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そして僕は旅に出た。  作者: 高天原
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一夜の集い②

まだまだ頑張ります。よろしくお願いいたします。

翌朝テレビでは初雪のニュースが流れていた。

例年より早い初冠雪の映像に、身震いしながらコーヒーを飲み、ぼんやりと雪景色と季節外れの幽霊騒動に一人苦笑していた。幽霊にとってみれば季節など関係ないのだろうが、夏の風物詩である肝試しを冬に行うというのはどこか可笑しかった。

学校では冬支度に身を包んだ風景が広がっていた。そんな中、一夜の集い実行委員がC組を中心に結成されることとなった。防寒対策や寝具さらに夕食と朝食の用意など必要経費が算出され、参加費用の設定や安全対策、使用後の清掃などが発表された。PTA側より体調管理や衛生面での注意も入り、一度中止も求められたようだが、実行委員が事前にこういった対策も想定しており、学校側は生徒の自主性を尊重し、実行委員より報告のあったルールに基づき、強制ではなく参加希望者のみに限定する形で認可が得られたのだった。

しかし、受験前の生徒には寒さや参加費用は効果があり、参加希望者は数を減らすこととなった。そうなると反対に参加したくなるのが、反抗期の特徴なのだろう。俺の周りの友人達も参加をほのめかしてきた。肝試しというより、やはり最後のイベントに気持ちが揺れ動いていたのだ。俺達は進学組と就職組で進路はばらばらだった。地元に残る者、進学の為に街を出る者、全員が次の一歩を歩きだそうとしていた。そしていつかこのイベントも、再び会ったときの笑い話に花を咲かせるのだろうと思っていた。もちろん俺達は全員参加することにした。この時俺たち以外の参加者も幽霊の事など忘れていたことだろう。


参加締め切り日になり、数日前の初雪による急激な気温降下により当初想定していた参加人数を大幅に減らし、約80名ほどの参加で締め切りとなった。もちろん実行委員のC組はクラス全員参加を前提にしているので、その他は50名ほどという事になる。それでも3年全体の約三割が参加することになる。

事前説明会が行われることになり、実行委員はタイムスケジュールや役割分担、チーム分けなどの提案を準備しており、スムーズに進行していった。あくまでも自己管理、自己責任を強調していたのが気になるが、全員寒さ対策や健康管理くらいしか考えていなかったと思う。

説明会も最後になり、実行役員より

「今週土曜日午後3時集合、翌日曜日午前9時までとし、全員で最後清掃し終了次第解散します。」

終了後はキャンプ気分で何を持ってくるか話し合っていると、ふと視線を感じた。その先には日向がこちらを見ていた。彼女の眼には俺も浮かれて映っていたことだろう。事実彼女を見つけるまで遊び感覚だったのは確かだ。急に現実に引き戻される感覚に襲われた。

このイベントは本来幽霊騒動から派生した企画だった。そしてその企画は彼女の目論見どおり進んでいると考えられる。だから、説明会の中で自己管理、自己責任を強調していたのだ。万が一にも遊び半分で事故が起きてはならない。だが日向は何かが起きると確信しているのだろう。わからないがそれは必ず起こるとそう直感が叫んでいる。学校全体を巻き込んででも確認しなければならない何かがある。


当日幾分寒さも和らぎ、秋晴れの清々しい一日だった。防寒具のため荷物はふくれ上がったが、見た目ほど重さはなく、荷物を背負うとどこか登山家や越冬隊のような心強い気分になった。

友人達と合流しお互いの荷物の大きさや重さを競い合いながら、一度学校に荷物を置いて、買い出しに出ることにした。学校では既に実行委員のC組のメンバーが部屋割りの準備やタイムスケジュール、役割分担表などを貼りだしたりと忙しそうに動き回っていた。俺達は自分たちの教室に向かい荷物を置くと、午後の日差しが降り注ぐなか皆で窓際の机に寄りかかり、外の風景を眺めていた。俺はこいつらと友達になっていった日々を思い出していた。中でもひと際陽気で短気なヒロは感傷に浸るタイプというよりは、感傷に浸ることを悟られたくないようで、一番に席を立ち買い出しの話を始めてしまった。過去を振り返るより真っ直ぐ前を向いているヒロらしい行動に、一同仕方ないという表情を浮かべ、買い出しへと向かった。

飲み物やお菓子を買い、トランプやUNOも持ってきたと徹夜前提の会話をしながら、一通り買い物が終わると、学校から一番近いシバケンの家に行き一服タイムとなった。こいつらの良いところは唯一タバコを吸わない俺に対して強要しないところだ。皆が同じ行動することが仲間ではなく、それぞれが自分の意見を持ちながらも、同じ価値観であることが結果仲間としてつながっていると考えている。だから多少悪いことはしても、格好悪いことは絶対にしない。そういう奴等だからこそ居心地がいい。

集合時間も近づき、学校に戻るとほぼ全員が揃った様子で、一夜の集いのしおりが配布されていた。内容はスケジュールや役割分担表、部屋割りなど詳細に記載されていて、実行委員の熱意が感じられた。まだ在校生達の部活動が行われているため、各部室や体育館とグランドは部活動が終わるまで使用禁止。それまで男子生徒は教室の片付け清掃及び夜具の搬入。女子生徒は夕食の準備及び食事室の準備と手分けして用意することとなった。早速各教室の片付け清掃をし、合宿用の布団を運び込んだが、男子はやはり寝る気などない。布団は一角に山積みしたまま、準備も一段落すると今夜の話で盛り上がった。健康な若い男女が同じ建物で寝泊まりするとなれば、残りわずかな高校生活に花を咲かせようと淡い期待をし、ベタに肝試しから急展開などの妄想をし、この機会に気になっている女子へ告白しようとする者、付き合っている者は目を盗んでなんて者も少なからずいたかもしれない。全員が浮足立っていた。だがそれは夜が深まるにつれただの妄想であることを知らされる。現実は時として思いがけない事実を突きつけてくる。

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