その後
数日後。卒業式が行われた。
一人一人名前を呼び出され卒業証書が手渡されていく。
日向の名前が呼ばれ、壇上に上がる姿は見えないが、同じく卒業できたことに少しうれしく感じた。
俺は卒業証書を受けると壇上から振り返り、ここに居るみんながただ同じ時間を過ごしたのではな
く、ここに居る全員が俺という人間を作ってくれたことに感謝し深々と一礼した。
その後ヒロが卒業証書を受け取ると、マイクを横取りしパフォーマンスしたことは後々まで伝説
となった。
ヒロは店長と仲良くはなったがやはり進路を優先し、結局告白することもないまま都市部の大学
に進学が決まった。店長との想い出は青春の一ページとして、これから始まる華々しいキャンパ
スライフに妄想を抱かせていた。
柳田と森下は毎年恒例となっている卒業生対在校生の引導試合があり、受験勉強や就職活動で
鈍ったところを在校生が引導を渡すという伝統の引継ぎ試合で、受験勉強の疲れを感じさせない
圧倒的なパワーを柳田が見せつけ、森下達在校生を青ざめさせていた。それでも最後には在校生
が勝利し、代々伝わる卒業生から後輩への夢の引継ぎは無事行われた。
皆それぞれ新たなスタートラインに立った。この街を出ていく者、この街に残る者、進む先はバ
ラバラだけど不安はなかった。俺達は良いか悪いかで動かない。
カッコ良いかカッコ悪いか、それが俺達だから。そしてそれはこれからも変わらない。
俺は地方都市への進学が決まっていたので、この春から一人暮らしの為大学近くの不動産屋を
回っていた。初めての一人暮らし色々と物入りなので、家賃はかなり抑えて駅や大学から少しく
らい離れていても、家賃の安さを優先して探していた。
何軒か回っていると、大学からもさほど遠くない格安物件を紹介された。間取りも申し分なく築
年数こそそれなりに経っていたが、リフォームされていた為全く気にならなかった。
事故物件の心配が頭をよぎったがそこも保障されていた。
窓を開けるとまだ日陰に雪が残っていたが、春の柔らかい風が頬をよぎっていった。
するとチリーンと鈴の音が聞こえてきた。はっと目を開き鈴の音のする方を探した。
チリーンとまた聞こえてきた。その音は塀の上を歩く黒猫から聞こえてきた。
俺が見ているのに気が付くと、じっと俺の目をのぞき込んできた。
その瞳を通して日向が見ているような気がした。
「ここに決めます。」
「はい?まだ他にも物件あるけど。」
「いえ。ここに決めます。」
不動産屋はあまりにも突然の成約に少し戸惑いながらも、手続きの為事務所に電話したり、慌て
て書類を用意していた。
もう一度振り返り黒猫を探したが、既に姿を消し鈴の音もしなくなっていた。
空を見上げると一面の青空が広がっていた。この空と同じくこの広い世界には知らない場所や、
見たこともない風景が広がいっぱいある。
それでもどこに居ようと俺と日向は繋がっている。それだけは確かな事だ。
最終話になりました。
続編も計画中ですので、改めて発表させていた来ます。




