上の階からコンクリートを伝わり足音が響いて来る。誰かがいる。学校の人であれば急いで階段を降りてきた際の足音で気付いたはずだ。追ってこないことを考えると、スポットの事を知る人物か、異世界の住人。どちらにせよあまり友好的とは思えない存在だろう。しかし元の世界に戻るにはその正体を確かめるしか手段がない。
なるべく物音を立てないように階段へむかうと、ちょうど階段を降りてくる足音が聞こえてきた。息を殺し身構え、何か武器を持ってくればよかったと後悔したが、そんな余裕はもうない。捕まえて元の世界に戻してもらうしかない。相手はもう階段の踊り場を曲がって降りてくる。月の明りが背後からその姿を浮かび上がらせ、女子であることが分かった。意を決し飛び出し腕を掴んだ。
「痛い!びっくりさせないでよ。」
捕まえた相手は何と日向巴だった。
意外な出現に頭が真っ白になった。
「驚かせておいて、君の方が驚いてどうするの。」
彼女の冷静な言葉に堰を切ったように取り留めのない言葉が出てくる。
「お前が犯人か!どこから来た。今はいつだ。どうやって戻る!」
唖然として見つめる彼女のおかげで、自分が取り乱している事の気付いた。渇いたのどに唾を流し一呼吸すると少し冷静さを取り戻した。
彼女はその質問に順序良く説明し、スポットの発生を感じ5階に駆け上がると、俺がスポットに飲み込まれたことに気付き、スポットに入り後を追ってきた。今がいつかもわからない。
ただこのスポットを発生させた奴はこの近くにいるだろう。そいつがこの一連の現象の答えを知っているだろうと。
「犯人が分かるのか?スポットは故意に発生させることが出来るのか?」
「今回のスポットは今までとは違うみたい。故意にできるとは思っていなかったけど、明らかに作為的なものを感じる。想像を超える結果が待っていそうね。」
そう言うと彼女は微かに笑みを浮かべた。月明かりが色白な肌を一層青白く輝かせていた。