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そして僕は旅に出た。  作者: 高天原
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覚醒 現実へ

森下の部屋の前まで来ると、ここから先は誰も部屋に入れないよう扉に鍵が掛けられており、森下の許可がなければその鍵を開ける事が出来ないようになっていた。団長は至急の事態のため剣を抜き鍵穴めがけて突進するも微動だにしなかった。体当たりを繰り返し扉をこじ開けようとしたが、日向に止められ後ろに下がると、日向は扇を一振りすると扉は触れることもなく開き、団長は唖然としてその光景を見ていた。そして森下が眠るベッドに近づき目を閉じ何かを口ずさみ始めると、扇を開き森下の頭上にかかげると、窓のような空間が開き、そこから巨大な人の姿が遠くに現れた。


「その檜扇は『國姫』か、随分と久しいではないか。」


「ご機嫌麗しいようで何よりでございます大国主様。この者現世の住人でございますが、こちらの世界の者にたぶらかされ、このようなところに連れ込まれ眠らされております。この者を現世に連れ戻そうと思いますが、何卒お力添えを賜れないかとはせ参じた次第にございます。」


「ふむ、しかしその者自らが眠りを望んでおるように見えるが、如何いたすかな?」


「現世の者であれば現世にて眠るのが理かと。それに乗じて幽世の者が現世に行こうなどと、大国主様の治める世にあるまじき行為と存じ上げます。」


「なるほど。では国姫も現世には参らぬと申すのか?」


「わたくしも半分は現世の者でございます。伴に行くのは道理ではございませぬか?」


「半分は幽世の者であるならば、再びそちは留まるのが道理。」


「わたくし一人の力では再び分かれる事かないませぬ。元は現世の住人この世に繋ぎ止められたことの方が不条理にございます。」


「ではどちらかを選ぶがよい。その者の眠りを覚ますか。そちを再び二人に分けるか。」


「大国主様。森下さんの眠りを覚ましてください。必ず助けると約束したのです。」


「そなたは日向という娘か?なるほどそなたはこの地に残ると申すのか。」


「はい。國姫を現世に連れて行くわけにはまいりません。この地に繋ぎ止めるために私は自らを犠牲にし、皆様のお力でこうやって幽世と現世のバランスを保っているのです。でもこの子森下さんには現世で待っている人がいます。どうか彼女だけでもお救いください。」


「わかった。ではその願い叶えるとしよう。」


「なぜじゃ?なぜわらわはこの地に縛られんとならんのじゃ。」


「國姫よそちの言い分はもっともであるが、これもこの世の理であるぞ。日向という娘のほうがこの世の理をわかっておる。そち達が自らを選ぶようであれば、はるか昔のように再び封印せねばならんと考えておった。だがその娘に助けられたようじゃな。」


「封印。それだけは・・・。いたし方ございません。またの機会をお待ち申し上げます。」


「うむ。その時は必ず来るであろう。それまでその力蓄えておくのだ。」


暫くすると森下は眠りから引き戻され、大国主様の姿も消えていた。

目覚めた森下は状況が飲み込めていないようで、団長はその説明に追われた。ただ時間もないため、詳しい話は元の夢に戻ってから説明することとした。今の世界の状況を言葉で説明するより、実際に見てもらった方が早いと判断したのだ。

団長に連れられ先ほど戦っていた場所に戻ってくると、城は壊され雲は黒く垂れ込み、見渡せる世界はどれも森下が思い描いていた世界とはかけ離れていた。ここで初めて夢の世界ではないことを実感し、底知れぬ恐怖が襲ってきた。団長が森下を支えながら壬・癸のもとまでたどり着くと、日向はまた國姫に戻っていた。


「壬・癸そち達は何をしておる。」


「先ほどの・・・」


話を聞く前に扇を一振りし、見えない重圧で水の球体ごとムカデを押しつぶしてしまった。


「わらわは虫は嫌いじゃ。」


「いや、あの蛇がこの・・・いえ、申し訳ありません。」


「もうよい下がれ。」


「はっ。」


再び空間を切り裂くとその隙間から二人は肩を落としながら去っていった。


「しばらくは好きにするがよい。わらわは気分が悪い。」


そう言うといつもの日向があらわれた。

俺は事態が収束したのを感じ、日向と森下の近くに降りると、夢の入り口までの案内を買って出た。そうして皆を通ってきた暗い森に案内し、目印を見つけるとその上の暗い空間から白い光が差し込んでいる入り口を指さした。後は森下の夢の世界に戻るだけだった。しかしここで日向はここに残ると言い出した。


「何でだよ。もうここを抜ければ元の世界に戻れるんだぞ。」


団長はそのやりとりを苦しそうな表情で見ていた。大国主様との条件を知っているため、あえて口出しはしないし、またその驚異的な力を主である森下の夢に送り込むことも、現実世界に送ることも恐怖でしかなかった。


「君が知っている私は本当の私じゃないの。そして本当の私はこの世界から出ちゃいけないの。」


「だから何でだよ。もうこの上に行くだけで全部終わるんじゃないのかよ。」


「これは私が望んだ事なの。でも最後にもう一つだけお願いしてもいいかな。」


「いつもみたいに有無を言わさず、思い通りにしたらいいだろ。」


日向は悲しそうに笑うと、団長に森下を連れて先に戻るようお願いし、団長は深々と礼をすると空に舞い上がり夢の世界へと戻っていった。


「お願いというのは、君の名前を私に預けてほしいの。私の本当の名前をあなたに預ける代わりに。」


「俺の名前?それに日向の本当の名前って?」


「私の本当の名は『吉野神楽(國姫)』これは絶対に秘密の名前。誰にも話さないで。」


「吉野神楽(國姫)それが本当の名?」


「さあ君の名前を口に出して。」


「俺は『陣内亮太』でも本当の名前も何もない。ずっとこの名前だ。」


「陣内亮太。ありがとう。絶対に忘れないわ。」


そう言うと扇を開き一振りすると、俺はその風に飛ばされ消されえてしまった。

目を開くと体育館に戻っていた。実体のように動き回っていて分身であることを自分自身忘れていた。だが今まで一緒にいた日向はあの世界に残ってしまったのだ。慌ててモニターに目を向けると、森下と団長が映っていた。団長がリストバンドを渡すと、森下は泣き崩れている姿がみえた。そして二人は姿を消していった。どうやら森下は目を覚まし現実世界へと戻っていったようだ。そうすると森下の夢の世界はゆっくりと暗くなっていき、やがてモニターは何も映し出さなくなった。日向を連れ戻す手段が失われてしまった。呆然とモニターを眺めていると、一つのモニターに映像が映し出された。


「何だよこれ。夢んだろう?なんでだよ!」


あの記憶。小さい頃裏山でかくれんぼしていた。


「何でこんな夢が出てくるんだよ。」


必死に鬼に見つからないように隠れなければ。

そして次のモニターにも。


「日向を探さなきゃ。」


かくれんぼ。いや違う誰かがいた。


「どこだよ日向。」


鬼は本物だった。手は真っ赤な血に染まっていた。


「出て来いよ日向。」


鬼に見つからないように、スポットを作りその中へ俺を。


「帰ろう。もう帰ろう。」


日向に似た女性は俺を逃がすために殺されたのだ。


「一緒に帰ろう。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺はその後夢から覚め近くで眠っている日向を眺めていた。現実世界に戻ってきたのだ。

それに気付き店長は日向を起こそうと揺すってみるが一向に起きる気配はない。何があったのか問い詰められたが、その時の俺はこれが現実世界ではなく、先ほどまでいた世界が本当の世界のように感じ、その問いかけもどこか遠い世界の声に聞こえていた。ただ日向は静かに眠っているように見え、俺は涙がこぼれ落ちていくのを瞬きもせず、ただ溢れ出るままにしていた。

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