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そして僕は旅に出た。  作者: 高天原
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旅立ち

時間が経ち夢の世界での出来事を少しづつ整理し、日向が戻らなくなった事実を冷静に受け止めることができるようになると、その場にいたみんなに説明した。店長は自分が付いていながら、その危険を子供たちに任せてしまった事を悔んでいたが、むしろ日向でなければ森下も戻ってくることは不可能であったし、そもすれば誰も戻れない事もあり得た。日向だからこそこうしてみんな無事戻ってこれたことはむしろ最善の選択であったし、店長に責任がない事は明白であった。しかし一人の大人としての責任が店長を悩ませていた。日向の親御さんにどう説明していいのかわからず苦しんでいた。そこで俺は日向のお祖母さんに連絡をして、この状況を説明することにした。誰に説明するよりお祖母さんが一番理解できる存在と確信していた。ほどなくして日向のお祖母さんとお父さんがやって来た。横になっている日向を見て、すぐにお祖母さんは体の中に日向がいないことに気付いた。お父さんは救急車や警察に連絡しなければと取り乱していたが、お祖母さんがお父さんの手を取り首を横に振ると静かになり、まず事情を聞くこととなった。そこでここまでの経緯をかいつまんで説明したが、日向が戻らなくなった直接の原因。本当の日向の存在を名を明かすことなく何とか説明するとお祖母さんは静かに頷いていた。


「俺もまだ混乱していて、うまく説明できません。まだ伝えなきゃならない事たくさんあるんですが、今日は許してください。」


申し訳ない気持ちと、情けない気持ちで頭を上げることが出来なかった。するとお祖母さんは、


「すまなかったね。あんたがたの方がずっと怖い思いしただろうに。巴が自分で決めたのじゃから、それは仕方のない事なんじゃよ。」


そう言って頭を上げる事の出来ない俺の肩にそっと手お置いてくれた。


「ゆっくりして、話す気になったらまた家にきたらええ。」


そして日向はお父さんに抱きかかえられながら家に帰って行った。

これが今回の事件の全てだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「この話をするのにこんなに時間がかかってしまって申し訳ありませんでした。」


「いいんだよ。お祖母さんから大体の状況は聞かされたから。それより君の方こそよく話してくれた。」


「いえ、何もできませんでした。あの時森下の夢に入る時、私が私じゃなくなっても、さっきみたいに止めてね。そう言ったんです。でも止める事が出来なかったんです。」


お祖母さんは全ての話を聞き終え目を閉じていたが、


「仕方のない事じゃったな。巴の本当の姿はこの世に出してはならん。巴は国守が一番に守らなきゃならん、神守なんじゃよ。」


「神守?ですか?」


「神守とはその字そのまま神を守る者。我が身を捧げ神を宿し、本来居るべき幽世での肉体の代わりとなる。神様が入る器の代わりになるんじゃ。じゃから巴の半分は幽世に居って、こちらの世界では存在が感じられんのじゃ。」


「では巴さんの精神が全てあちら側に行ったとなれば、肉体の方はどうなるのですか?」


「このままではもぬけの殻、今の時代は機械によって生かされるから、しばらくは生き続けるじゃろうが、肉体が滅びればまた次の神守を探さねばならん。」


「また巴さんが戻ってくれば、元に戻ることもあり得るんですか?」


「戻ることは不可能じゃて。大昔より神守が幽世に捕らわれた事は何度かあっての。一度として戻ったという話はないのでの。残念じゃがのう。」


「実は幽世から戻ってきた後、巴さんのお母さんに会いました。」


「なんと!どういう事じゃ?」


「あまりにも理解できないことだったので、どうやって説明したらいいかわからず、でもとても重要な事を言っていたと思うんです。」


あの時子供の頃の映像がモニターに映し出された後、映像はすべて消えまた真っ暗な画面になり、その画面に自分の姿が反射して映っていた。だが俺の後ろに誰かがいる。慌てて振り向くとそこには今映像に写っていた日向によく似た女性が立っていた。そしてその後ろにはスポットが。


「ごめんなさい。実はこうなることを知っていて、あなたを巻き込んでしまったの。」


「あなたは?」


「巴の母です。」


「日向の?子供の頃に亡くなったと・・・」


「うーん半分正解かな?それより私の後ろにスポットが見える?」


「はい。でもスポットは意図的には作れないと日向が・・・」


「そう霊界と現世を繋ぐいわば霊道。それを私は使う事ができるの。だからあなたが子供の頃、羅刹に魅入られた時もこのスポットを使って逃がしたのよ。いずれこの子が巴を救ってくれるとわかっていたから。」


「でも俺日向を、巴さんを救えませんでした。」


「いえ、私が勝手に巻き込んでしまったのよ。私の方こそ辛い思いをさせてしまってごめんなさいね。」


「無理にでも、強引にでも連れて帰れたんじゃないかって、手を伸ばせば届く所にいたのに。でも自分で決めたことだって、俺を吹き飛ばして、俺は何もできなかった。」


「巴が自分で決めたの?そしてあなたを吹き飛ばしたの?」


「はい。あっという間に俺の分身は消されてしまって。」


「他に何か言っていた?」


「名前を預けるって。俺の名前も預かるって。よくわからなかったけど。」


「あなたは巴の本当の名前を聞いたの?」


「はい。でも絶対に誰にも秘密と言われました。」


「そう、そういう事なのね。ごめんなさい、まだあなたには巴をお願いすることになりそうね。」


「どういうことですか?」


「巴はこの現世に戻ることをまだ諦めてないのよ。その代わりあなたは巴とつながってしまったから、この先色々不便をかけることになるわね。」


「俺と日向が繋がってるんですか?」


「あなたがあの子の本当の名前を忘れない限りね。」


「絶対に忘れないし、絶対に誰にも教えません。」


「これからも巴をお願いね。もう私も時間が無くなってしまったわ。巴にまた会えたら母が謝っていたと伝えてくれるかしら。」


「はい。必ず。」


「約束ね。」


そういって笑顔を見せるとスポットの中へと消えていった。


あの時日向を救う一筋の光が見えた気がした。しかしあまりにも突拍子のない出来事にこの事実を話してもいい人は限られていると感じた。だから今日までずっと秘密にしてきた。


「そんなことがあったのかえ。」


お祖母さんはそれを聞いて深く考え込んでしまった。


「何か大事な事だとは思うんですけど。相談できる内容でもなかったので、話せる機会をうかがっていて、今日まで隠していてすみません。」


お祖母さんが黙り込んだ代わりに、日向のお父さんが代わりに返事をしてくれた。


「いや、よく話してくれた。この話は他にはしてないのかい?」


「はい。森下の夢とは関係ない話と思いまして。」


「何かわかりますかお母さん。」


「おおっ、そうかすまんのう。それで巴の母親が冥界にいることは知っておったかのう?」


「いえ、知りませんでした。」


「まあ良い。訳あって冥界に行ってしもうたが、霊道を使って現世と冥界を行き来することができるのじゃが、その霊道の術というのがまだ、その実態が明らかになっておらんのじゃ。どういう原理を以てその術が発動するのかも、その反動に何が起きるのかも知られておらんのじゃ。」


「俺達はそれをスポットと呼んでました。」


「なに?霊道の事を知っておったのか?それは巴も知っておったのじゃな?」


「はい。巴さんから教わりました。」


「そうか。それでか。巴との最後に名前の交換をしたと言っておったな。これは自分と相手を繋ぐいわば精神の架橋みたいなものでな。誰しも最初に挨拶をすると思うが、巴の場合は命ともいえる本当の名前を明かすことで、相手に自分の命を差し出すほどの強い絆が生まれる。そこで再び戻ってきたとき本来の自分をあんたのところへ繋ぎ止め、もう一人の自分を冥界へと切り離すという事を考えておるんじゃな。」


「じゃあまた戻ってこれるってことですよね。」


「うむ。じゃがこれは他言無用ぞ。神守の力を狙っておる者はたくさんおるでな。」


「もちろんです。」


「うーむ。しかしまたあんたには重荷を背負わせることになるのう。」


「かまいません。むしろ気が楽になりました。巴さんが諦めたのでなければ、必ず戻ってきます。そういうの何度も見てきましたから。」


「こちらこそ、望みができたわい。ありがとう。」


日向の家を後にし、空を見上げるとどこまでも広がる冬の青空は今の心と同じように澄み切っており、あの夢の中のように自由に飛び立てるような軽やかな気持ちにさせてくれた。

日向は以前、自分の存在が希薄な事はその能力に影響していると言っていたことを思い出した。

本当はいつも‘私はここに居る‘‘私を見つけて‘と叫んでいたのかもしれない。

俺が彼女の存在を知ったのは、きっと彼女の声が聞こえたからなのかもしれない。

今度は俺が彼女を迎えに行く。戻って来るのを待ってなどいられない。

そして僕は旅に出た。

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