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そして僕は旅に出た。  作者: 高天原
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検証と進展

あの出来事から数日経ったが、何一つ解決することもなければ異変が起こる事もなかった。ただあまりにも衝撃的な出来事に、友人にすら相談できずにいた。もちろん日向巴にさえ。これまで接点のなかった彼女と接することもそうだが、何よりも得体のしれない現象が起こる事が怖かった。しかし誰にも相談できず、いつ起こるともわからない恐怖に、助けを求めるのは時間の問題であった。

彼女と同じ中学出身や元同じクラスの奴らを探しては、それとなく彼女の情報を得ようとしていた。その誰もが平凡や普通の人だと言う。それどころか同じ出身者ですら日向の事を記憶していない者もいた。あまり印象に残らないタイプの人という認識であった。

秋雨降る、暗く寒い日だった。

友人たちといつものように帰り道を楽しんでいると、ふいに前を歩く彼女を見つけた。

気付いてしまうともう意識は彼女に向いてしまい、友人達との会話も散漫になり、ただこのまま見失うことなく前を歩いてくれと願っていた。

聞きたい事、確かめたい事が頭の中を駆け巡った。そんな気持ちを知っているかのように、駅まで見失うことなく後をつけることができた。しかし駅前交差点で駅を背に行ってしまった。駅に着くと友人達に寄りたい所があると早々に別れを告げ彼女の後を追った。

駅から国道に出たところで彼女の姿を発見したがそれ以上追う事を躊躇ってしまった。

「・・・本屋。」

あの恐怖が込み上げてくる。初めて彼女と出会った時と同じ場所。そこに彼女は入っていった。

血の気が引いていくのを感じ、国道を挟み一歩が踏み出せないでいた。すると二階の窓に彼女の姿を見つけた。彼女も俺が追って来ている事を知っていたように、中に入ってくるよう促された。挑発しているようなその仕草に、恐怖より怒りが勝った。

「馬鹿にするな!」

心の中で叫んでいた。

店内に入り、そのまま2階へと続く階段を昇ると、窓際まで足早に駆け寄ったが彼女の姿はなかった。すると背後から突然声を掛けられた。心臓の音が聞こえたのではないかというくらい、大きく反応してしまった。

「案外小心者なんだね。」

驚いた恥ずかしさもあるが、勇気を出してここまで来たのに更に不意打ちをしてくるその態度に再び怒りが込み上げてきた。

「お前が上がってこいと合図したから来てやったのに、何考えてんだよ!」

怒る理由にはなっていないが、感情をぶつける理由は何でもよかった。不安と苛立ちをぶつけたかっただけだった。

「悪い悪い。この演出は余計だったね。でもここに来てもらうにはこうするのが一番だと思ったの。」

そう彼女は俺をここに来させるため、全て仕組んでいたのだ。日向巴とはそういう人間なのだ。

数日何もなく、俺が彼女の情報を聞き込みしていることも、帰り道にわざと前を歩いていたことも。そして俺が彼女の後を追ってくることも。全て彼女の計画通りに進んでいたのだ。

では、なぜそうまでして俺をここに誘導したのか。

「俺をここに来させるため?」

無い頭を振り絞りたどり着いた質問は彼女を満足させるに十分だったようだ。

「そうここ。この窓際が全ての意識の外側。私はスポットと呼んでいるけど、人の意識から外れた場所。この場所自体が存在する事を忘れてしまうような空間。」

「まさか?何の変哲もない、しかも窓際で外からだって見える場所だぞ?」

「見えるからといって、必ずしも見ているとは限らないよ。実際あの日君はここに来たでしょ?」

言葉もでない。そうあの日俺はここに居た。だがその時は何も感じなかった。この前のように急に暗くなっていたら、窓から外が見えるこの場所では気が付かないはずがない。

「気付かないことが、まさに意識の外なんだよ。」

まるで話が見えてこない。意識しなくても気付くだろう。覚えてはいないが、本を読んでいるような場所ではない。周りは見えていたはずだ。

「まあいいわ。それよりもっと面白いことが分かったの。君はスポットを見れるようになっているのよ。」

「スポットを見えるようになっただと?」

「その証拠を見せてあげる。百聞は一見に如かずだよ。その方が話が早い。」

支離滅裂だ。何を根拠に彼女が言っているのか全く理解できなかった。

「ちょっとついて来て。」

まだこの店にスポットが存在するのか?彼女のように感じる能力ではなくても、見えるのであれば来た時に見えていたはずだ。

「ちょっと待て、出るのか?」

言ったそばから何もなかったように店を出ようとする。彼女の行動は理解不能だ。

「いつまでもスポットは残らないよ。それにあの場所は認識しているしね。」

迷路のような会話に質問するとさらに深い迷路に誘い込まれそうになる。

店を出て、再び国道を渡ると立ち止まり振り返った。

「私の合図で店に入って来たんだよね。」

「お前がこっちに来いって合図を・・・」

そう言いながら店の2階を指さすと、自分の目を疑った。指の先には確かに窓はあるが、店内を見ることはできなかった。

「マジックミラーだよ。中からは見えても、外からは見えないようになってる。」

俺はあの時、確かに日向が見えていた。

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